08. 先輩のパートナー
チェコの先輩のとある事情について
「ぼくが先輩のパートナーだったら、ずっと一緒にいるのに」
後輩は突然こんな風に切り出した。
「え? ああ、ダブルスの話か?」
「はい。だって、あなたはぼくの好みじゃないもの」
やつはにっこり笑ってそう言った。
「何言ってんだ。まあ、そうだな。ダブルス、一緒に長く出られたらいいな」
「はい……」
彼はかすかに深刻そうな表情をした。
このように気を遣われるのには心当たりがある。
きっとチェコチームの発表を聞いたのだろう。
――おれと、彼女の事情について。
「気を遣わなくてもいいんだぞ。おれは大丈夫だから」
明るくそう言って、彼の肩に腕を回した。
「そんなつもりじゃありません。先輩には元気でいてほしいだけです」
「おれはおまえの好みじゃないんだよな?」
「ぜーんぜん、好みじゃないです」
いい笑顔で、おれの目を覗き込んできた。
言ってることと表情が正反対だぞ。
そう指摘するかわりに、髪の毛をぐしゃぐしゃとかきまわしてやった。