「買い物難民」や「フードデザート」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。近年日本では、地域商店街の衰退や不採算交通路線の廃止から、日常的な食料品の買い物に不便や苦労を感じる高齢者が、全国的に増加傾向にあることが予測されている。
このような「食料品アクセス問題」を国民の食と健康に関わる重要政策課題と認識した国や自治体は、各地域の買い物支援事業へ補助金を送り、その結果、様々な買い物支援が全国で開始された。しかしながら、実際には、いずれの事業も利用者が少なく採算の確保が難しいという現状がある。
このような事態に問題意識を持ち、本研究では居宅高齢者の食品調達をめぐる生活実態を質的調査によって描き出すことで、より現場の視点に近づきながら「食料品アクセス問題」の解決策を探求することを目的とした。つまり、本研究の第一義的な問いは、「第3者によって「買い物困難者」と認識されるような居宅高齢者は、自らのどのような工夫や、社会関係の駆使によって食料品アクセスを実現することを試み、日々の食生活に楽しみを見出しているのであろうか。」というものである。
研究方法としては、東京都府中市内でも特に買い物先へのアクセスが悪いとされる多磨町と、その周辺地域(紅葉丘福祉エリア)を事例研究のフィールドとして設定し、半構造化インタビューを中心とした「地域調査」と「個人調査」を行った。
現地調査の考察としては、従来提唱された「食料品アクセス困難人口」のやや平面的な定義づけに対し、より一層の立体性を持たせるには如何なる観点が必要であるのかについて議論した。
そして最後にこれらの議論を踏まえ、応用への提言を行った。具体的には、紅葉丘福祉エリアでは居宅高齢者に対して、食料品アクセスに関わる「どんなサービスが世の中に存在しているのか」、「誰がサポートしてくれるのか」、「どこに連絡をすれば良いのか」という情報を、彼ら/彼女らの手元にまで届けるというアプローチが、地域レベルの環境改善に資する可能性があるのではないかと結論づけた。