大石高典(大学院総合国際学研究院)
井出有紀(国際社会学部アフリカ地域専攻、2016年度入学)
大石ゼミでは、オンラインで行なわれた2020年度東京外国語大学オープンキャンパスの一環で、7月26日にオンライン会議アプリケーションzoomをもちいて模擬ゼミをおこないました。この模擬ゼミは、受験生や高校生を対象に学部専門課程で学びの中心的な場となる専門演習の授業の雰囲気を味わってもらうためのものです。
今回は、文化人類学という専門分野とアフリカという地域の両方に焦点を当てた内容になるように、以下のようにテーマ設定をしました。
テーマ: アフリカでのフィールドワークからジェンダーを考える
概要: 文化人類学では、異文化に入り込むフィールドワークという方法論を使って、自らの文化や社会を捉え直します。今回は、現代社会のジェンダーや「生きづらさ」について、カメルーンとガーナでの現地調査から考えます。
最初に、担当教員の大石が趣旨説明を兼ねて、ジェンダー問題のアフリカにおける文脈、文化人類学ではなぜフィールドワークが重要な研究手法になっているのかを説明しました(図1)。
図1: レクチャーのスライド表紙
次に、現地調査を続けているカメルーンの狩猟採集民バカ・ピグミー社会での狩猟採集活動や家事・育児の分担のようすを写真や映像を交えて紹介しました(図2)。狩猟活動や農作業などで、男女の役割分担は決まってはいるものの固定してはおらず、状況に応じて臨機応変に変わります。育児には、キャンプに居合わせた者のほとんどが関わり実の母親だけに負担が行くわけではありません。父性については、生物学的な血縁よりも「父親」としての社会的な振る舞いが重視される傾向があります。
図2: バカ社会の男女の役割分担の説明
次に、ゼミ生の井出が「「家族」ってなんだろう?――ガーナ 拡大する家族研究」の題で、ガーナ留学中に出会った家族のかたちについて写真やエピソードを交えて紹介しました(図3)。
図3: ゼミ生による発表はガーナの家族がテーマ
ホームステイ先での経験から、「家族」についての捉え方が広く柔軟なことに驚いた井出は、家族とはなにかを考え始めます。ガーナでは非公式な養子縁組である子の引き取りを通じて複数の家庭をホームにし、複数の「親」を持って暮らす子どもが少なくありません。
一時的な雇用関係や副業への弟子入りがきっかけになって「家族」づきあいが広がっていきます。都市化が進むガーナ社会では、必ずしも血縁にこだわらない、柔軟な繋がりとして「家族」があり、生活上の相互扶助の役割を担っています。このことが個人の孤立を防いでいるのではないかと井出は考察します。
日本では、ワンオペ育児など、特定のジェンダー・世代への過剰な負担が問題になっていますが、ガーナの緩やかな家族観から学ぶことで課題解決の糸口が見つかるかも知れません(図4)。
図4: 日本社会の「あたりまえ」再考
Zoomのブレイクアウトのグループ分け作業の間、質疑応答を行ないました。参加者からはたくさんの質問が出て、模擬ゼミは50分間の予定でしたが、ここまでで時間になってしまいました。説明をして、残れる方には残って頂いて予定通りグループワークと全体でのディスカッションを続けました(ほぼ全員が最後まで残って参加してくれました)。
前半の発表では、カメルーンとガーナの対象社会では、家族概念や性役割が固定化されていないこと、自然や社会に埋め込まれた仕組みを通じて柔軟に運用できるようになっていることが共通する知恵として浮かび上がってきました。これらも参考に、グループディスカッションでは、
(1)アフリカ社会で「ジェンダー平等化」を進める際にはどのような点が考慮されるべきなのか?
(2)アフリカ社会のジェンダー研究は、日本におけるジェンダー課題の解決に、どのように役立てることが可能なのか?
について話し合ってもらいました。
(1)では、家族や福祉について、国や公的機関が担っている内容や程度がアフリカ諸国と日本ではだいぶ違っている実情に気付いたというコメントがありました。それを踏まえて、アフリカ社会に根付いている非公式な社会保障の仕組みを活かしながら、国の果たす公的な役割も改善していくという意見が出ました。
(2)では、日本では自然と核家族の中での課題解決が想定・要求されがちなことについて問題提起があり、核家族の壁を越えた助け合いや知恵の共有の工夫ができないかいくつかアイデアが出されました。例えば、違う家族から学ぶ「家族留学」や、都市地域内でもマンション単位など手や足が届く範囲で相互扶助を可能にする仕組みが作れないかといった案がありました。アフリカ社会では、個人どうしが他者と関わる技術が豊かな感じがするというコメントもあり、日本とアフリカのコミュニケーション文化についても話題になりました。
今回の模擬ゼミには、高校生・受験生23人のほか、4人の現役ゼミ生がファシリテータとして参加して盛り上げてくれました。参加してくださった全員に感謝します。
◆ファシリテータとして参加したゼミメンバーからのコメント
模擬ゼミではアフリカのジェンダー観や家族観についての貴重な発表を聞き、それに関する内容を活発に議論できました。私のグループには高校3年生の方と2年生の方がそれぞれ2名ずついらっしゃいましたが、皆さん真剣に考え自由な発想で意見を出してくれました。多様な視点から、且つ高校までの学習内容や経験を踏まえて発表されていたことに感銘しました。そもそも生業や資本主義の浸透度合いが西欧とは異なっている地域に、西欧的なジェンダー観という枠組みを押し付けすぎないようにしないといけない、といった高校生からの指摘には私自身とても納得させられました。 (岩本 早耶香)
最終更新: 2020年8月22日