第16回 大きくなったらハチになる!

 街を歩いていて男の子とすれちがった。5歳くらいだろう。「僕、大きくなったらハチになって敵をたおすんだ!」かたわらを歩く(おそらくは)お母さんを見あげて真剣に話していた。大きくなったら(今よりずっと)小さなハチになるという言葉がおかしかった。人間がハチになれることを疑わない無邪気さに、おもわず笑みがこぼれた。子供の発想力と想像力の翼はどこまでも自由に広がる。この子は自分の持っている知識を総動員して、小さな頭をひねり、「敵」をたおす自分だけの方法を見つけたのだ。

生成系AIの利用をめぐって、今世の中が揺れている。教育・研究の場である大学は、その影響をもっとも強く受けることになるはずである。AIに委ねることで、便利になることはたくさんあるだろう。でも、将来はハチになると決めた男の子のように、自分自身で知恵をしぼって考えたことは、唯一無二の価値を持つ。個性が大事と思うならば、少しぐらいいびつでも、常識に照らして変だとしても、「自分だけのもの」を大切にしたほうがいい時がきっとあることだろう。



\この記事を書いた人/

副学長 村田奈々子

公開日:2023428