日本では外国にルーツを持つ子どもに対する学習支援措置として「取り出し指導」が行われている。取り出し指導とは、日本語指導が必要な外国人児童生徒を一定数受け入れている学校に、通常「国際教室」「国際学級」「国際理解教室」などと呼ばれる教室が設置され、特定の時間(主として国語や社会の時間)に対象となる児童生徒を原学級から「取り出し」て行われる学習指導のことである1。本稿の目的は、多文化共生の観点から、取り出し指導の問題点とその問題点を乗り越えるための具体的な実践について考察をすることにある。本稿ではまず、対等性に関する戸田(2015)の議論と多文化共生に関する陳(2009)の議論を踏まえ、取り出し指導によって生まれる境界線は、学校の中で「日本人対外国人」の 2 項対立の図式を再生産しているのではないかという仮説を設定した。次に、この仮説を検証する場として東京学芸大学附属大泉小学校を取り上げ、取り出し指導が日本で生まれ育った子ども、外国にルーツを持つ子どもの相互作用にどのような影響をもたらしているのかに焦点を当てながら 10 日間の参与観察を行った。調査の結果、一般学級児童との合同授業において、国際学級の児童は、国際学級の児童のみでの授業時と比較して自己発信力を失い、結果的に国際学級の児童と一般学級の児童は打ち解けることができない一方で、取り出し指導を経て一般学級へと移籍した児童は、一般学級に馴染み、疎外感も感じていなかったことが明らかになった。また、1 年生から 6 年生まで、縦のつながりで構成された縦割り班活動における事例から、授業中における関係性と異なる関係性が縦割り班の中で形成されていることを確認した。これらを踏まえて、取り出し指導は日本の子どもと外国にルーツを持つ子どもの間に差異をつくり、結果として多文化共生の実現を妨げていることを述べ、仮説は支持されることを主張した。また、縦割り班における実践が取り出し指導の問題点を乗り越える可能性について論じた。
【引用文献】