おすすめ本紹介:

Warren BELASCO "Food: The Key Concepts"

(2008: Berg Publishers, ISBN-13: 978-1845206734)

by 小林碧(西南ヨーロッパ第一地域専攻)

皆さんにとって「食」とはどのようなものでしょうか。楽しみ?悩みの種?めんどうくさいもの?「食」は誰にとっても不可欠なものであるのに、あまりに身近過ぎるがゆえにそれについて深く考えたことはないかもしれません。食に関する本や情報は今となってはあふれるほどありますが、実は「食」という分野が学術的な研究対象になったのはそう遠い昔の話ではありません。

本書では食に関する問いがたくさん投げかけられます。本書の最後に本書で出てくる問いやディスカッションポイントがまとめられているのですが、その問いの中には「当たり前すぎて考えたこともなかったけど、そう言われてみればなんでだろう?」と思うようなものや、人によって大きく意見が異なるようなものもあり、ついついほかの人と議論したくなってしまいます。

また各章にはワークが組み込まれていて、自分と食との関係を深掘りすることができます。例えば、異なる食のタブーやこだわりを持った人(菜食主義者や栄養士など)が一堂に会する食卓であなたならどんなメニューを提案するでしょうか。

本書は6章から構成されています。それぞれの章のテーマを見てみると、

1章 ‘Why study food?(なぜ食を研究するのか)’

2章 ’Identity: Are we what we eat?(アイデンティティー:私たち(自分)とは自分が食べるものなのか)‘

3章 ‘The drama of food: divided identities(食のドラマ:分離されたアイデンティティー)’

4章 ‘Convenience: The global food chain(利便性:グローバルフードチェーン)’

5章 ‘Responsibility: Who pays for dinner?(責任:誰が夕飯代を払うのか)’

6章 ‘The future of food(食の未来)’

となっています。

ここで本書の3つのキーワード「アイデンティティー」「利便性」「責任」について説明します。これは私たちが食べ物を選ぶ指標とするための3つの要素です。具体的にはアイデンティティーは個人の好みや文化、利便性は手に入れやすさや調理のしやすさなど、責任は自分の行動の「結果」に対する意識です。本書ではこれらが三角点の頂点として図示されています。どれに重きを置くかによって三角形の形が変わりますが、個人にとって、そして社会にとってどのような三角形が理想なのでしょうか。

「今日は何を食べようかな」そう考える時、自分の好みや調理のしやすさを意識するのは私にとってごく普通のことですが、自分が口にしているものがどこか来ているのか、すなわちフードチェーンについては本書を読むまであまり深く考えたことがありませんでした。フードチェーンが複雑になったことにより、日本にいながらにして外国の食材を簡単に手に入れられるようになりました。しかし、食材をより遠くまで運ぶためにかかるコストやそれによって加わる付加価値は果たして環境や自身の健康に無害と言えるのだろうか。

本書を読んでこのような食を取り巻く「責任」について今一度よく考えてみたい、と思いました。私は「マルシェ=市場」に興味があるのですが、マルシェの何について研究するのか、またどんな観点から見るか決めかねています。本書では「アイデンティティー」「利便性」「責任」と言ったキーワードや興味深いワークがたくさんあり、もっと読み込んでいけば自分の研究の切り口のヒントが見つかりそうだと感じます。

本書は英語で書かれているので読むのに少し根気が要りますが、各章の最後にチャプターサマリーがあるので、まずはそこから目を通すと内容を把握しやすいと思います。フードスタディを始める一冊として、ぜひ読んでみてください。

図: "FOOD: The Key Concepts"の書影。

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最終更新: 2019年3月24日