本研究は、東京外国語大学の学生寮「国際交流会館」を対象に、贈与という行為を通じた人間関係の構築を文化人類学の視点から考察したものである。先行研究を踏まえ、寮が単なる居住空間ではなく、住民間の相互作用を通じて「共有空間」として機能することを明らかにした。特に贈与行為は、物品やサービスのやり取りを超え、信頼や絆を築くための重要な行為である。調査結果では、贈与行為が文化的背景や価値観の違いによって異なる形態をとることが確認され、コロナ禍では廃棄食材の分配や共有スペースでの交流が「寮メン」という緩やかなコミュニティの形成に寄与した。また、これらの行為は緊急事態下特有の連帯感を生み出し、狩猟採集民社会の分配行動とも類似していた。自治寮やシェアハウスとの比較を通じ、国際交流会館の特徴や課題も浮かび上がり、自治権の欠如や特定グループの独占が住民間の疎外感を生む点が課題として挙げられた。本研究は、贈与を通じた緩やかな人間関係の可能性を示唆する一方で、定量的データの不足や聞き取り調査の偏りなどの課題も抱える。それでも、本研究はコロナ禍における学生寮の人間関係の形成やその特異性を示し、今後の研究や実践的課題解決に向けた基盤となる知見を提供した。