12. 静かな声
「スイスコンビを描きわけてみよう」と同じ頃、こっちの展開も考えていました
<2014年デビスカップ準々決勝>
ダブルスの試合が終わった。
パートナーの先輩と並んで歩いた。
二人とも無言だった。
最初に口を開いたのは先輩だった。
「こんなにプレッシャーを感じたのは久しぶりだ。体がうまく動かなかった。きみを助けてやれなかった」
低い声でさらに続けた。
「きみは毎回こんな気持ちを……」
彼の言おうとしていることはわかったけれど、気が付かないふりをした。
それに、こんなにつらそうな先輩の顔は見たくなかった。
だから、おれはわざと彼の言葉をさえぎった。
「あなたはちっとも心配しなくていいんだ!」
先輩は立ち止まって、こちらを見た。
おれは彼の両肩をつかんだ。
「明日はおれが絶対勝つから。それで、あなたにつなげる。だから……」
自分の声も体も震えているのに気が付いた。
準決勝に進めるかどうかが、明日のおれの試合にかかっているんだ。
もう逃げられない。
おれはぎゅっと目を閉じた。
……ほおに手のひらを感じた。
とても温かかった。
「明日のことは心配していないよ。きみは勝てるから」
恐る恐る目を開けてみると、彼の笑顔が見えた。
「きみの動きは昨日よりも良かった。明日はもっと良くなる」
それを聞くと、おれは少し前向きな気持ちになった。
はい、と答えようとしたら、頭を引き寄せられた。
先輩の肩に頭を埋めるような格好になった。
「一人で苦しまなくてもいい。パートナーがここにいるから」
その声はまた低くなっていた。
「もっと早くデビスカップに出場できていたらよかった。きみ一人に負担をかけて、恨まれてもしょうがない」
それを聞いて、なぜか涙があふれてきた。
苦しいのか、うれしいのか、よくわからなかった。
――あなたを恨むなんて、そんなこと考えたこともない。
二人で出られないのが寂しいだけだよ。
そう叫ぶ代わりに、何度も首を横に振った。
それで自分の気持ちが伝わってくれることを願った。
「ありがとう」
耳のそばで、静かな声が聞こえた。