偏った情報教育

省庁データ自由閲覧問題

偏った情報教育(省庁データ自由閲覧問題)

7月10日の読売新聞などによると,

環境庁などいくつかの省庁が,グーグルが提供するメール共有サービス「Googleグループ」を初期設定(非公開ではない)のまま利用し,誰でもメールの内容を閲覧で きる状態になっていたことが明らかとなった.

確認できただけで,少なくとも4つの省庁の職員が業務メールを公開しており,環境省では国際条約の交渉過程なども誤って公開していた.また,全国の医療機関などで,カルテ,健康診断結果など,本来非公開であるはずの内部情報が閲覧できるようになっていた.メールは読売新聞の指摘で,既に非公開の措置がとられているが,個人情報や官庁の内部情報等を含めると6000件以上にのぼるというから恐ろしい話である.

利用開始時は,全ての情報がインターネットに公開される設定となっており,閲覧者を制限するには設定を変更する必要がある.だが,その設定に気付かず利用しているケースが結構多いことが確認されている.省内専用の共有システムがあるのに,使いやすいGoogleを使ってしまったらしい.普通のメールと同じ感覚で利用したのかもしれない.

一言で言えば,現在大学等で実施されている情報教育がメール,ウエブ検索,オフィス等のソフトの利用に偏っており,電子情報授受の基礎的な仕組みを理解させていないことに原因があると言っても過言ではない.

他人が作ったプログラムを利用してインターネット上にデータを置きグループで共有する場合,情報提供者が「公開」,「非公開」の設定をチェックするのは常識である.グループのメンバーは,それぞれの出身大学で情報教育を受けているはずである.誰も気付かなかったという事実は日本の多くの大学でまともな情報教育が実施されていないことを意味している.

すべてのデータは所有権,アクセス権を持っている.「オーナー」,「グループ」,「その他」の人に分けられ,どのような権限でアクセスできるか(読むだけ,書き込み,実行等)が設定され,その変更ができるのは所有者だけである.今回の場合,Googleは初期設定で公開にしているわけだから,グループのオーナー(世話人)が「非公開」に設定すべきである.また,グループに参加しているメンバーは公開・非公開のチェックができるようになっている.メンバーの誰も気付かなかったとはまことにお粗末な話である.

我々は,大学の情報処理教育において,インターネットの基礎となっているUNIXの基礎知識に加えて,個人ホームページを作成させ,クラス内あるいは学部内だけで閲覧できるような設定ができることを教えてきたが,その目的は今回の様な問題点を意識させるためでもあった.医療現場における情報の機密性は,一般社会で求められる以上の厳しさが要求される.ところが,最近の傾向として,「薬学部でUNIXの基礎まで教える必要があるのか」との疑問を耳にする.医療従事者の中で,「真の医薬品情報の専門家は薬剤師である」と言いながら,情報提供の手段であるネットワークのこととなると辻褄の合わないことを言うので始末が悪い.

”情報教育はワード,エクセル,パワーポイントの利用法の習得で十分”と主張し続けている人たちには,今回の問題はショックであったはずである.繰り返すが,データの構造,システムの基礎的な仕組みくらいは教えておくべきである.

ところで,このような問題が起こると,ツールを提供しているGoogleが悪いという人がいるが,まったくの見当違いである.使い方を誤ると毒になる医薬品の問題に類似している.医薬品の添付文書(公文書)には明記してあるのに,問題が起きた後「書き方が悪い」,「注意喚起の仕方が悪い」と言っているのを聞いたことがある.

中央省庁の職員が今回のようなことであるから,氷山の一角と指摘する意見が出ている.ネットのセキュリティ対策と同じように,これをビジネスチャンスと捉え,さっそくGoogleグループの設定手順をやさしく解説した手引書をネットで公開し,企業宣伝を行っている業者がいる.大学進学後,情報リテラシー教育で勉強した情報処理のノウハウは,携帯やスマホのアプリ(コミニュケーションツール)で充分という社会的雰囲気に呑み込まれ,卒業する頃にはすべて忘れている始末である.情報再教育企業はそのことをよく知っている.就職先の上司もパソコンに疎く,部下のチェックができないのも問題である.(2013.7.22)

追記

IT機器は使用できても肝心なコンピュータの知識が欠落しているため,オリジナルマニュアル(英語ではないのに)が理解できないのかもしれない.