伴昌彦(大学時代の同級生)
笹岡君とは大学で同じクラスで、1~2年の頃に彼が主導して立ち上げた自主ゼミ「自然保護研究会」で一緒に活動しました。
当時は日本が東南アジアの熱帯雨林を破壊してきたことが批判されており、マレーシアのサラワク州から先住民が来日し、自分たちの命の糧である森を壊さないでと訴えていたこともあります。自主ゼミの中心的なテーマになったのが、このサラワクの熱帯林破壊と先住民の問題です。安価な熱帯材合板はコンクリートパネルとして使い捨てにされ、大量消費されていました。これに対して何か出来ることはないかという議論を経て、笹岡君の提案で我々が通っていた東京農工大学の所在地である府中市に対し、公共工事から熱帯材の使用を停止してほしいと呼び掛ける活動を行いました。この結果、市は公共工事への熱帯材使用停止の方針を採択してくれました。
活動の中で、自治体に提出する署名集めなども行いましたが、自分には不特定多数に向けて呼びかける活動は気恥ずかしく、消極的でした。一方、笹岡君は臆することなく、学食の前などで学生相手に署名への協力を呼び掛けていました。
活動家気質だった彼は、この問題に限らず学内で演説することがありましたが、とうの昔に学生運動の灯は消えて活動家は絶滅危惧種となり、華やかだったバブルの残り香漂う時代。当時合コンしたくない大学No1に選ばれたというダサさが売りの農工大にあっても、着古した革ジャン姿で拡声器片手にアジ演説する姿は一種異様で、生まれる時代を間違えたかのようでした。しかし、意識せずに時代錯誤を突き詰めた彼には一周回った格好良さと、実は時代の先端を行く先見性があり、論理的で淀みない弁舌には説得力がありました。
当時、彼と私は同じボクシングジムにも通っていました。
通う時間帯や熱心に通っていた時期がずれていて、一緒に練習する機会は稀でしたが、一度マスボクシング(寸止めのスパーリング)で対峙した際は、若干ぽっちゃりした体形に似合わないスピーディで見事な動きを披露してくれました。
左右フックを振り回して前進するファイトスタイルは、困難に真っ向から立ち向かう彼の生き方そのもののようでした。
大学入学当初は、彼も私も野生動物の生態研究に憧れていましたが、お互い自主ゼミなどの活動を通じ、経済活動によって貧困や環境破壊が作られるシステムへの疑問が深まり、この大学での学びの先に自分の道があるのかと迷い始めます。
笹岡君は学部時代後半から熱帯の地域研究を志すようになり、東京大学の林政学の研究室に通って大学院に進み、インドネシア地域研究の専門家としての道を歩み始める一方、私はそのまま生態学を学んで修士課程まで進みましたが、その後は様々な仕事に就きました。フリーライターをしていた時には、パームオイルの問題などについての記事を書き、サラワクの先住民を現地取材したりしました。振り返れば今の自分の生き方の原点には、笹岡君たちとの大学時代の学びがありました。
共通するテーマに関心を持ちながら、お互いその時抱えていることに精一杯で、卒業後は一緒に活動することはありませんでしたが、それぞれの関わる団体主催のイベントに参加したり、北大に赴任した後も新規就農した私の畑を訪ねてきてくれたりと、ずっと付き合いが続いていました。そんなわけで彼のことは勝手に同志のように感じていました。
私が自分の農園のブログに描いている4コマ漫画をとても面白がってくれて「出版しろよ」と勧めてくれたことがあり、「学生に買わせてお前の授業で使ってよ」と冗談を返しましたが、本当に彼と本を作れれば面白かったなと今になって思います。
最後に会ったのは2022年の秋。彼が出張で足尾銅山の視察に行った時に同行させてもらいました。学生時代と変わらず好奇心と正義感とを持ち合わせ、熱心に展示を見たり記念館のスタッフに質問をしたりして、鉱毒事件の実態や当時の足尾の人々がどんな暮らしをしていたのかを学ぼうとしていました。
その3年ほど前に学生時代の自主ゼミ仲間とおよそ4半世紀ぶりに集合し、高野山を旅行していたので、今度また学生時代の仲間で集まって旅行しようと約束しましたが、まさかそれがこの世で会う最後になるとは・・・。
彼が亡くなった数日後、不思議な体験をしました。知人に勧められて参加したイベントで、たまたま笹岡君を知る人に会ったので、その知人に「勧めてくれたイベントで、先日亡くなった学生時代の友人の知り合いに会いました」とLINEで報告しました。そこから笹岡君がどんな人物だったか等という、彼についてのやり取りになったのですが、唐突に「お友達はビールお好きでしたか?」と質問されました。
私にメッセージを送ろうとすると、突然脈絡なくビールジョッキの絵文字が現れ、消そうとしても消えなかったそうです。また飲もうというメッセージだったのでしょうか。そうだとすると彼らしいなと思いました。「笹岡!そっちで心置きなく飲んでるか?今度みんなと一緒にビール持って北海道に行くよ」見えない所にいる彼に伝えました。