近年、複雑化した社会課題の解決に取り組むアクターとしてNPOに期待が寄せられている一方で、人材不足、特に若者の参画が進んでいないことが深刻な課題となっている。これまでボランティア活動などに対するインセンティブの研究は多数なされてきたが、利他・利己という単純な二元論に押し留めることができない若者の語りを起点とした分析は不十分である。そこで、筆者が5年以上所属している国際NPOであるAIESECに着目した。AIESECは、1948年から75年以上続いているNPOであり、平和で人々の可能性が最大限発揮された社会の実現を目指して、若者による若者のリーダーシップ育成を軸に、Exchange Programを世界的に運営している。100以上の国と地域に支部を持ち、世界3万人以上の学生が所属しているという組織の特徴を踏まえ、若者のインセンティブに焦点を当てると考えた。具体的には、アジア太平洋地域に属する海外支部の代表らを中心に、合計29名にインタビューを実施した。AIESECに所属するきっかけ、継続の背景、支部におけるAIESECの存在意義の3つの質問から見えてきたことは、従来の枠に囚われない語りの数々であった。例えば、組織との最初の接点や印象は多様であり、期待値すら誤っている事例があったこと、「プロフェッショナル」「独特なカルチャー」といった「異質」な要素が帰属意識を強固なものにしている可能性があること、長期的にコミットしている代表は、組織の危機に対するオーナーシップや未来の世代への還元、CEOとしての経験に価値を見出していること、などが挙げられる。また、内発的動機を引き出す組織理念の解釈についても、「平和」「リーダーシップ」「異文化理解」などの要素をそれぞれの国のわかりやすい課題に引き付けて述べていた。これらの傾向からAIESECを駆動させているインセンティブは、抽象的かつ壮大な理念が組織の誤読を可能にして自身の物語として解釈しやすいこと、主幹事業である海外インターンシップ事業が人々の経験を作り出し、個人の成長にも寄与してきたこと、抽象的な理想を手触り感のある形で落とし込む箱として機能していること、そして、組織特有の強烈な文化とそれに伴う具体的なルールや慣習が地域を問わずインストールされていること、などである。これにより、従来の表層的な善意や個人の利益だけに着目するのではないインセンティブ設計の必要性が示唆される。