人口約 700 万人に対し、政府が公式に認めただけで 50 もの⺠族が共生している国ラオス。多数派のラオ族に加え、様々な少数⺠族が共生しているが、先住⺠族のクメール系⺠族が多数⺠族のラオ族にどんどん同化してしまった事例や、中南部の平地に住むモン・クメール系の人々が、「元モン・クメール系、現ラオ族」であったりするように、社会的地位の向上などを狙い、元々は少数⺠族であったが自身を多数派⺠族であるラオ族と自称するケースが多く見られる。このように、⺠族アイデンティティは社会情勢や個人の考えなどによって変わる、可変的なものとされている。しかし、ラオスの首都ビエンチャンで出会った少数⺠族の学生たちのなかには、故郷で生まれ育ちビエンチャンに出てきてからも変わらず少数⺠族として自⺠族のアイデンティティを持ち続けながら暮らしている人たちが未だに数多く存在する。故郷にいるときはもちろん、都市部に出てきたらなおさら多数派の⺠族に同化する傾向にあるのではないかと思われがちであるが、なぜ彼らは自⺠族のアイデンティティを持ち続けているのだろうか。彼らのアイデンティティを保つ上で何が重要であるのだろうか。本稿では、数多く存在する少数⺠族のグループのうちの一つである、モン族に注目する。モン族は、中国に起源を持ち、20 世紀中頃に繰り広げられたインドシナ戦争後に劇的な変化を短期間に経験したエスニック・グループであるという特徴を持っている。ビエンチャンに住むモン族の若者たち(10 代後半〜20 代半ば)に焦点を当て、彼らがどのように多数派の⺠族の人たちと関わり、独自の伝統や文化を守りながら都市部で生活しているかを明らかにしていく。移りゆく時代に伴い変化していく価値観の中でも、どのようなことが変わらず彼らのアイデンティティとして残っているか。そして、彼らのアイデンティティの在処や暮らしが今後どのように変化していくのかを論じていく。