現代の日本において犬や猫といったペットが「家族」とみなされ、まるで人間のように扱われる場面を目にすることは多い。そのような状況の中でペットの飼い主たちがよく利用するようになったサービスの一つがペットの葬儀や供養だ。今やペットの死は人間同様に葬儀をもって弔われているのである。ペットの供養を取り巻く議論の中でも論点になっていることの一つが、ペットは死後も家族であり続けるのかという問いであるが、この問いへのアプローチはこれまで墓石の形態や碑文の分析が中心となっており、葬儀の現場からの考察は少ない。そこで本稿では実際のペット葬の場への参与観察の結果を人間の家族観や葬儀の行われ方と照らし合わせる形でこの問いについて考察を行った。そもそもペットを家族とする価値観はなぜ広まったのかを辿ると、現代社会において家族が個人化するという現象により自分の思い描いた家族を作ることに困難が生じ、その中で理想的家族としてペットが台頭したことが明らかになった。そして人間の葬儀とペットの葬儀についてその意義の変化を比較する中では、他界観が多様化しているという点で似た傾向を見せていること示した。そのような状況と実際のペット葬の現場での参与観察結果とを照らし合わせたことで、生前のペットの“理想的家族”としての性質が死後のペットと人間の親密性の維持を難しくさせていたことを明らかにした。また家族であったはずのペットの遺体や遺骨に向けられた飼い主たちの眼差しや行動は、死後の人間の家族とペットそれぞれに向けられる視線の間にある違いを示していた。