過去に寄せ場や「ホームレスの街」とされてきた特殊な背景を持つ山谷という地域には、現在も生活困窮者を支援するネットワークがある。山谷の日常生活支援住居施設では、経済的に困窮し、なおかつ単身生活が困難な事情を抱えた人々が、職員の見守りのもとで共同生活を営んでいる。その中で当事者たちはどのように他者と関わり影響を受けているのかを、生と死の両側面から明らかにすることを本研究の目的とし、山谷にある2か所の日常生活支援住居施設に通って参与観察と利用者への聞き取り調査を行った。利用者たちは共同生活にストレスや不満を感じながらも、衝突や和解、役割の創出などの事象を通して他者と関わり合う中で、信頼関係や利他的な共同性が生まれ、それらは自立や施設でのより快適な生活環境の実現に大きな役割を果たしている。また生きていくうえでの関わりだけではなく、共に暮らしていた人の看取りや死も利用者たちに影響を与えている。その共同生活には、血縁や戸籍で関係を保障されない他者だからこその可能性や困難が存在する。そして山谷での共同生活は一見特殊なように見えて、そこで見た関わり合いの中にある共同性や、困窮者支援に必要な他者としての尊重は、立場や生活状況に関係なく私たちの日常にも重要なものであった。