本卒業研究では卒業制作という形を採用し、旅のフォトエッセイブックを作成した。全文は、日本語とフランス語の2言語で執筆し、表紙および裏表紙+全76ページフルカラーで製本することとした。本書は、フォトエッセイ、旅の小話、その他という、大きく3つのコンテンツから構成される。まずフォトエッセイは、筆者が大学在学中、主に3学年時休学期間中に、フランス、スペイン、インド、モロッコ、アルジェリアのサハラ砂漠など旅をした際に撮影していた写真に、日本語とフランス語でエッセイを添えたものである。一枚の写真に対して一つのエッセイで一作品とし、本書には計30作品を掲載している。エッセイは、筆者が旅の間に記録していた手記や、旅中に思考していたこと、あるいは日常生活で考えていることをもとに執筆し、推敲した。次に旅の小話は、筆者が旅の間に出逢った人や経験した出来事を、エッセイと同様に日本語とフランス語で短編の物語にしたものである。本書では「Chronique - 旅の小話 -」として、計5作品が集録されている。そしてその他は、プロローグ「Prologue - はじめに - 」、旅程「Carte - 旅の地図 - 」、エピローグ「Épilogue -おわりに - 」のことを指している。プロローグでは現代社会におけるこの本の立ち位置を、エピローグではこの本における筆者の立ち位置を、筆者の視点から日仏2言語で執筆した。
制作にあたっては、主に執筆、構成、デザインという3つの過程があった。最も時間を要した執筆については、まず筆者自身で辞書などを活用しながら日本語とフランス語でエッセイや小話、その他の内容を綴った。その後、フランス語に関してはフランス人の友人の協力を得て、議論を重ねながら修正を行った。とりわけフランス語を修正する過程において、思考が明確になっていない部分や言いたいことが定まっていない内容が浮き彫りになり、その都度、日本語とフランス語の推敲を繰り返した。また、この執筆がある程度完了した時点で、大学にて実験的に展示を行い、学生や一般の方から意見をもらう場を設けた。次に、構成については、作品構成とページ構成が含まれる。本書のエッセイには、写真にエッセイをつけた写真先行型の作品と、先にエッセイを執筆し、後から写真を添えたエッセイ先行型の作品がある。そのため作品構成においては、どちらの場合も、写真とエッセイの融合性を考慮しながら進めた。そしてページ構成に関しては、各作品の意味の繋がりや写真の連続性を意識しながら行った。最後のデザインに関しては、Adobe社のInDesignというアプリケーションを使用して、製本に向けての入稿データを作成した。基本的に写真は加工せず、筆者が旅中にiPhoneで撮影していた時の自然な表情や情景を伝えるよう心がけた。入稿用のカラープロファイルの変更や、一部修正が必要なものに関しては、同社のPhotoshopを使用して編集した。フォントやフォントサイズを含めたデザインは、読者に視覚的に直接訴えかけられる部分であるため、何度もテスト印刷を行い、腑に落ちるところまで修正を繰り返した。
タイトル: 旅のユーモアフォトエッセイ『 L’Oasis du Cœur - オアシス - 』
「oasis」はオアシスを、「cœur」とは心、中心を意味するフランス語である。「この社会に生きる我々が、気軽に立ち寄り、その重荷を下ろして、自らを潤し、軽やかな人生の旅路へと再出発できるオアシスとなることを願って」(本書Prologueより抜粋)、「L’Oasis du Cœuer - オアシス -」と命名した。また、「旅のユーモアフォトエッセイ」というカテゴリー名を付けたのは、「人生」や「生きる」といった重みのあるテーマの本書を、軽やかに親しみやすい形で読者に届けたいという想いからである。
ページ数:紙・裏表紙+本文76ページ (フルカラー)
コンテンツ:プロローグ/旅の地図/フォトエッセイ(全30作品)/旅の小話(全5作品)/エピローグ/筆者紹介
言語:日本語・フランス語
以下に、本書の概要を最もよく表す内容として、プロローグを引用しておく。
「オアシスとは、殺伐とした灼熱の砂漠の中で、真水が湧き、樹木が繁茂する冷涼な土地のことである。古代から、生命を育み、旅人や遊牧民に束の間の休息と安らぎ、そして潤いを与えてきた憩いの地である。そして、今、度重なる干ばつにより、その数を大幅に減らしている場所でもある。さて、現代の我々が生きる社会はどうであろうか。時には一息つく暇も、大切なことについて考える時間も、愛する人たちと楽しみを共有する気力さえもなくなるほどに、多忙で厳しい環境になってはいないだろうか。そのような中で、我々はふと腰をおろし、穏やかに、ただ自らの生を享受できる余裕を、すり減らしてはいないだろうか。本書は、そんな現代版砂漠ともいえるようなこの社会に生きる我々が、気軽に立ち寄り、その重荷を下ろして、自らを潤し、軽やかな人生の旅路へと再出発できるオアシスとなることを願って作成した、旅のユーモアエッセイである。」
ーー
Un oasis, c’est un lieu frais au milieu du désert aride et brûlant où jaillit l’eau douce et où les arbres prospèrent. Depuis l’antiquité, il a nourri la vie, offrant aux voyageurs et aux nomades un repos éphémère, la tranquillité d’un havre de paix et une source où étancher sa soif.
Aujourd’hui, à cause des sécheresses répétées, leur nombre a considérablement diminué. Et qu’en est-il de notre société contemporaine ? Ne sommes-nous pas souvent trop occupés, dans un environnement si exigeant qu’il nous laisse peu de temps pour souffler et réfléchir à ce qui est important ? Alors, où trouver la vitalité nécessaire pour partager des moments de joie avec les êtres qui nous sont chers ? Dans ce contexte, ne risquons-nous pas de perdre cet espace-temps où s’asseoir tranquillement pour jouir de l’existence tout simplement ?
Ce livre est conçu comme un oasis dans ce désert moderne qu’est notre société, essai plein d’esprit et d’humour sur le voyage, créé dans l’espoir d’offrir une place où l’on peut s’arrêter en toute légèreté, déposer nos fardeaux, se ressourcer, et repartir allégé sur notre chemin de vie.