周路阳

五日漂流

サイズ:A4とA3

材料:ファインアート マットペーパー、和紙 

五日間に渡って、毎日目覚めるから最初に頭に浮かんだモノ、感覚であった「タバコ」、「眩しい」、「トイレ」、「時間」、「洗濯」を撮影対象として、目標地なきの散策をしながら5本のフィルムで記録した写真作品である。

 この作品によって、偶然性、ハプニング、無意識、漂流など現代アートがよく扱われる要素を自分の作品の中で実践した。

five days drift

A3 or A4

fine art paper, Japanese paper

Over a period of five days, I chose five targets of ""cigarette,"" ""dazzling,"" ""toilet,"" ""time,"" and ""laundry,"" which were the first things and sensations that came to my mind after waking up each day. And shot with five films while taking a walk without a target area.

With this work, I put into practice in my own work the elements that contemporary art often deals with, such as coincidence, happening, unconsciousness, and drifting.

活動の記録

卒業研究 - 周路陽

卒業研究

国際文化学部 4年G組

18G0622

 シュウ ロヨウ

初めに

 このレポートは稲垣ゼミに在籍一年間の活動を記録するためレポートである。本論の第一章では、4年春学期に参加したみなとメディアミュージアムに関する作品制作の経緯を述べる。第二章では、卒業作品のインスピレーションから展示までの経緯と、参考作品、先行研究、不足点などを含めて述べる。

一、みなとメディアミュージアムに関する活動

1、周遊型ゲーム制作

 2021年8月に開催する予定であったみなとメディアミュージアムの展示作品を制作するため、四月からディスカッション、フィルドワーク、ワークショップ、インタビューなどのの活動に通じ、地域の人々の思い出を共有、可視化する「MY PLACE」を軸とした作品群を制作することが計画された。

 私は共同制作の作品を制作するため、多田、平野、朱雀とチームを結成し、那珂湊の街を舞台とするなかみなと周遊型ゲームを制作した。

 なかみなと周遊型ゲームは、「MY PALCE」に関するインタビューから参考し、MMMの来場者に、ゲームに参加することで楽しみながら那珂湊の良さについて知ってもらい、またゼミ共同制作である「My Place」の内容と絡めることで動員数を増やすために制作したプロジェクトであった。

 ゲームの参加方法としては、まずヒントとマップが書かれているパンフレットを出発点としての駅で入手する。そして、なかみなとの街を周遊しながらインタビューから出された問題を解いて、全問題を解いた人は最終的にホテルで景品を交換することを設定していた。

 しかし、終焉が見えないコロナが再び蔓延したため、なかみなとにおける作品制作と展示が大学でのサテライトに移行、私たちのサイトスペシフィック的な周遊型ゲームも最初から作り直さなければならない事態になってしまった。

2、謎解きゲーム制作

 法政大学でのサテライト展示を準備するために、私たち(多田、平野、広岡)は周遊型のゲームを諦め、純粋な謎解きゲームの制作に移行することを決めた。それを加えて、インタビューから改編したオリジナルストーリーを構想し、それに基づくスペシャルムービーを作ろうと思っていた。

 チームワークの結晶として、「MY PLACE」のインタビュー(ホビショップ風車、鹿志村吉信のインタビュー)を参考し、それと関連するクイズとスペシャルムービーを含める「なかみなと君からの挑戦状」というゲームができた。「なかみなと君からの挑戦状」の参加方法は、スマホで展示場所の床のQRコードを読み込み、オリジナルキャラクター「なかみなと君」の公式LINEを追加することだけである。そして来場者は「My Place」のインタビューを読みながら、お手持ちのスマホでクイズを解き、スペシャルムービーを鑑賞できる。

 この作品によって、来場者がインタビューの内容を読みながらクイズを解くことができ、「MY PLACE」についてより深く理解することを求めた。

二、卒業作品

1、インスピレーション

 インスピレーションはルドヴィコ·エイナウディのアルバム「seven days walking」から受けている。7日間にわたって同じ道を歩くというコンセプトから生まれた「seven days walking」は、その日の天気、気分など様々な要因によって、日々に変化する感情を音楽で表現するアルバムである。

2、先行研究、参考作品

①フロイトの無意識に関する精神研究

 オーストリアの精神病医師であるフロイトの精神分析は、20世紀初期のあらゆる領域に大きな影響を与えたと言われている。特に無意識に関する研究は、20世紀の現代にアートに斬新な作風をもたらした。例えば、戦前のシュルレアリズム、ダダイズム、戦後の抽象表現主義などのアートムーブメントはいずれもこの「無意識」の研究から影響を受け、自らのアート作品に無意識の実践を取り込んだことがわかる。

②シュルレアリズム

 1920年代に誕生したシュルレアリズムは20世紀最も影響力を持つアートムーブメントの一つだと言われてる。その誕生もフロイトの無意識に関する研究と無関係ではない。絵画、彫刻、映画、文学などの幅広いジャンルで展開されたシュルレアリズムは、様々な手法を取り込んでたくさんの表現方法を実践したが、その中最も貫いた理念は「無意識」である。例えば、無意識の状態で絵を描くオートマティスムは、シュルレアリズム代表的な手法の一つとして知られている。

「夢と現実の矛盾した状態の肯定」[i]を理想していたシュルレアリズムは、驚異、意外な並列、不条理性など要素を作品の中に実践したことによって、無意識に対してシュルレアリズム的な解釈を作り出した。

③ダダイズム

 ダダイズムは20世紀初期もう一つ強い影響力を持つアートムーブメントとして、シュルレアリズムと同じく、フロイトの無意識の精神分析に影響を受けていたと言われている。人間の理性と意識を否定することで、過去のあらゆる即成概念を壊すことを目指した。

 多端な作風と思想を持つダダイズムの中で、作品における「偶発性」への実践に特に興味深かった。例えば、ランダムに無意識な詩を作ったり、無意味で偶然性のあるコラージュを作ったことなど、自分の作品のインスピレーションを受けたかもしれない。

④アラン・カプロー、「18 happenings in 6 parts」

 1959年、アラン・カプローがニューヨークのルーベン画廊で『6つの部分の18のハプニング』を行ったことによって、『ハプニング』という表現形式を始めた。「ハプニングの父」として知られているアラン・カプローは生涯にわたってアートにおける偶発性を実践した。日常性や即興性、演劇性、そして観客の参加を特徴した『ハプニング』はその後の環境芸術、インスタレーション、パフォーマンスアートなどに強く影響を与え、自分の作品も「ハプニング」に強く影響されたと思われる。

⑤ジョン・ケージ「4分33秒」

 ジョン・ケージが1952年に作成した音楽作品。楽師が4分33秒間に何も演奏せず、4分33秒の間に会場で起こる全ての音をその場で偶発的に起こった音楽として捉える作品である。「4分33秒」はジョン・ケージ最も知られている作品として、後世の実験音楽などに大きな影響を与えた。その「偶発性」からできた音楽を参考し、「4分33秒」の手法を自分の撮影作品の中に運用しようと思っていた。

 

⑥シチュアシオニスト、漂流

 1950年代から活動した芸術団体である。社会、政治、日常生活への批判と実践が多く、後期は政治団体へ転換。とりわけ1968年に起きたフランス五月革命に指導的な理論を提供し、大きな影響を与えたと知られている。大量消費、大量生産、そしてイメージ消費の社会体制を反発する「新しい状況」を作るために、シチュアシオニストは「転用」、「漂流」、「心理地理学」などの手法[ii]を提示した。

 その中、「漂流」という手法に対して興味深かった。漂流というのは、「比較的長時間のあいだ、通常の理由に従って移動し行動することも、自分に相応しい関係・労働・余暇も断念して、その地域の要請するところ、そしてまたそれに応じて産み出された出会いに身を任せることである」[iii]。今回の作品では、目標地を設けずに長時間の散策することによって、この漂流の理論を実践したと思う。

3、作品の概要と制作と展示

概要

 五日間に渡って、毎日目覚めるから最初に頭に浮かんだモノ、感覚であった「タバコ」、「眩しい」、「トイレ」、「時間」、「洗濯」を撮影対象として、目標地なきの散策をしながら5本のフィルムで記録した写真作品である。

 この作品によって、偶然性、ハプニング、無意識、漂流など現代アートがよく扱われる要素を自分の作品の中で実践した。

制作と展示

モチーフに注目してもらいたいため、モノクロフィルムを使用。

コントラストを出すために、増感2で撮影した。

偶発性のある写真を作るため、測光なしの全機械式カメラを使い、機械による露出測定をなるべく控えた。

写真の質感を出すため、粒状感が持つファインアートペッパーと和紙を使用した。

インパクトのある展示を作るため、A3、A4の写真を合計50枚に印刷し、透明シートに貼り付けて展示を行った 

4、不足点

 初めて写真作品を作り、経験不足で撮影から展示までのプロセスがうまく把握できなかった。例えばプリンターとプリント用紙の選び方、写真の展示方法などについてはまだ勉強しなければならないと思う。

 まだ作品の構想に対し、当初は無意識の手法を実践したかったが、実際にやってみると、無意識で作りたいことを思い詰めて、完全な無意識でモチーフを選ぶことがなかなか難しかった。この点についてもさらに練り上げなければならないと考えている。

 さらに思ったのは、本当の無意識で作品を作ることは可能であるかということだ。なぜなら、「無意識で作品を作る」自体も一種の意識ではないかと思うからである。つまり、「無意識で作品を作る」と思った時点から、「無意識」を実行することは不可能なことになってしまった。そのため、無意識で作品を作ったことより、もしろ「半意識」で作品を作ったことに近いではないかと考えた。

終わりに

 一年間のゼミ活動で、フィルドワーフ、ワークショップ、作品制作など活動に通じて、最初ゼミを参加する目的を達成した。まだ、大学の授業とゼミで勉強した現代アートについての知識を作品の中で実践したことも大変貴重な経験だと思う。さらに、これらの活動のおかけで、自分が現代アートについての勉強不足も意識され、これから現代アートについてさらに掘り下げる必要も感じられた。最後、ゼミで積み重ねた知識と経験をこれからの勉強、活動でさらに活用したいと思っている。



[i] シュルレアリズム、https://www.artpedia.asia/surrealism/、2022年1月6日にアクセスした。

[ii] シチュアシオニスト、https://artscape.jp/artword/index.php/シチュアシオニスト・インターナショナル%EF%BC%8Fアンテルナシオナル・シチュアシオニスト、2022年一月七日にアクセスした。

[iii] 漂流の理論、https://situationniste.hatenablog.com/entry/20061016/p1、2022年一月七日にアクセスした。