近年、「エスニック」という⾔葉は⾷の分野で最も広く使われ、国際⾊豊かな外⾷シーンが展開されている。エキゾチックなレストランへ⾏き、⾮⽇常的な⾷を楽しむことは⽣活の⼀部として定着していると⾔えよう。
本稿では、エスニック・レストランを複数のエスニック集団が出会い、接触する場、つまり「コンタクト・ゾーン」と捉える。エスニック・レストランへ注⽬する理由は2 つある。まず従来のエスニック・ビジネス研究では移⺠コミュニティの内部へ展開されたものを対象とすることが多かったこと、そしてエスニック・フード研究では移⺠の家庭内の⾷事を主な対象としていることである。
以上を踏まえ、ホスト社会のマジョリティにも開かれた存在であり、単⾝者の移⺠客も多く出⼊りするエスニック・レストラン内で両者がどのように相互作⽤しているのかを考察する。まずエスニック・フードの定義や⽇本での変遷について、⽂献をもとに述べる。また、従来のレストラン研究において重視されてきた観点について整理する。その上で、「⽇本の中の異国」とも称される新⼤久保地区のネパール料理店にてフィールドワークを⾏なった。調査を通じて、⽇本⼈と移⺠の間では国旗の表象や混交料理に⾒られるエスニック境界の融化と、⽂化の客体化によるエスニック境界の強化が同時に起こっていることが明らかになった。それだけではなく、店は移⺠同⼠のコミュニティーを醸成する意味でのコンタクト・ゾーンでもあることを⽰した。
⾮⽇常な⾷の世界は、テーブルの上に乗った料理に完結するのではなく、店内に共存する移⺠の背景を理解することにも開かれている。エスニック・レストランというミクロな視点を通して、本研究が⾝近な他者を感じるきっかけになることを願う。
キーワード: エスニック・フード、エスニック・レストラン、コンタクト・ゾーン、移⺠、⽂化の客体化