外所地震

(とんどころじしん)

外所地震(とんどころじしん)

熊本藩年表稿の寛文2年の項(家綱の治世,肥後藩主 綱利)に次のような簡単な記述がある.

寛文2(1662)壬寅(家綱)綱利

9.19 是夜大地震(玄察)。

元になる渡辺玄察日記(肥後文献叢書第4巻)の記述は次の通りである.

此年之九月十九日之夜大なへ

「なへ(え)」は地震のことであり,現在,外所地震(1662年日向灘地震)とよばれている有史以来最大級の日向灘地震である.

日時は,1662年10月31日未明,場所は日向灘沖,マグニチュードは7.6,最大震度は6強と推定されている.

宮崎港湾・空港整備事務所が公開している「宮崎県での津波痕跡調査について」には,外所地震について以下のように書かれている.

外所地震

1662年10月31日(寛文 2 年9月19日)、日向灘沖(北緯31.7 度・東経132 度)を震源とするマグニチュード7.6の大地震で、宮崎県内の大部分で震度5 以上の揺れがあったと推定されており、高さ4~5m程の津波が宮崎県から鹿児島県大隅半島一帯に襲来したとされる。特に飫肥藩(現在の宮崎市大字熊野周 辺)を中心に被害が大きく、延岡、高鍋、佐土原、飫肥の各城下町で被害が生じており、被害規模として死者多数、潰家3,800 戸などの記録が残っている。

地震前の正保国絵図(左図)では,西側から海に注ぐ二つの川(清武川,加江田川)は,海岸線まで続いている.中央図は,地震後の禄国絵図(国立公文書館デジタルアーカイブ)では,川は海没により生じた入り江に注ぐ形に変化している.現在は埋め立てられ地震前の地形(右図)になっている.

正保

元禄

現在

玄察は同じ年に阿蘇山と九重山が噴火したことを次のように記載している.

此年あそのけふりはなはだし(此年阿蘇の煙はなはだし)

此年豊後九ぢうだけにけふりいづる(此年豊後九重岳に煙出る)

同年5月京大阪で大地震があったとも記している.現在,近江・若狭地震[ 6月16日(旧5月1日)]とよばれている.

此年京大阪大地震京都二条之御城も奉損候などゝ風聞仕候

前年(寛文1年, 1661)の7月10日に天草灘で起こった地震にもふれている.

此年七月十日大なへゆる翌十一日迄中小ゆる事三度 (此年7月10日大地震,翌日までに中小地震3回)

次の年(寛文3年, 1663)の11月23日夜には雲仙岳が鳴動し,翌朝噴煙が見えたと記している.

此年十一月廿三日之夜寅卯の刻に高來温泉山動揺して翌朝煙見ゆる


これらの一連の事象は,古文書ではきわめて簡単に記述されているので,見逃してしまう可能性が強い.玄察の日記は70年間の年録であるが,もっと長い期間で見ると,確実に「歴史は繰り返している」と言える.

ところで,2013年2月1日,政府の地震調査研究推進本部は,活断層が起こす地震の確率を地域別に見積もり,まず九州地方の評価を公表した.今後30年以内にマグニチュード(M)6.8以上が地域内のどこかで発生する確率は,九州全域では30~42%となった.

読売新聞の記事を利用

九州の北部(福岡市など)が7~13%

中部(大分市や熊本市など)が18~27%

南部(鹿児島市など)で7~18%

最大でM8.2程度と推定している.

どのような計算手続きでこのような数値が出てくるのか判らないが,「政府の短い活断層にも評価を広げる方針」にしたがったとのことである.その結果,九州ではこれまで8つの活断層が評価対象だったが,今回は福智山断層帯(福岡県)など15キロメートル以上の9活断層と,水俣断層帯(熊本県、鹿児島県)など10~15キロメートルの11活断層を加えて地域別の地震の確率を求めたと報道されている.

これに桜島,霧島,阿蘇,普賢岳等の火山等を書き込んでみると,われわれは「砂上のコンクリート生活」をしている様なものである.九州には原発を設置する場所はないと言っても過言ではない.


追記

1661年の地震は,熊本藩年表稿には下記のように記載されている.

寛文元4.25改元(1661) 辛丑(家綱) 綱利 辛丑 かのとうし

7.10 肥後大地震、翌日までに中小地震3回(玄察)(天草譜)。 注)玄察日記と天草近代年譜


参考資料

[PDF] 熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System → リンク切れ(2022年3月30日)

熊本藩年表稿」は熊本大学学術リポジトリからはダウンロードできないが,インターネット検索するとPDFを提供しているサイトが存在する.

外所地震 - Wikipedia

渡辺玄察日記(拾集物語)は 寛永9年(1632年)から元禄14年(1701年)に至る年録(年代記)であり,熊本県上益城郡早川(そうかわ)の厳島神社神主渡辺玄察によって書かれている. 肥後文献叢書第4巻に収載されており,近代デジタルライブラリーで見ることができる.

早川(そうかわ)の厳島神社 熊本県上益城郡甲佐町早川762

寛文 2 年 (1662) 近江・若狭地震における京都での被害と震災対応

宮崎県での津波痕跡調査について(PDF)

みやざきデジタルミュージアム(詳細図ではない)

正保日向国絵図

国立公文書館デジタルアーカイブ(拡大可能)

元禄国絵図 日向国(元禄)→ 元禄国絵図 - 国立公文書館 デジタルアーカイブ

(2013.2.14)