原亜由

アニメーションによる可視化 -世界の流れ-

1920 × 1080

ibisPaint, FlipaClip, iMovie

世界は繋がっている、地球の資源をみんなで共有していると言われる。しかし、先進国では資源を無駄遣いをし、途上国などでは物不足や環境破壊に苦しむ人がいる。それは「繋がっている」想像がつかないためだと私は考える。

今作品では先進国にものが流れていく様子をアニメーションで可視化する。先進国に物が集中し、ありがたみを感じないまま湯水の如く使われる。一方途上国では物が回ってこず、逆に吸い上げられる。このアニメーションを通じて、自分の行いと世界を俯瞰的に捉え直してもらいたい。

Visualization by Animation -the Flow of World-

1920 × 1080

ibisPaint, FlipaClip, iMovie

We say that “The world is connected.” “We share resources of earth with people all over the world.”. However, we waste a lot of resources everyday, even though there are people who can’t get enough food for a day. This might be caused because of the difficulty of imagining“the world is connected”.

This is the animation which visualizes “the flow of the world”. Things go to rich countries more than poor countries, and use them a lot without thanks. In the end, you can oversee own behavior and the world."

活動の記録

卒業研究プレゼン - 原亜由

2021年度秋学期科目「表象文化演習稲垣立男ゼミ」(水曜4・5限)卒業研究レポート

表現方法としてのアート

国際文化学部国際文化学科 4年L組 18G1124 原亜由

2年間のゼミを通して自分の抽象的な考えや、問題意識をアートで表現する試みを行なってきた。この研究テーマを選んだ背景には、伝えることへの苦悩があった。高校生の頃から自分の考えを伝えたり、難しいことを理解するのには図や絵を描いた方がわかりやすいと考えていた。一方、伝えたいニュアンスにあった言葉を探すことが苦手で、特に大学2年でイギリスに留学した際には複雑な胸の内を英語で伝えることに苦労した。そうした中、『コミュニケーションとアート』をテーマにしている稲垣ゼミに出会い、高校時代に得意としていたアートを使うことで、自分の頭の中で終わってしまっていたイメージを多くの人に伝えて影響を与えたいと考えた。表現方法にア ートを使用したのは、言語の壁を越えるためである。言語では自分と相手が互いに共有している単語と、その組み合わせの範囲内でしか表現できない。一方アートによる多様な表現は様々なイメージを表出し、言語に関係なく多くの人々に伝えられる。またアートは色や音楽、動き、質感などでより人々の五感を刺激するため、影響力も大きくなる。特にポップなイラストやアニメーシ ョンで表現することで、通常では耳の痛い話も受け入れやすくなると考えた。この試みが、3年と4年での研究成果をもとに、どのように実現されたかを述べる。

3年では日常の物事を違う角度から捉え直し、そこに隠された問題をイラストや映像で視覚的に表現した。

3年の春学期個人研究では新しい日常の中に隠された問題を風刺するアニメーション映像を制作した。春学期に履修したある授業で社会的に安定しているものは話題になる必要がなく、逆に「話題となるものには問題がある」と教えられた。そこで化粧やスマートフォンなど、最近当たり前になってきたものを違う視点からとらえた作品を作れば、そこに隠された問題を人々に見せることができるのではないかと考えた。

 このテーマを下に3つの映像作品を制作した。一つ目の『メイキングアップ』はメイクが人の顔を作っているようであることを表している。この作品を作ったのは、メイクなしの顔で出歩くことを恥ずかしいと思うが、メイクの工程からは顔を作りあげているように感じる。そのため、メイクの工程で顔の絵を塗っていく様子を映像にし、完成品と元の絵との差を見せることで、どれだけメイクが人の顔を変えてしまうのかを表現した。二つ目の『ルッキングアップ』ではスマートフォンを調べ物や娯楽を目的に使用する一方、使用者のことを調べられている様子を表現した。三つ目の『ハート』では人々が何気なくつける評価によって、多くの人々の今後が左右される様子を表現した。これら3つの作品はイラストレーターアプリibisPaint と映像編集ソフトiMovieを駆使し、イラストが動いているように見せた。特に『メイキングアップ』では、ibisPaint で描いてあるイラストの上からメイク道具で描き足していく様子を撮影することで、二次元と三次元を融合させた。

 3年秋学期の個人研究には「見ること」について考える絵画作品、『見る-見ている物、見ていない物-』を制作した。「見ること」に関する9つの問題を、見ている部分をよく見えない裸眼状態で水彩毛筆を使って描き、見られていない部分をコピックペンではっきりと描いてある。この作品を作ったのは、カラーコーディネーター検定の勉強で視覚の異常について興味を持ったのと、普段得ている眼鏡やコンタクトによる目の負担に疑問を抱いたからである。異物を目に投入してまで正常な視覚を得ようとするが、正常な視覚を手にしても見ていない部分が多くある。視覚情報の重要性、目が映す物、自分自身の目について考えるため、「見ること」に関する問題を考え出し、レンズ越しと裸眼双方の状態で絵を描いた。特に「見られてない部分」を正常な視覚で見て描き、「見られている部分」をよく見えない状態で描くことで、描き手も出来上がった作品を見る方にも新たな気づきを得て欲しいと考えた。

以上のように、3年次は日常を違う角度から捉え直し、見つけ出した問題をアニメーションとイラストで表現した。自分ができることや表現の仕方を模索し、短い時間の中で工夫をしながら作り上げられた点が良かったが、企画内容の具体化・全体を見通した作業計画作り・鑑賞者に理解させる説明の3点が考慮不足であった。この結果を踏まえ、次年度では作品の成果と鑑賞者の目線を意識して作品作りを行った。

 4年の春学期から11月までは「みなとメディアミュージアム」のサテライト展示に向け、アニメーション作品『No Rain, No Rainbow 』を制作した。MMMは那珂湊の活性化を目的としたアートプロジェクトであり、高校時代にもアーティストとして参加していた。稲垣ゼミでも現地でのフィールドワークを行うなど、長期的に作品内容を練ってきた。私は当初、那珂湊の町や訪れた人々を巻き込むような作品を作り、那珂湊に設置することで来訪した多く方々に見てもらいたいと考えていた。そこで那珂湊に住む方のインタビューをもとに、彼らの思い出の場所の絵を描いて設置しようと考えた。しかしコロナウイルの感染者が急増し、現地に赴くことが困難になった。MMM自体も、特に現地での作業・開催が困難になり、作品内容に行き詰まった。先行きが見えず暗い気持ちになったが、その際に那珂湊のローカル線「ひたちなか海浜鉄道」のことを思い出した。MMMや利用者の支援により廃線の危機を乗り越えたこの鉄道をモデルに作品を作ることが、コロナ禍で不安な日々を送る我々と那珂湊にとって意義があると考えた。表現方法も絵画からアニメーションにすることで、オンラインで鑑賞した場合でもクオリティが下がらないようにした。

 アニメーションでは電車の周辺の鳥や天気の動きの変化で、海浜鉄道の盛衰を表している。最初は天気の良い中鳥と共に電車は走っているが、徐々に天気が悪くなり鳥がいなくなる。大雨により電車は水没するが、雨脚が弱まると鳥が助けに来る。汚れた車体も鳥が花で飾り付ける。再び雨と風が強まり鳥が離れてしまうが、最終的には雲が晴れ、鳥と共に明るい方に電車は去っていく。電車はひたちなか海浜鉄道及び人生や景気を表し、天気の良し悪しは良い出来事や悪い出来事、鳥は動く人々を表している。このアニメーションの流れで海浜鉄道が利用者の減少で廃線の危機になり、支援によって立ち直った様子を表現すると同時に、悪いこともいつかは乗り越えられることを示している。

 卒業研究ではアニメーション作品『アニメーションによる可視化 -世界の流れ-』を制作した。これは、アニメーションにより抽象的なものや規模の大きなものを、客観的・俯瞰的に捉えられるようにする試みである。本作では世界が先進国のために動いている様子を表現した。

この作品を作ろうと思ったきっかけは国際文化学部のソーシャルプラクティスという授業である。ここでは生徒各々が環境問題についてプレゼンを行い、特に服などの大量生産・大量消費問題が多く上がった。そこで、地球の資源を世界で共有していることや、途上国で物不足などが起こっていることを知っていても、先進国で生きる我々は平然と無駄遣いをしてしまう現実を見た。そして、このように世界規模の問題を自分ごとに考えられない原因は想像がつかないからだと考えた。

 この問題を捉え直すためにアニメーションを選んだ理由は、昔から複雑なことや抽象的なことは視覚的にまとめたほうが分かりやすいと考えてきたためである。特に規模の大きいものをテーマに扱っているため、静止画よりも流れを見せられるアニメーションの方が適当だと考えた。また、ポップなアニメーションは難しい話や都合の悪い話も人々に受け入れやすくする効果もある。先行研究として、風刺的なグラフィックアートを手がけるバンクシーと、ポップで皮肉的なイラストやアニメーションを描くスティーブ・カッツを参照した。バンクシー[1]は資本主義や戦争を批判するようなイラストを公共施設の壁や民家に描いている。このように辛辣な内容でも彼のユーモアや絵のクオリティが人々を魅了し、高値で取引されている点から、問題をアートで表現することの影響力や受け入れやすさを学んだ。スティーブ・カッツ[2]もスマホ依存症や人間による資源の大量消費といった問題を批判するイラストやアニメーションを制作している。特に2012年に制作されたアニメーション『MAN』[3]では、人間が地球の資源を思うがままに使いゴミの星に変える様子を恐ろしく、かつコミカルに描いている。この動画はYouTubeに投稿され、今日までに5000万回以上視聴されている。[4]コミカルな絵と辛辣な表現、そしてアニメーションにおける見せ方が参考になった。

 作品内では途上国から先進国に物が流れていく様子をアニメーションで表現している。カラフルな絵の具を資源や物に例え、物が吸い上げられる途上国はモノクロに、与えられる先進国はカラフルに描いている。アニメーションのテーマも光・食べ物・水の3つで、途上国と先進国、全体の計6つから成り立つ。アニメーションの内容は実際に先進国、途上国で起こっている問題をもとに制作してある。例えば先進国であるアメリカのニューヨーク州での年間電力消費量は、南アフリカ共和国を除いたサブサハラ・アフリカ以南の電力消費量に匹敵するほど[5]にも関わらず、2017年の国際エネルギー機関(IEA)の調査曰く電力を使えない人々は世界に約10億人、電力以外のエネルギーまで含めると14億もの人が近代的なエネルギーを使えずに生活している。[6]一方、原始的な燃料である薪やワラに頼ろうとすると、二酸化炭素や有害物質を排出し、健康被害や火事が起こる。[7]また、日没後に灯りがないと生産活動ができなかったり、薪を集めるために子供が学校へ行く時間が奪われるという問題もある。[8]この問題を表現するため、先進国側の町が一瞬で大量の灯りに照らされる一方、途上国にいる人々は薪割りと煙によって苦しんでいる様子を描いた。このように3つの問題を先進国と途上国で対照的に描き、それらをランダムに配置することで、この対比的な状況が同じ時間に同じ地球上で行われている様子を表している。最後には途上国と先進国、そして物の流れと排出されるゴミの様子を引きで映すことで、世界の流れと起こっている問題を可視化させている。このアニメーションを通して、自分達の行動を見直すきっかけになればと考えている。

 以上のように、4年ではアニメーションを通して自分の問題意識を表現してきた。昨年度の課題であった計画性は、より前々から作業するようになり細かい作業や改良が行えたため作品の完成度を上げることができた。企画の具体化の問題も、企画作りの段階で細部までこだわり、意味付けにも説得力を持たせるように努めた。また、鑑賞者の目線を意識して制作するようになった。鑑賞者にどう見えて、どう捉えられるのかを考えながら見た目や構成、動画の流れにこだわった。その結果、昨年度よりも良い作品になったと考える。

2年間の稲垣ゼミでの研究を通して、自分の考えや問題意識をアートで表現し、人々にうったえてきた。特に4年の研究でより人々の心に響く作品を作れた要因は4つある。一つ目は完成度が上がるまで試行錯誤を行えるだけの作業計画に余裕ができたことである。3年では中途半端な企画のまま制作を始め、なかなか上手く進められずに締切に追われてしまっていた。二つ目は使用する技術の進歩である。3年次はイラストソフトと動画編集ソフトだけでアニメーションのように見せていたが、今年度はアニメーションソフトを使用したことで滑らかな動きを実現することができた。三つ目は意味づけである。展示の目的、表現したいこと、伝え方、相手にどう伝わるかまで考えて作業を行った。四つ目は客観的な視点と最後までクオリティにこだわる気持ちである。3年次は自分自身が分かれば良いと思っていたが、見る人の目線に立ち、最後に編集する時まで妥協をせずに作業をした結果、納得のいく作品となった。しかし、改善すべき点も3つあった。撮影やアニメーションを描く際の演出や構成、長期的な集中力と丁寧さ、動画の完成の仕方と展示方法への工夫をもっと行えたら、さらに良い作品になっていたと考える。社会人になっても作品作りを継続しようと考えているため、それらの3点を意識しながら今までとは違う作品を手がけるつもりである。

【参考文献一覧】

Steve Cutts、2012年12月22日、『MAN』(2022年1月8日取得、https://youtu.be/WfGMYdalClU)

Steve Cutts (2022年1月8日取得、https://www.stevecutts.com)

「バンクシーとは?経歴代表作についてわかりやすく解説」、This is Media、2017年5月30日、(2021年2月1日取得、https://media.thisisgallery.com/20181422)

『エネルギー貧困が引き起こす、環境破壊や煙による健康被害とは』、独立行政法人国際協力機構、(2022年1月8日取得、https://www.jica.go.jp/nantokashinakya/sekatopix/article052/index.html)

『開発途上国のエネルギー事情とマイクログリッド SDGs~目標7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに~ 』、Apiste, (2022年1月8日取得、https://www.apiste.co.jp/column/detail/id=4665#h2_2)


[1] 「バンクシーとは?経歴代表作についてわかりやすく解説」、This is Media、2017年5月30日、(2021年2月1日取得、https://media.thisisgallery.com/20181422)

[2] Steve Cutts 、『Home』、(2022年1月8日取得、https://www.stevecutts.com)

[3] Steve Cutts、2012年12月22日、『MAN』(2022年1月8日取得、https://youtu.be/WfGMYdalClU)

[4] 同上

[5] 『エネルギー貧困が引き起こす、環境破壊や煙による健康被害とは』、独立行政法人国際協力機構、(2022年1月8日取得、https://www.jica.go.jp/nantokashinakya/sekatopix/article052/index.html)

[6] 『開発途上国のエネルギー事情とマイクログリッド SDGs~目標7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに~ 』、Apiste, (2022年1月8日取得、https://www.apiste.co.jp/column/detail/id=4665#h2_2)

[7] 『エネルギー貧困が引き起こす、環境破壊や煙による健康被害とは』、独立行政法人国際協力機構、(2022年1月8日取得、https://www.jica.go.jp/nantokashinakya/sekatopix/article052/index.html)

[8] 『開発途上国のエネルギー事情とマイクログリッド SDGs~目標7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに~ 』、Apiste, (2022年1月8日取得、https://www.apiste.co.jp/column/detail/id=4665#h2_2)