国民総背番号

国民総背番号

東日本大震災では,多くの自治体が住民基本台帳をはじめデータの多くを消失した.医療機関,会社,商店等でも医療,営業,顧客等の情報が消失してしまった.このようなことを防止するには紙情報が作られる時点で電子化して別の場所 でバックアップするのが最善の方法である.この事に関してはIT発達の各段階(大記憶装置,光高速通信網,宇宙通信)で言われて久しいが実現していなかったわけである.住民の情報をデータベース化して中央で一元管理する「国民総背番号制」は,住民が不利益を被ることもありうると いうことでつぶされてきた.実現していれば震災前の情報をかなり復元できたはずである.また,住民情報の域外流出を嫌う自治体はこのようなシステムの導入に消極的だったと指摘する人もいる.今回の大震災を経験し,ようやくバックアップの重要性が認識されたようである.

震災1年後にようやく動きがあった.大震災の津波で町全体が流された宮城県南三陸町役場では,役場の中でのバックアップは役立たなかったそうである.2月1日,NTT東日本の協力を得て住民情報を県内のデータセンターから都内のデータセンターに転送・保管するオンラインバックアップ機能の実証実験を始めた.災害で県内の中継サーバーに保管している重要データが消失しても,都内のデータセンターからデータを転送して復旧する仕組みである.

我が国は,世界一,二のスパコンを開発する能力を有するにも関わらず,国の行政情報や公的機関の電子化は遅々として進んでいない.年金問題はその典型であり,みすぼらしい限りである. 国家の危機という大きな代償を払って再認識させられた.この教訓を今後生かすか否かは国を動かしている指導層の責任であると思っていたらようやく動きがあった.

2013年5月9日,「共通番号(マイナンバー)制度」導入法案が9日午後の衆院本会議で採決され,賛成多数で可決され,24日に参院で成立した.

個人情報を一元的に管理・把握するために国民全員に番号をふり,社会保障分野などに活用される予定である.1968年,佐藤内閣の時に,国民総背番号制の導入を目指したわけであるから半世紀近くを要したことになる.現在、基礎年金番号、健康保険被保険者番号、パスポートの番号、納税者番号、運転免許証番号、住民基本台帳カード、雇用保険被保険者番号など各行政機関が個別に番号をつけている.これらの行政サービスを包括する身分証明書は,我が国では存在しなかったが,先進国としてはかなり珍しい例である. これまでの縦割り行政による重複投資が一元化すれば,予算削減に繋がるはずである.このような政治的動きに連動して,設備投資だけでも1兆円,全部で約3兆円といわれる特需を狙ったIT業界の動きも活発化している.

マイナンバー制度に関しては,私は基本的に賛成である.しかし,自分自身の年金問題の経験から,過度の期待はしない方がよいと思うようになった.我々が住民票などで目にするものは「漢字」であるが,漢字が登録される過程で表に出ない「フリガナ」が使われ,それが照合にも利用されているという問題がある.基礎年金における「現況報告」のような簡単なことでも,不都合の原因を見つけるのに四苦八苦した(住基ネット登録時,氏名は漢字で登録されるが,実際は漢字変換に用いるフリガナで照合作業が行なわれるため,フリガナが間違っていると連携がとれないわけである).

巨大な情報システムが構築されても利用するのは人間である.「縦割り」を越えたデータ統合,入力ミス,情報漏洩,サイバー攻撃等の人間の問題が数年内に解決できるだろうか,前途多難であることは確実,十年は待たされるということにならないことを祈りたい.

年金問題より基本データが揃っていないため対応できない典型的な例 休眠預金

震災後,長期間利用されていない休眠預金を有効に活用しよう という話が持ち上がったことがある.この話を聞いた人達の多くが「けしからん」と言った.その気持ちは分からないわけではないが,休眠状態の預金を下ろす となると大変な作業が待っていると専門家が説明していた.コンピュータによる電子データとしての管理はまったくなされていないそうである.さらに銀行の再 編 で,存在するはずの紙データがどこにあるのかすぐには分からないとも言っていた.子供の頃住んでいた地方都市のある町の街角に在ったある銀行の支店に足を 運んでも,その銀行は大手に吸収され,銀行名も変わり,今は 学習塾になっていると言った具合である.この例は近くの銀行,信用組合の例である.銀行を特定できても,預金記録を探すのに1週間くらいかかるというか ら,余程の金額でないと引き 出す価値がないということである.この件ではマスコミの報道の仕方が世論を「国はけしからん」という方向に向けてしまった.具体的な払い戻し例を検証し紹 介すべ きである.

被災地におけるICT利活用の取組み

国民総背番号制 - Wikipedia


追記)

薬学系でいち早く情報教育を始めたのは,医薬品情報しか扱えない薬剤師はその作成,保守管理,提供を行うことが主たる任務と考えたからである.災害時の薬歴管理をどのようにするかを主体的に考えておく必要がある.

(2013.5.24)