スリランカやタイなど、上座仏教社会では「近代化」と称されるような社会変動に伴い、在家者の主体的な仏教へのかかわりと、それに伴う出家者の周縁化が指摘されてきた。しかし、ミャンマーにおいては出家者による瞑想指導や教義解説が広く行われており、出家者の主体的な仏教へのかかわりが出家者の重要性を高めるといわれてきた。それに対し本稿では出家者主導の実践が行われてきたミャンマー最大都市、ヤンゴンにおいて、在家者が瞑想指導や教義解説などの実践を行い、出家者が周縁化される事例を示す。
本稿では出家者不在状況下で瞑想実践や教義解説などの実践を行う瞑想団体や、大学寮での活動などを、筆者の実地調査や聞き取り調査を基に記録した。また、前述の瞑想団体が発信するSNSでの投稿も参考とした。調査対象は上記瞑想団体設立者や、参加者の学生、また、大学寮で実践を行っていた学生とする。
ヤンゴンにおいて出家者が周縁化される動きが生じた背景にはミャンマーが経験した民政移管に伴う社会変動が大きく関係している。言論の自由や国際的な移動の自由を享受がミャンマー人学生にとって大きな影響を与えたことは考えられる。ヤンゴンにおける出家者の周縁化は完全に進んだとは言えない。学生の中には実践の場に出家者を介さず、出家者を周縁化する者もいるが、出家者のいる場所での実践を望み、出家者との関りを強く持つ者もいる。
瞑想団体も新型コロナウイルス感染拡大後、宗教的な象徴であるパゴダでの実践ができなくなったことを受けて、実践の場に出家者を求める動きがみられた。そのため、調査時のヤンゴンは実践に出家者を介さず、出家者を周縁化する者や、出家者を重視する者が混在している状況であった。
また、学生が瞑想実践や教義解説の場に求めるものが、必ずしも宗教にかかわるものではないことも本稿の調査では見られた。学生はスポーツを行うように、同年代の学生と共に瞑想をはじめとする実践に対して楽しさや苦しさ、そして喜びを感じていた。
様々な目的を持つ参加者が集まる瞑想団体では主催者側が瞑想方法を特に指導せず、各参加者が自分の方法で瞑想を行った。また、教義に関する理解も、参加者が自ら考えたことを他の参加者と共有した。これは出家者を指導者とし、トップダウン型の実践を行うこれまでの形とは一線を画す、新たな実践の形であるといえる。