06. 欲張りなのかな

87年組

カフェテラスでスムージーを飲んでいると、あいつがやってきた。

同じスムージーを買ってきたようだ。

「よう。うるさいのが来たと思ってるんだろう?」

そう言いながら、向かいに座った。

「まあな。でもちょうどいいや。聞きたいことがある」

それは、おれが長いこと想像していることだった。

ただ、当事者本人にそれを聞くのはどうかと思ったけれど……。

「ランキング1位になるのって、どういう気分だった?」

彼はうーんとうなって考え始めた。

たぶん、何かおもしろいことでも言おうと思っているんだろう。

やっと答えた。ものすごい笑顔だ。

「教えてたまるか! ……自分で体験してみろよ」

「そうか。おれが体験するってことは、おまえを追い抜くってことだけどいいのか?」

「なるほど。じゃあ、ちょっと訂正する。やれるもんならやってみろよ」

「うん、やってみる。そのときはよろしくな」

二人で声を出して笑った。

――その場に急に沈黙が流れた。

お互い冗談を言える立場ではないことに、二人とも気づいてしまったのだ。

最初に沈黙を破ったのはそいつの方だった。

「ちょっと寂しいんだ」

おれは黙って聞いていた。

「こうやって一緒にスムージーを飲んでいても、いざコートで相対すると」

少し遠くを見るような目になった。

「そんなことは全部忘れてしまう。お互いにライバル以外の何者でもなくなる」

それを聞いて、びっくりした。

自分も同じことを考えたことがあるからだ。

つられて、いつの間にか言葉がこぼれた。

「欲張りなのかな」

「何が?」

「ライバルでも友人でもいたいって思うのは」

彼はこちらに視線を向けたまま、音を立ててスムージーを飲んだ。

「じゃあ、おれは欲張りなんだ。おまえと友達でいたいと思ってるから」

あまりにも素直な答えだったので、こちらの方が恥ずかしくなってしまった。

「そ、それはありがたいな。おれも同じ……」

「顔が赤いぞ。おもしろいな。写真とっていい?」

「待て待て待て待て、スマートフォン出すな!」

「じゃあツイッター……うわっ!」

おれは彼のスマートフォンを取り上げた。

「返せよ!」

「ツイッターに書かないって約束しろ」

「わかった。約束する」

「ほれ」

彼はぶつくさ言いながら、スマートフォンをしまった。

「あ。もう一つ約束」

「えっ? まだあるのかよ」

「さっきの話。友達でいたいって言っただろ。あの言葉、ずっと覚えていてほしい」

それを聞いて、やつは安心したようだ。

「なんだ、そんなことか。そっちこそ忘れるなよ」

そうだ。ライバルと友達、両方手に入れたっていいよな。

「大丈夫。おれだって、欲張りだから」