「女性専用車の対象となる乗客(対象者)と対象とならない乗客(非対象者)の間での行動の違いを分析し、空間の位置付けの違い」を考察することが私の今回の研究の目的だ。電車は毎日、大量の乗客を目的地まで届けている。広くない車内の中で多くの人が共存できるのはなぜか。電車が公共空間の中でも他者と共存するために大きく行動を制限するため特徴的な場所である。まず通常の電車内の空間の特徴と、その中での乗客の行動をアーヴィン・ゴフマンなどの文献を用い、特徴を上げる。普通車の特徴をもとに女性専用車の空間的特徴と乗客の行動の特徴を比較する。先行研究から電車は他人と近距離で一定時間過ごす必要があることから不安やストレスが生まれやすい空間である。また、他者と共存をするために行動の規則が存在する場所だ。行動の規則は鉄道会社から敷かれたものと乗客の間で暗黙の了解のもとで守られる規則もある。行動を制限された乗客は互いの間で関係性を築くこともなく、出発地から目的地まで到達する。このことからマーク・オージェが提唱する「非場所」(匿名性を保ち、長期的に止まることはなく通過をしていく空間)の性質を帯びる。他者との新たな人間関係が生まれないこの特殊空間ではほとんどの人は規則を守る。また、外見的性質で相手を判断することで身の安全や快適性を確保するため、視覚的情報は電車では重要となる。乗客は全員「見る」立場と「見られる」立場の双方に同時に立つ。この視線の交錯は基本的には短く、その後の乗客は「儀礼的無関心」を守り「わざと見ない」ということをする。JR埼京線の女性専用車をフィールドワークの場所とし、そのフィールドワークでの対象者を女性と非対象者の男性に分け行動を観察した。さらにその行動の裏にある乗客の心理をネット上の書き込みから読み取った。フィールドワークを考察した結果、女性専用車の対象客は「居心地の良い」空間であり、非対象者の男性にとっては「居づらい」空間であることが確認された。非対象者が「居づらい」という感覚は視線が大きな役割を果たしている。非対象者が対象者により視線を送られることで異質の他者として「見られる」が、それが苦痛を伴う。一方、対象者である女性は「居心地のよい」と感じられる空間のなかで普通車では経験できない関係性の構築・アイデンティティの付与などを経験をすることが可能になる。結果的に対象者となる女性に取って女性専用車は「場所」としての性質を持つ。