16. サンシャイン・ダブルス
フランスの先輩と後輩
先輩が後輩のスケジュールを知らないわけがないので、この物語はフィクションということでお願いします
<2016年インディアンウェルズの大会前>
この街は、大会開幕を控えてざわめいている。
おれは会場につくと、荷物やスケジュールをあれこれ確認した。
いつの間にか気持ちは逸れて、ダブルスパートナーの後輩のことを思い出していた。
――全豪オープンのシングルスの予選からあそこまで勝ち上がるとは、本人も予想していなかっただろう。
その後は、彼は今年はシングルスをがんばりたいと言って、別の大会に出ていた。
確かに、あいつには才能があるんだ。
ここの大会でも、シングルスに専念すればもっと――
「せんぱーい。お久しぶりです」
後ろから声がした。
件の後輩がラケットバッグを背負って、そこに立っていた。
「……久しぶりだ。今着いたのか?」
彼はラケットバッグを下に降ろした。
「はい。今日は先輩と打ち合わせをしようと思って」
「打ち合わせ?」
相手はバッグからいろいろと出しながら、大きくうなずいた。
「もちろん、インディアンウェルズのダブルスの打ち合わせです。今年最初のマスターズだから、がんばらなくちゃ」
おれは力が抜けてしまった。
「なんだ……きみはまたダブルスをするつもりなのか」
「ダブルスをやめたなんて言ってませんよ。だってぼくは先輩のパートナーだから。さ、始めましょう」
そいつはさっさと向かいの席に座って、ノートを広げた。
おれはあっけにとられてその様子を眺めた。
* * *
正午が近い。
日が真上に昇ってきて、窓からの日差しも強くなった。
「もう夏が近いのかな。まるで太陽が二つあるみたいだ」
後輩は外をのぞいて、独り言を言った。
太陽が二つ。
どこかでそんな言い回しを聞いたような気がする。
おれが妙な表情をしていたのか、やつは不思議そうな顔をした。
「いや、思い出せそうで思い出せないことが」
「そういうことなら、いつか誰かが教えてくれますよ。必要になったときに」
彼はにっこり笑って、そう答えた。
おれはうなずいた。
こいつの言う通りだ。
今はわからなくても、いつかわかるときが来るだろう。
後輩は年間スケジュールに目を留めた。
「……ここの次はマイアミか。あそこも暑そうだなあ」
おれはわざと厳しい表情を作った。
「マイアミもいいけど、まず目の前の大会だ。ここは風が強いから、その対策も……」
おれたちは打ち合わせを続けた。
窓からは相変わらず、明るい光が差している。