03. 悲しむ必要はない/心配するのは
デビスカップのチェココンビ
悲しむ必要はない
<2009年決勝>
みんなはロッカールームを引き上げた。
残ったのはぼくと先輩の二人だけだった。
「準優勝おめでとう、か」
「そうですね……」
「19年ぶりだもんな。おれたち、がんばったよな」
「……はい」
「他の国なんて毎試合メンバー替えてくるのに、おれたちは二人だけでこなしたんだぜ。我ながらよくやったよな」
何と答えていいか、ぼくはわからなかった。
「だから、悲しむ必要はない。そうだよな?」
彼の声の調子は、いつもと違っていた。
「先輩?」
「言ってくれ、悲しむことはないって! 泣かなくてもいいって! 言ってくれないと、おれは……」
思わず、彼の肩を抱いて叫んだ。
「言えないよ、そんなこと!」
「えっ?」
「悲しくないわけがないよ。他でもないあなたがあんなに長い試合を勝ち抜いてきて。ぼくの前で気持ちを隠さないで。だって、仲間なんだから」
先輩はうなだれて言った。
「今まで一番くやしいんだ。おまえたちと勝ちたかった。一緒にトロフィーを持って……」
「三色旗を広げて……先輩がぼくたちをここまで連れてきてくれた。ありがとう」
「おれだけの力じゃないぞ」
彼にしては珍しく、照れているようだ。
「来年はぼくが」
「ん?」
「ぼくがあなたを優勝まで連れて行きたい」
心配するのは
<2010年準決勝ダブルス>
ぼくはとても怖かった。
自分のせいで、1セット取られたんだ。
先輩がやってきた。
ぼくは彼の目を見られなかったから、帽子を深くかぶり直した。
「おまえは心配しなくていいんだ。いつかチャンスが来る。逆転できるぞ」
そんなこと言ったって……ぼくは反論しようとした。
そうする前に、彼が先手を取った。
「心配するのは、おれに任せとけ」
そう言って、帽子のつばを上に向かせた。
「おれは、おまえを信じる。おまえも、おれを信じろ」
ぼくは勇気をもらいたくて、彼の目を見つめた。
先輩は、にっこり笑った。
「よし。自信出てきたな。勝つぞ、おれたちが」
彼の笑顔を見ると、勇気がわいてくる。
「はい!」
はっきりと、その言葉に答えられた。