第37回 人新世の始まりと終わり
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第37回 人新世の始まりと終わり
2020年に発売された『人新世の「資本論」』(斎藤幸平著)がベストセラーとなり、日本でも“人新世(じんしんせい、または、ひとしんせい)”という言葉が一躍有名になりました。英語では“Anthropocene”と書き、ギリシア語源の“人”(Anthropos)と“新”(-cene)を組み合わせて作られた造語です。ノーベル化学賞受賞者のクルッツェン博士が2000年の国際会議で発言したことで注目されました。“人新世”は、人類の活動が地球環境に影響を与えた時代として用いられていますが、実はこの言葉は学術的にはまだ認められていない“非公式”な時代区分であることをご存知でしょうか?
ジュラ紀や白亜紀といった皆さんも聞いたことがあるような時代区分は“地質年代”と呼ばれ、46億年の地球の歴史を地層や化石記録などによって区分しています。「(累)代」「紀」「世」「期」と階層的に分けられており、国際地質科学連合(IUGS)での厳密な議論を経て決められています。2020年には千葉県市原市に露出する地層を模式地として、77.4万年前~12.9万年前の時代が「チバニアン期」(ラテン語で“千葉の時代”)と認定されました。現代は、約1.17万年前に始まった「新生代・第四紀・完新世」にあたります。
“Anthropocene(人新世)”を、完新世の次に続く新しい時代区分と認定するための検討はIUGSの作業部会において2009年から行われてきましたが、2024年3月にこれが否決されました。理由は公表されていませんが、あくまでもこの決定は“人間が環境に影響を及ぼしている事実はない”ということではありません。人類の影響がどのような形で地層などに残されるのか、人新世を正確に定義するためには地質学的議論がまだ十分ではないという結論です。
2024年9月に愛媛大学を始めとした国際研究グループが、世界各地の地層記録を調べ、1948年から1953年(1952±3年)以降に、マイクロプラスチックや大気圏核爆発による放射性核種の急増など、全世界的に人為的影響を示す痕跡が認められることを明らかにしました(Kuwae et al., 2024)。今後、IUGSで “人新世”の認定に関する検討が進められることになるかと思います。
仮に将来“人新世”が新しい時代区分として認定されたとして、更なる未来に“人新世”の終わりが人類の絶滅で定義されることにならないよう、地球上の人類は知恵を絞り、最大の環境破壊である戦争をなくしていく為に不断の努力を続けていくことが現代に生きる地球人の責任だと考えます。
(引用文献)
Kuwae, M. et al (2024) Toward defining the Anthropocene onset using a rapid increase in anthropogenic fingerprints in global geological archives. DOI:10.1073/pnas.2313098121
ゴールデン・スパイク(金釘)が“チバニアン期(千葉時代)”の境界を示す。
\この記事を書いた人/
公開日:2025年2月1日