ストリップ劇場とは、男性を主とする不特定多数の観客が女性の裸を見る場所である。言い換えてみれば、「女性の身体を最も消費しやすい場所」であるのだが、筆者が実際に現場に赴いたところ、そこでは暴力性を感じさせるような視線は生まれておらず、むしろあたたかな雰囲気が充満しているのが感じられた。本研究は、これはいかにしてか、という問いを出発点としたものである。本研究が目的とするのは、踊り子と観客が交わす視線がどのようなものであるのかについて考察を行い、渋谷道頓堀劇場で踊り子と観客——特に女性観客との間で行われている営みとは何であるのかを明らかにすることにある。そこで、筆者は自ら若年女性のストリップファンとして渋谷道頓堀劇場に通ってフィールドワークを行い、さらに踊り子 A に半構造化インタビューを行なった。そして参与観察から得られた事例とインタビュー結果を踏まえ、ストリップ愛好家らによって編まれた ZINE『イルミナ』を参照して女性ファンのストリップ理解をなぞりながら、道頓堀劇場で飛び交うまなざしについて考察を行なった。そこから導き出されたのは、踊り子と観客は視線の交換を通して「お互いがお互いにとって何者であるのか」ということをつぶさに確認し合い、互いの関係性をより望ましい方へ調整し合っているということである。そして本稿全体を通して浮かび上がるのは、踊り子や観客を「他者」として捉えていた筆者が次第に当事者化していくという様子である。