おすすめ本紹介:

トマス・トゥリノ著、野澤豊一・西島千尋訳

『ミュージック・アズ・ソーシャルライフ――歌い踊ることをめぐる政治』(水声社、2015年)

紹介者: 中里明祐美(アフリカ地域専攻)

音楽の歴史をタイムトリップ!音楽「する」ことの面白さを教えてくれます。ダンスも含めた「参与型」の音楽づくりの可能性に、ワクワクします。

ご紹介の前に、ちょっとしたエピソードを。

この本に出会ったきっかけは、ゼミ担当教員である大石先生に「ダンスの研究をする前に音楽の理論を勉強しておいたら?」といっていただいたことです。その頃の私はストリートダンス部での活動に熱中していました。当たり前のようにオンラインで購入した「音楽」を聴き、その「音楽」に合わせて振り付けを考え、その”決められた”振り付けを部員に落として(教えて)、それをみんなで踊って、それが最も楽しいと思っていました。

しかし、この本で「音楽」を根本から考え直したところ。。

私の中の「音楽」の定義が広がり、私も「ダンス」を通して「音楽」の営みに与しているというのだという実感と喜び、そして、「音楽」の”商業化”により広がってしまった「ダンス」と「音楽」の距離をもっと縮めるためにアコースティックな楽器をやってみたい!と思うようになりました。

楽器に全く縁のなかった私が、今では本気でドラムをやってみたい、と思うようになりました。なぜドラムかというと、この本にあったドラムに関する表記を読んだ時、ダンスでビート慣れしている私なら楽しくできそう。。と思ったからです。

私達が何気なく親しんでいる音楽を、社会的・歴史的・構造的といったあらゆる視点から見直し、体系的に見ることができるようになります。音楽を楽しんでみたいという方、もともと音楽に親しんでいるけど専門的な見方を身につけたい方、音楽やダンスの研究を始めたい方にお勧めです。

※読んでみたいと思ってくださた方は、この先要約になるので、以下は読まないことをおすすめします。

図1: トゥリノ『ミュージック・アズ・ソーシャルライフ』(2015)の表紙。

【要約】

音楽の歴史と併せてダンスの歴史をたどりながら、ジャンルではなく独自にその特性を4つに分類して考察。さらに商品化された音楽ではなく「音楽する」という意味での音楽を支持しながら、音楽の理論を根本から捉えなおした本です。

まず、「リアルタイムで行われる音楽パフォーマンスの分類」として即興性の高い「参与型」とリハーサル通りに行う「上演型」、そして「レコードづくりの分類」としてより生音に近づけていく試みである「ハイファイ型」と楽器の演奏だけでは不可能な曲をデジタルで作っていく試みである「スタジオアート型」の四つに分類します(Turino, 2015: 56)。

さらに、集団の定義も加えます。自己・アイデンティティ・文化を「習慣」を統一的な基盤として定義し、それにもとづいて「文化的仲間集団」を「自己を構成する一部分(たとえばジェンダーや階級、世代、関心、興味など)にもとづく共通の習慣によってできあがる社会集団」、そして「文化的な組織体」を「国家やグローバルなレベルにまで広がる共通の習慣のパターンによって生み出される集団」と定義しました(Turino, 2015: 168-169)。

これをもとに、実例として、「ジンバブエにおける新たな文化的組織体の出現過程」の考察(Turino, 2015: 213-261)と、「フォーク・リバイバル」(Turino, 2015: 264)すなわち「オールドタイムの音楽=ダンス」の考察(Turino, 2015: 263-317)を行っています。

前者では、「百年前には参与型の音楽づくりしかなかった場所で、いかに上演型やハイファイ型の領域が出現したかという、歴史的な過程」(Turino, 2015: 211)が描かれています。後者では、「都市や郊外に住む中産階級のアメリカ人が、特定の他者――特に南部の農民や労働者階級、それにアフリカ系アメリカ人――の音楽的影響、様式、イメージを取り入れた」ことに始まった「フォーク・リバイバル」というシーンが「参与型」の音楽やダンスを通して「文化的仲間集団」として果たしてきた役割が描かれています。

以上を通して、トゥリノ氏は「社会的紐帯、自己の統合、可能世界の想像、現実世界とフロー経験を実現する参与型パフォーマンスのポテンシャルが誰のどんな活動にも開かれている」(Turino, 2015: 382)としています