01. 2018年FIFAワールドカップ(ポーランド代表+@)
翼の騎兵は生きている
〈ポーランド代表15番選手と5番選手の物語〉
〈グループリーグ 日本対ポーランド〉
この試合に勝っても、決勝トーナメントに進めないことはわかっていた。
それでも、何とか勝利を上げて国に帰りたい。
そう思いながら、一進一退が続いていた。
不思議な光景を見たのは、フリーキックを獲得した時だった。
相手ゴールの前に、白い翼が見える。
あれは大昔に活躍した、翼を背負った騎兵の姿だ。
大きな槍が空気を切り裂いて、騎兵の元へ飛んでいく。
彼はそれを受け取り、敵陣へ力いっぱい打ちこんだ。
その男は真っ先におれのところへ駆け寄ってきた。
「せんぱい!」
おれは自分と同じ、ディフェンダーを務める後輩選手の体を受け止めた。
「よくやった、ほんとうによくやったなあ」
こいつの笑顔を久しぶりに見る。
自分でも前にこんなに笑ったのがいつだったのか、覚えていない。
うれしくて、彼の背中をばしっと叩いた。
* * *
この試合で入った点は、その1点だけだった。
おれたちは試合に勝ったのだ。
喜びもつかの間、再び寂しさが押し寄せてきた。
今年のワールドカップはこれで終わってしまった。
肩を負傷していなければ、もっと試合に出られて、みんなを助けられたかもしれないのに。
後輩は観客に手を振って、歓声に応えていた。
おれは後ろから彼に近づいて、肩に手を回した。
「先輩?」
「おれはきみに全部教えるよ、今まで経験してきたことを。きみは4年後も出て、みんなを助けてほしい」
後輩は何も言わない。
「きみの背中には昔の騎兵の……フサリアの翼がついてるから、できるはずだ」
相手はぽつりと答えた。
「ぼくだけじゃないですよ」
「えっ?」
「みんなフサリアの翼を持ってる、先輩も」
彼はおれの背中に片手を置いた。
やさしくさすってくれている。
そうだ、勇敢な騎兵の翼を持っているんだ、本当は。
おれも、キャプテンも、みんな。
どういうわけか、大会が始まると、その翼は見えなくなってしまった。
「先輩?……泣いてる?」
ごまかしたかったけれど、彼には全部お見通しだと思った。
「決勝トーナメントに上がって、いろんな国と戦うはずだった。ずっと楽しみにしてたんだ」
「ぼくも」
後輩はおれの顔を見つめた。
「またこのチームで、あなたといっしょに試合に出たい。そして、ぼくらは強いってことをみんなに見せようよ」
彼の瞳は強い意志を表すようにきらりと光った。
おれは後輩の肩をもう一度抱いた。
「そうだな……おれもきみといっしょに、このチームを守りたい。――そろそろみんなのところに戻ろう」
年下の選手は笑顔でうなずいた。
そして、背中を見せて駆け出した。
おれは目をこすった。
また、あの翼が見えるような気がした。
fin.
イラストだけ描いていたウルグアイ代表とボール↓