섹션 2 GRReadingS002

Across a blue tile patio, in through a door to the kitchen. Routine: plug in American blending machine won from Yank last summer, some poker game, table stakes, B.O.Q. somewhere in the north, never remember now. . . . Chop several bananas into pieces. Make coffee in urn. Get can of milk from cooler. Puree 'nanas in milk. Lovely. I would coat all the booze-corroded stomachs of England. . . . Bit of marge, still smells all right, melt in skillet. Peel more bananas, slice lengthwise. Marge sizzling, in go long slices. Light oven whoomp blow us all up someday oh, ha, ha, yes. Peeled whole bananas to go on broiler grill soon as it heats. Find marshmallows. . . .

青いタイルのパティオを横切り、ドアを抜けてキッチンへ。ルーティンの手順ーーアメリカ製...キサーの電源を差しこむ。去年の夏にアメリカ人から、どこだったか市の北の独身士官の界隈でやったポーカーで、賭け金代わりに巻きあげた代物だが、よくは憶えていな...バナナを数本刻み、コーヒーを淹れ、クーラーからミルクの缶を出す。バナナ-ミルクのピューレだぞ、英国中の酒にやられた胃壁をこれで癒してやる。...マーガリンを一カケ(この匂いならまだオーケーだ)シチュー鍋で溶かし、もっとたくさんバナナを剝いて縦方向にスライスし、溶けてジュージューいっているマーガリンの上に落としたら、オーヴンに点火。ポン!いつかみんな吹っ飛ぶぞ、ハハハ。グリルが熱くなってきたら、剝いたバナナを丸ごと入れてマシュマロを見つけてくる…

青いタイルのパティオを横切(よこぎ)り、ドアを抜けてキッチンへ。ルーティンの手順(てじゅん)ーーアメリカ製(せい)...キサーの電源(でんげん)を差(さ)しこむ。去年(きょねん)の夏にアメリカ人から、どこだったか市(いち)の北の独身士官(どくしんしかん)の界隈(かいわい)でやったポーカーで、賭(か)け金代わり(きんかわり)に巻きあげた代物(しろもの)だが、よくは憶(おぼ)えていな...バナナを数本刻み(かずもときざみ)、コーヒーを淹(い)れ、クーラーからミルクの缶(かん)を出す。バナナ-ミルクのピューレだぞ、英国中の酒にやられた胃壁(いへき)をこれで癒(いや)してやる。...マーガリンを一カケ(この匂いならまだオーケーだ)シチュー鍋(なべ)で溶(と)かし、もっとたくさんバナナを剝いて縦方向(たてほうこう)にスライスし、溶(と)けてジュージューいっているマーガリンの上に落(お)としたら、オーヴンに点火(てんか)。ポン!いつかみんな吹っ飛(ふっと)ぶぞ、ハハハ。グリルが熱くなってきたら、剝いた(むいた?)バナナを丸ごと入れてマシュマロを見つけてくる…

파란 타일 바닥의 테라스를 지나, 부엌으로 가는 문으로 들어선다. 해야 할 일은 다음과 같다. 지난여름 북쪽 어디에서였는지 생각도 안나지만, 그곳의 장교 막사에서, 포커 게임을 한 판 벌여 양키 녀석에게 돈 대신 따낸 미국제 믹서를 켜고 ...... 바나나를 칼로 조각낸다. 단지에 커피를 끓인다. 냉장고에서 우유 한 깡통을 꺼낸다. 바나나를 갈아 우유에 넣는다. 멋져. 할 수만 있다면 영국 방방곡곡 술에 전 위장들을 이것으로 다 발라 줄 텐데 ...... 마가린 약간을 프라이팬에 끓이고...... 아직 냄새가 괜찮군. 바나나 몇 개 더. 껍질을 벗겨 길쭉하게 썬다. 마가린이 끓으면 긴 바나나 조각을 넣고 오븐에 불을 ...... '펑'. 언젠가 우릴 다 날려버릴. 하하. 그래. 그릴이 달궈지면 껍질을 깐 바나나를 통째로 올린다. 마시멜로를 찾고......

In staggers Teddy Bloat with Pirate's blanket over his head, slips on a banana peel and falls on his ass. "Kill myself," he mumbles.

パイレートの毛布を頭にかぶったテディブロートがよろけて登場、バナナの皮に足をとられて尻から落ちる。「死ぬぜ」

パイレートの毛布(もうふ)を頭にかぶったテディブロートがよろけて登場(とうじょう)、バナナの皮(かわ)に足をとられて尻(しり)から落(お)ちる。「死ぬぜ」

테디 블로트가 '해적'의 담요를 머리에 쓰고 비틀비틀 들어오다가 바나나 껍질에 미끄러져 엉덩방아를 찧는다. "날 죽여라." 그가 중얼거린다.

"The Germans will do it for you. Guess what I saw from the roof."

"That V-2 on the way?"

"A4, yes."

"I watched it out the window. About ten minutes ago. Looked queer, didn't it. Haven't heard a thing since, have you. It must have fallen short. Out to sea or something."

"Ten minutes?" Trying to read the time on his watch.

"At least." Bloat is sitting on the floor, working the banana peel into a pajama lapel for a boutonnière.

「急ぐな、待ってりゃドイツ軍が殺してくれる。けさ屋上から何が見えたと思う?」

「V2が飛んでくるのか?」

「当たりだ。A4[*1]」

「窓から見てたよ。十分くらい前。ヘンなやつだったよな。あとの音沙汰がない!ってことは、不能ロケットで渥にポシャったか」

「十分前?」 腕時計を読もうとする。

「少なくともな」ブローは床に尻をついたままバナナの皮を一輪ントイール代わりにパジャマの襟に差そうとしている。

일주

1 「V2」とは、「報復兵器2号」という意味の俗称。ロケットの機種としてはA1から開発して四番目のモデルという意味で「A4」と呼ばれた。Aの意味は、463ページに。

「急ぐな、待ってりゃドイツ軍が殺してくれる。けさ屋上から何が見えたと思う?」

「V2が飛んでくるのか?」

「当たりだ。A4」

「窓から見てたよ。十分くらい前。ヘンなやつだったよな。あとの音沙汰(おとさた)がない!ってことは、不能(ふのう)ロケットで渥(あく)にポシャったか」

「十分前?」 腕時計を読もうとする。

「少なくともな」 ブロートは床(ゆか)に尻(しり)をついたままバナナの皮を一輪(いちりん)、花代(か)わりにパジャマの襟(えり)に差(さ)そうとしている。

Pirate goes to the phone and rings up Stanmore after all. Has to go through the usual long, long routine, but knows he's already stopped believing in the rocket he saw. God has plucked it for him, out of its airless sky, like a steel banana. "Prentice here, did you have anything like a pip from Holland a moment ago. Aha. Aha. Yes, we saw it." This could ruin a man's taste for sunrises. He rings off. "They lost it over the coast. They're calling it premature Brennschluss."

結局パイレートは電話機まで行ってスタンモアのダイヤルを廻す。例によってつながるまでに長ったらしい手続きを踏まなくてはならんのだが、実は本当にロケットを目撃したとは、もう自分でも信じていない。空の上から神の手が伸びてきて鋼鉄のバナナを一本もいでいっただけの話だろう。「こちらプレンティス、先ほどオランダ方面に何かキャッチしていませんか、レーダーに?そう、そうです。見ました、たしかです」これじゃ、日の出を眺める気も失せる、まったくいったん電話を切る。「一発、むこうの沿岸に落ちフレ... "ル、たとよ0燃焼終結のタイミングが早すぎたと言ってる」-落ちこむことはないさ」

結局パイレートは電話機まで行ってスタンモアのダイヤルを廻(まわ)す。例(れい)によってつながるまでに長ったらしい手続き(てすずき)を踏(ふ)まなくてはならんのだが、実(じつ)は本当にロケットを目撃(もくげき)したとは、もう自分でも信じていない。空の上から神の手が伸(の)びてきて鋼鉄のバナナを一本もいでいっただけの話だろう。「こちらプレンティス、先ほどオランダ方面(ほうめん)に何かキャッチしていませんか、レーダーに?そう、そうです。見ました、たしかです」これじゃ、日の出(ひので)を眺(なが)める気も失(う)せる、まったくいったん電話を切る。「一発、むこうの沿岸(えんがん)に落ちたとよ。燃焼終結のタイミングが早すぎたと言ってる」

"Cheer up," Teddy crawling back toward the busted cot. "There'll be more."

Good old Bloat, always the positive word. Pirate for a few seconds there, waiting to talk to Stanmore, was thinking, Danger's over, Banana Breakfast is saved. But it's only a reprieve. Isn't it. There will indeed be others, each just as likely to land on top of him. No one either side of the front knows exactly how many more. Will we have to stop watching the sky?

「落ちこむことはないさ」 ブロートは破損した寝台に這いもどって、「次のやつがまた来るって」

プロートというやつは万事において前向きだ。スタンモアの本部につながるのを待ちながら、ハイレートの頭の中に数秒間、考えがめぐる。危険は去り<パナーナ朝食会>は救われた、とはいっても執行が猶予されただけの話。そうだよな。いつまた別のロケットが自かけて落ちてくるか、今後どれだけの数を打ち上げるのか、両軍どちらもわか分の脳天めっていない。もう空を見るのはやめろってことかよ...

「落ちこむことはないさ」 ブロートは破損(はそん)した寝台(しんだい)に這(は)いもどって、「次のやつがまた来るって」

プロートというやつは万事(ばんじ)において前向(まえむ)きだ。スタンモアの本部(ほんぶ)につながるのを待ちながら、パイレートの頭の中に数秒間(すうびょうかん)、考えがめぐる。危険(きけん)は去(さ)り<パナーナ朝食会>は救(すく)われた、とはいっても執行(しっこう)が猶予(ゆうよ)されただけの話。そうだよな。いつまた別のロケットが自かけて落ちてくるか、今後(こんご)どれだけの数(かず)を打(う)ち上げるのか、両軍(りょうぐん)どちらもわか分(ぶん)の脳天(のうてん)めっていない。もう空を見るのはやめろってことかよ...

Osbie Feel stands in the minstrels' gallery, holding one of the biggest of Pirate's bananas so that it protrudes out the fly of his striped pajarna bottoms—stroking with his other hand the great jaundiced curve in triplets against 4/4 toward the ceiling, he acknowledges dawn with the following:

演奏者用バルコニーに立ったオズビーフィールが、パイレートの温室産の特大バナナを縞のパジャマのズボンの穴から天井に向けて突き立てている。片手で、その屹立する黄色い曲面を、三連符を強調したブルースのリズムに合わせて撫でながら、夜明けを告げる歌のはじまりだーー

演奏者用(えんそうしゃよう)バルコニーに立ったオズビーフィールが、パイレートの温室産の特大(とくだい)バナナを縞(しま)のパジャマのズボンの穴(あな)から天井に向けて突(つ)き立てている。片手(かたて)で、その屹立(きつりつ)する黄色い曲面を、三連符(さんれんぷ)を強調(きょうちょう)したブルースのリズムに合わせて撫(な)でながら、夜明け(よあけ)を告(つ)げる歌のはじまりだーー

Time to gather your arse up off the floor, (have a bana-na)

Brush your teeth and go toddling off to war.

Wave your hand to sleepy land,

Kiss those dreams away,

Tell Miss Grable you're not able,

Not till V-E Day, oh,

Ev'rything'll be grand in Civvie Street (have a bana-na)

Bubbly wine and girls wiv lips so sweet—

But there's still the German or two to fight,

So show us a smile that's shiny bright,

And then, as we may have suggested once before—

Gather yer blooming arse up off the floor!

起きーろ、みんなヶッあげSろー(ハヴァバナーナ)

歯をみかけ、きょうも戦争に出かけるぞ

眠る祖国に、手を振って

夢のあの娘にゃキスしてバイバイ

グレイブルちゃん[*2]、いい子で待ってて

VEディ[*3]ーまでおあずけだーー

帰ってきたら、めちゃくちゃパーティ(ハヴァ・パナーナ)

バブリーワインにグラマーガール

けどその前に、ドイツ兵野郎をつぶさにゃならん

だから笑って、白い歯みせて

というわけで、さっきも言ったが

起きーろ、みんなヶ〜ツあげ〜ろ〜〜〜〜

일주

2 アメリカ映画『ピンナップーガール』(一九四四)に出演した美脚の女優ベテイーグレイブル。

3 欧州戦線での勝利の日。ほほ四月半後の一九四五年五月八日に実現する。

起きーろ、みんなヶッあげ〜ろー(ハヴァバナーナ)

歯をみかけ、きょうも戦争に出かけるぞ

眠(ねむ)る祖国(そこく)に、手を振(ふ)って

夢のあの娘にゃキスしてバイバイ

グレイブルちゃん、いい子で待ってて

VE ディーまでおあずけだーー

帰ってきたら、めちゃくちゃパーティ(ハヴァ・パナーナ)

バブリーワインにグラマーガール

けどその前に、ドイツ兵野郎(へいやろう)をつぶさにゃならん

だから笑って、白い歯みせて

というわけで、さっきも言ったが

起きーろ、みんなヶ〜ツあげ〜ろ〜〜〜〜

There's a second verse, but before he can get quite into it, prancing Osbie is leaped upon and thoroughly pummeled, in part with his own stout banana, by Bartley Gobbitch, DeCoverley Pox, and Maurice ("Saxophone") Reed, among others. In the kitchen, black-market marshmallows slide languid into syrup atop Pirate's double boiler, and soon begin thickly to bubble. Coffee brews. On a wooden pub sign daringly taken, one daylight raid, by a drunken Bartley Gobbitch, across which still survives in intaglio the legend SNIPE AND SHAFT, Teddy Bloat is mincing bananas with a great isosceles knife, from beneath whose nervous blade Pirate with one hand shovels the blonde mash into waffle batter resilient with fresh hens' eggs, for which Osbie Feel has exchanged an equal number of golf balls, these being even rarer this winter than real eggs, other hand blending the fruit in, not overvigorously, with a wire whisk, whilst surly Osbie himself, sucking frequently at a half-pint milk bottle filled with Vat 69 and water, tends to the bananas in the skillet and broiler. Near the exit to the blue patio, DeCoverley Pox and Joaquin Stick stand by a concrete scale model of the Jungfrau, which some enthusiast back during the twenties spent a painstaking year modeling and casting before finding out it was too large to get out of any door, socking the slopes of the famous mountain with red rubber hot-water bags full of ice cubes, the idea being to pulverize the ice for Pirate's banana frappés. With their nights' growths of beard, matted hair, bloodshot eyes, miasmata of foul breath, DeCoverley and Joaquin are wasted gods urging on a tardy glacier.

二番の歌詞もあるのだが、そこに行きつく前に、パートリーゴビッチとデカヴァリー・ポックスとモーリス。(*サクソフォン。)・リードを先頭とする面々が飛びかかり、奪いとったバナナで跳梁するオズビーをしたたか打ちのめした。キッチンでは、パイレートのダブルボイラーの上で、闇市から来たマシュマロがフニャリとシロップの中へ滑りおち、じきにトロトロふつふつ濃密な沸騰を始めるだろう。コーヒーが香る。木製のパブの看板をまな板にして、どでかい両刃のナイフを手にしたテディ・ブロートがバナナを切りきざんでいる。<スナイプ&シャフト>の文字が消えずに残るこの看板は、あるとき酔ったバトリーゴビッチが大胆にも白昼の襲撃でせしめてきた。バナナを刻むテディ*ブロトの神経質な刃先の下に、パイレートの片手がさっと入って金色に輝く練り物を押しのけフレッシュエッグをからめたワッフルの練り粉の中へ落とす。この卵、オズビーが同じ数のゴルフポールと交換で手に入れてきたもの - この冬のゴルフボールは鶏卵以上に数が乏しいというのに。パイレートのもう一方の手は針金の泡立て器を握っている。混ぜたバナナをかき混ぜるには力の入れすぎに要注意。ヴァット69の水割り入りの牛乳を、ときどき自分の口にも入れながら、オズビーは仏頂面してフライパンとダブルボイラーの中のトロトロ加減を見ている。ブルーのパティオへの戸口付近には、コンクリート製のユングフラウの縮尺模型があって、これは一九二○年代の一徹な男がまる1年、鋳型作こひとりりとコンクリ流しに励んでいるうち、ドアから出すのが不可能なほど大きくなってしまった。そのユングフラウの斜面に、デカヴァリーボックスとヒーキン、スティックがゴム製の湯たんぽをぶつけているのは、バナナ・フラッペ用の氷を砕いているのだ。幾晚起きぬけのクシャクシャ髪、目は充血し、毒気をはらんだ息を吐く両人も伸ばしたヒゲ、をm兄ていると、酔、c。法らった古代神が動きの鈍い氷河をせき立てているかのよう、だ。

二番の歌詞(かし)もあるのだが、そこに行きつく前に、パートリーゴビッチとデカヴァリー・ポックスとモーリス。(”サクソフォン”)・リードを先頭(せんとう)とする面々が飛(と)びかかり、奪い(うばい)とったバナナで跳梁(ちょうりょう)するオズビーをしたたか打(う)ちのめした。キッチンでは、パイレートのダブルボイラーの上で、闇市(やみいち)から来たマシュマロがフニャリとシロップの中へ滑り(すべり)おち、じきにトロトロふつふつ濃密な(のうみつな)沸騰(ふっとう)を始めるだろう。コーヒーが香る(かおる)。木製(もくせい)のパブの看板(かんばん)をまな板(いた)にして、どでかい両刃(りょうば)のナイフを手にしたテディ・ブロートがバナナを切りきざんでいる。<スナイプ&シャフト>の文字(もじ)が消えずに残るこの看板は、あるとき酔ったバトリーゴビッチが大胆(だいたん)にも白昼(はくちゅう)の襲撃(しゅうげき)でせしめてきた。バナナを刻む(きざむ)テディ-ブロトの神経質な(しんけいしつな)刃先(はさき)の下に、パイレートの片手がさっと入って金色に輝く練り物(ねりもの)を押(お)しのけフレッシュエッグをからめたワッフルの練り粉(ねりこ)の中へ落とす。この卵、オズビーが同じ数のゴルフポールと交換(こうかん)で手に入れてきたものーーこの冬のゴルフボールは鶏卵以上に数(かず)が乏しい(とぼしい)というのに。パイレートのもう一方(いっぽう)の手は針金(はりがね)の泡立て(あわたて)器を握(にぎ)っている。混(ま)ぜたバナナをかき混ぜるには力の入れすぎに要注意(ようちゅうい)。ヴァット69の水割り(みずわり)入りの牛乳を、ときどき自分の口にも入れながら、オズビーは仏頂面(ぶちょうずら)してフライパンとダブルボイラーの中のトロトロ加減(かげん)を見ている。ブルーのパティオへの戸口(とぐち)付近(ふきん)には、コンクリート製のユングフラウの縮尺模型(しゅくしゃくもけい)があって、これは一九二○年代の一徹な(いってつな)男がまる1年、鋳型作(いがたさく)こひとりりとコンクリ流しに励(はげ)んでいるうち、ドアから出すのが不可能なほど大きくなってしまった。そのユングフラウの斜面(しゃめん)に、デカヴァリ-ボックスとヒーキン、スティックがゴム製の湯たんぽをぶつけているのは、バナナ・フラッペ用の氷を砕(くだ)いているのだ。幾晚(きめん?)起(お)きぬけのクシャクシャ髪、目は充血(じゅうけつ)し、毒気(どくけ)をはらんだ息(いき)を吐(は)く両人(りょうにん)を見ていると、酔っぱらった古代神(こだいしん)が動きの鈍い(にぶい)氷河(ひょうが)をせき立(た)てているかのようだ。

Elsewhere in the maisonette, other drinking companions disentangle from blankets (one spilling wind from his, dreaming of a parachute), piss into bathroom sinks, look at themselves with dismay in concave shaving mirrors, slap water with no clear plan in mind onto heads of thinning hair, struggle into Sam Brownes, dub shoes against rain later in the day with hand muscles already weary of it, sing snatches of popular songs whose tunes they don't always know, lie, believing themselves warmed, in what patches of the new sunlight come between the mullions, begin tentatively to talk shop as a way of easing into whatever it is they'll have to be doing in less than an hour, lather necks and faces, yawn, pick their noses, search cabinets or bookcases for the hair of the dog that not without provocation and much prior conditioning bit them last night.

メゾネットの別の場所では、ほかの酒飲み仲間が毛布とからんだ身をはがし(パラシュートの夢を見て、毛布の外へ屁をぶっぱなしたヤツもいる)、浴室の流しに小便をしゲ剃り用の凹んだ鏡の自分の姿を見てうろたえ、頭髪の退きはじめた額を無策にペチャペチャ湿らせ、サム・ブラウン・ベルト[*4]を締め、はやくもやる気のなさそうな手で午後の雨に備えて靴に塗油し、うろ覚えのあやしげな節で流行歌を口ずさみ、仕切られた窓からこぼれ来る光だまりに身を横たえて暖まった気分になり、あと小一時間で始まる本日の軍務のウォームアップに仕事の話をぼそぼそ始める。首と顔面に泡を塗りたくり、欠伸をし鼻クソをほじり、 "犬の毛"[*5]はないかとキャビネットや本棚を探し回る。手出ししたのはこっちだったが、その犬には、条件づけもあったとはいえ、昨晩こっぴどく噛みつかれた。

일주

4 ななめのショルダー・ストラップ。しばしば脇にホルスターもついた軍用ベルト。

5 迎え酒」のこと。犬に噛まれたとき傷口に犬の毛をはりつける習わしから。

メゾネットの別の場所では、ほかの酒飲み(さけのみ)仲間が毛布とからんだ身をはがし(パラシュートの夢を見て、毛布の外へ屁(へ)をぶっぱなしたヤツもいる)、浴室(よくしつ)の流しに小便(しょうべん)をし、ヒゲ剃(そ)り用の凹(へこ)んだ鏡(きょう)の自分の姿を見てうろたえ、頭髪(とうはつ)の退き(しりぞき)はじめた額(がく)を無策に(むさくに)ペチャペチャ湿(しめ)らせ、サム・ブラウン・ベルトを締(し)め、はやくもやる気のなさそうな手で午後の雨に備(そな)えて靴に塗油し(ぬりあぶらし)、うろ覚え(おぼえ)のあやしげな節で流行歌(はやりうた)を口ずさみ、仕切(しき)られた窓からこぼれ来(く)る光だまりに身を横たえて暖(あたた)まった気分(きぶん)になり、あと小一時間(こいちじかん)で始まる本日の軍務のウォームアップに仕事の話をぼそぼそ始める。首と顔面(がんめん)に泡(あわ)を塗りた(ぬりた)くり、欠伸(あくび)をし鼻クソをほじり、 "犬の毛"はないかとキャビネットや本棚(ほんだな)を探し回る(さがしまわる)。手出し(てだし)したのはこっちだったが、その犬には、条件(じょうけん)づけもあったとはいえ、昨晩(さくばん)こっぴどく噛(か)みつかれた。

Now there grows among all the rooms, replacing the night's old smoke, alcohol and sweat, the fragile, musaceous odor of Breakfast: flowery, permeating, surprising, more than the color of winter sunlight, taking over not so much through any brute pungency or volume as by the high intricacy to the weaving of its molecules, sharing the conjuror's secret by which—though it is not often Death is told so clearly to fuck off—the living genetic chains prove even labyrinthine enough to preserve some human face down ten or twenty generations ... so the same assertion-through-structure allows this war morning's banana fragrance to meander, repossess, prevail. Is there any reason not to open every window, and let the kind scent blanket all Chelsea? As a spell, against falling objects. . . .

昨夜の紫煙と酒と汗の臭いに代わって今この部屋にたちこめる、<朝食>の繊細にしてバナナ的な芳香。花の香のような、充満する、驚くべき、冬の陽ざしの色より濃厚な香り0荒々しく鼻を突くのでも量で圧倒するのでもなく、細やかに入り組んだ分子の織りあわせによって支配を拡げる。組成に込められた魔法によって11 <死>がこんなにきっぱりと蹴り出されることもめずらしい11遺伝子が織りなす連鎖は、ひとりの人間の顔を十世代、二十世代と保持し伝えるに充分な迷宮的複雑さを持つものだ。それと同じ<構造による主張>が、戦時の街に、朝のバナナの芳香を這わせ、くねらせ、行きわたらせる。窓を開けよう、すべての窓を。この優しい香りをチェルシー全体に敷きつめよう。落下してくる物体からの魔除けとして…

昨夜の紫煙(しえん)と酒と汗(あせ)の臭いに代わって今この部屋にたちこめる、<朝食>の繊細(せんさい)にしてバナナ的な芳香(ほうこう)。花の香(はなのか)のような、充満(じゅうまん)する、驚く(おどろく)べき、冬の陽ざし(ひざし)の色より濃厚(のうこう)な香(かお)り。荒々しく(あらあらしく)鼻を突(つ)くのでも量(りょう)で圧倒(あっとう)するのでもなく、細(こま)やかに入り組んだ分子(ぶんし)の織りあわせに(おりあわせに)よって支配(しはい)を拡(ひろ)げる。組成(そせい)に込められた魔法(まほう)によってーー <死>がこんなにきっぱりと蹴り出される(けりだされる)こともめずらしいーー遺伝子(いでんし)が織(お)りなす連鎖(れんさ)は、ひとりの人間の顔を十世代(じゅうせだい)、二十世代と保持し(ほじし)伝(つた)えるに充分な迷宮的(めいきゅうてき)複雑さ(ふくざつさ)を持つものだ。それと同じ<構造に(こうぞうに)よる主張(しゅちょう)>が、戦時(せんじ)の街(まち)に、朝のバナナの芳香(ほうこう)を這わせ(はわせ)、くねらせ、行きわたらせる。窓を開けよう、すべての窓を。この優しい(やさしい)香り(かおり)をチェルシー全体に敷(し)きつめよう。落下してくる物体(ぶったい)からの魔除け(まよけ)として…

With a clattering of chairs, upended shell cases, benches, and ottomans, Pirate's mob gather at the shores of the great refectory table, a southern island well across a tropic or two from chill Corydon Throsp's mediaeval fantasies, crowded now over the swirling dark grain of its walnut uplands with banana omelets, banana sandwiches, banana casseroles, mashed bananas molded in the shape of a British

lion rampant, blended with eggs into batter for French toast, squeezed out a pastry nozzle across the quivering creamy reaches of a banana blancmange to spell out the words C'est magnifique, mais ce n'est pas la guerre (attributed to a French observer during the Charge of the Light Brigade) which Pirate has appropriated as his motto . . . tall cruets of pale banana syrup to pour oozing over banana waffles, a giant glazed crock where diced bananas have been fermenting since the summer with wild honey and muscat raisins, up out of which, this winter morning, one now dips foam mugsfull of banana mead . . . banana croissants and banana kreplach, and banana oatmeal and banana jam and banana bread, and bananas flamed in ancient brandy Pirate brought back last year from a cellar in the Pyrenees also containing a clandestine radio transmitter . . .

椅子を動かす音。砲弾箱を逆さにしてベンチやらトルコ風長椅子やらを引きずる音。 "海賊"の仲間たちが巨大な会食テーブルの岸辺に集う。ここはもうコリドン・スロスプの冷んやりと中世的な幻想空間ではない。回帰線をまたいだ向こう、熱帯の島の岸辺だ。黒々と木目うず巻く胡桃材の台地に上がった彼らはバナナ・オムレツ、バナナ・サンド、バナナ・キャセロールを攻めおとす。片脚立ちのライオンの英国紋章の形に造ったマッシュ・バナーナを生卵と一緒にフレンチトースト用の生地に混ぜこみ、筒先から絞りだしてバナーナ・ブラマンジェのクリーミーな地の上に、C'est maagnifique、mais ce n'est pas la guerre[*6] の文字を記す。<軽騎隊の攻撃>に際してフランスの将軍が口にしたというこの言葉[*7]を、パイレートはみずからのモットーとしていた…背の高い瓶に入れた淡色のバナナ・シロップがバナナ・ワッフルの上にトロリ。大瓶の中は、角切りにした去年の夏のバナナに蜂蜜と干葡萄を加えて発酵させてあり、そこから1人がマグになみなみ泡立つバナナ酒を掬いとる...バナナ・クロワッサンにバナナ・クレプラック、バナナ・オ-トミ-ル、バナナ・ジャム、バナナ・ブレッド。リストは尽きない。ピレネー山脈の酒蔵111そこには秘密の無線通信機もあった11からパイレートが持ち帰った古い年代物のブランデーをかけて火であぶったバナナ...

일주

6 フランス語で「見事ではあるが戦争ではない」。

7 クリミア戦争時の一八五四年十月、カーディガン卿の率いる軽騎隊が、バラクラヴァの谷を渡って、圧倒的に数で勝るロシア軍に攻撃を仕掛けたのを、丘から見ていたフランスのピエール。ボスケ将軍がったとされる。悲壮な戦いはテニスンの詩を通して有名になった。

椅子を動かす音。砲弾箱(ほうだんばこ)を逆(さか)さにしてベンチやらトルコ風(ふう)長椅子やらを引きずる音。 "海賊"の仲間たちが巨大な(きょだいな)会食テーブルの岸辺(きしべ)に集う(つどう)。ここはもうコリドン・スロスプの冷ん(ひやん)やりと中世的(ちゅうせいてき)な幻想(げんそう)空間ではない。回帰線(かいきせん)をまたいだ向こう、熱帯(ねったい)の島の岸辺だ。黒々(こくこく)と木目(もくめ)うず巻く胡桃材(くるみざい)の台地(だいち)に上がった彼らはバナナ・オムレツ、バナナ・サンド、バナナ・キャセロールを攻(せ)めおとす。片脚立ち(かたあしたち)のライオンの英国紋章の形(かたち)に造(つく)ったマッシュ・バナーナを生卵(なまたまご)と一緒にフレンチトースト用の生地(きじ)に混(ま)ぜこみ、筒先(つつさき)から絞(しぼ)りだしてバナーナ・ブラマンジェのクリーミーな地(ち)の上に、C'est maagnifique、mais ce n'est pas la guerre の文字(もじ)を記す(しるす)。<軽騎隊の攻撃(けいきたいのこうげき)>に際(さい)してフランスの将軍が口にしたというこの言葉を、パイレートはみずからのモットーとしていた…背の高い瓶に入れた淡色(たんしょく)のバナナ・シロップがバナナ・ワッフルの上にトロリ。大瓶(オうびん)の中は、角切り(かくぎり)にした去年(きょねん)の夏のバナナに蜂蜜(はちみつ)と干葡萄(ひぶどう)を加(くわ)えて発酵(はっこう)させてあり、そこから1人がマグになみなみ泡立(あわだ)つバナナ酒を掬(すく)いとる...バナナ・クロワッサンにバナナ・クレプラック、バナナ・オ-トミ-ル、バナナ・ジャム、バナナ・ブレッド。リストは尽(つ)きない。ピレネー山脈(さんみゃく)の酒蔵(さかぐら)ーーそこには秘密の無線通信機(むせんつうしんき)もあったーーからパイレートが持ち帰った古い年代物(ねんだいもの)のブランデーをかけて火であぶったバナナ...

The phone call, when it comes, rips easily across the room, the hangovers, the grabassing, the clatter of dishes, the shoptalk, the bitter chuckles, like a rude metal double-fart, and Pirate knows it's got to be for him. Bloat, who's nearest, takes it, forkful of bananes glacées poised fashionably in the air. Pirate takes up a last dipper of mead, feels it go valving down his throat as if it's time, time in its summer tranquility, he swallows.

"Your employer."

"It's not fair," Pirate moans, "I haven't even done me morning pushups yet."

電話が鳴っている。部屋をつんざき、二日酔いも、いちゃつきも、皿のガチャガチャも、まじめな話も苦笑いもみんなつんざく、二連発の金属音のオナラのようなベル[*8]。おれだ、とパイレートは確信する。近くにいたブロートが、もう一方の手にフォークに刺したバナナ・グラッセを突き上げた恰好で受話器をとる。パイレートはバナナ酒の最後の一口をあおる。喉元をそれが降りていくのを感じる。まるで時そのものをーー穏やかな夏のひと時をーー飲みこんだかのようだ。

「おまえの雇用主だ」

「人使いが荒いぜ」パイレートが呻く。「まだ朝の腕立て伏せもすませていない」

일주

8 イギリスの電話のベルはジン・ジーンと11回ずつ鳴る。

電話が鳴っている。部屋をつんざき、二日酔いも、いちゃつきも、皿のガチャガチャも、まじめな話も苦笑(にがわら)いもみんなつんざく、二連発(にれんぱつ)の金属音のオナラのようなベル。おれだ、とパイレートは確信(かくしん)する。近くにいたブロートが、もう一方(いっぽう)の手にフォークに刺(さ)したバナナ・グラッセを突(つ)き上げた恰好で(かっこうで)受話器(じゅわき)をとる。パイレートはバナナ酒の最後の一口(ひとくち)をあおる。喉元(のどもと)をそれが降りていくのを感じる。まるで時そのものをーー穏(おだ)やかな夏のひと時をーー飲みこんだかのようだ。

「おまえの雇用主(こようしゅ)だ」

「人使(ひとずか)いが荒(ら)いぜ」 パイレートが呻く(うめく)。 「まだ朝の腕立て伏せ(うでたてふせ)もすませていない」

The voice, which he's heard only once before—last year at a briefing, hands and face blackened, anonymous among a dozen other listeners—tells Pirate now there's a message addressed to him, waiting at Greenwich.

これまでに一度だけ耳にしたことのある声だった。去年この声で作戦指示を受け、手も顔も黒くして正体を隠した一ダースの面々に混ざって聴いた。その同じ声が告げる11グリニッジに、パイレート宛てのメッセージが届いていると。

これまでに一度だけ耳にしたことのある声だった。去年この声で作戦指示(しじ)を受け、手も顔も黒(くろ)くして正体(しょうたい)を隠した一ダースの面々に混(ま)ざって聴いた。その同じ声が告(つ)げる1ーーグリニッジに、パイレート宛(あ)てのメッセージが届(とど)いていると。

"It came over in a rather delightful way," the voice high-pitched and sullen, "none of my friends are that clever. All my mail arrives by post. Do come collect it, won't you, Prentice." Receiver hits cradle a violent whack, connection breaks, and now Pirate knows where this morning's rocket landed, and why there was no explosion. Incoming mail, indeed. He gazes through sunlight's buttresses, back down the refectory at the others, wallowing in their plenitude of bananas, thick palatals of their hunger lost somewhere in the stretch of morning between them and himself. A hundred miles of it, so suddenly. Solitude, even among the meshes of this war, can when it wishes so take him by the blind gut and touch, as now, possessively. Pirate's again some other side of a window, watching strangers eat breakfast.

「なかなか愉快な届き方だった」甲高く、不機嫌そうなその声が言う。「私の知り合いに、そんな賢いのはいないな。私への手紙はみな郵便で届くよ。取りに来てくれるだろうねプレンティス君」受話器を置く乱暴な音。回線が切れる。そうか、今朝(けさ)のロケットが落ちた場所と、爆発がなかった理由がこれで解けた。「郵便でーす」か、まったく[*9]。太陽光線の控え壁を通して朝食の光景を眺める。豊穣のバナナにむしゃぶりつく仲間たち。腹をすかせた男たちの濃厚な咀嚼音は、両者の間の朝の拡がりのどこかで失われ、彼の耳まで届いてこない突然、100マイルの距離を感じた。戦争の網の目の中に生きていても、孤独は襲ってくる。孤独は勝手気ままなものであって、はらわたを不意につかんで今も彼を引きずりこんだ。どこかの窓の向こうに立って、見知らぬ男らの食事シーンを眺めているような感覚が今また彼を捉える。

일주

9 19ページの自分自身のつぶやきへの言及。英兵の間で、飛んでくる爆弾のことを!郵便iと言い換えるスラングが流行っていた。

「なかなか愉快な(ゆかいな)届き方(かた)だった」甲高く(かんだかく)、不機嫌(ふきげん)そうなその声(そのごえ)が言う。「私の知り合いに、そんな賢い(かしこい)のはいないな。私への手紙はみな郵便で届くよ。取りに来てくれるだろうねプレンティス君」受話器を置く乱暴(らんぼう)な音。回線が切れる。そうか、今朝(けさ)のロケットが落ちた場所と、爆発(ばくはつ)がなかった理由(りゆう)がこれで解(ほど)けた。「郵便でーす」か、まったく。太陽光線(たいようこうせん)の控え(ひかえ)壁を通して朝食の光景(こうけい)を眺(なが)める。豊穣(ほうじょう)のバナナにむしゃぶりつく仲間たち。腹(はら)をすかせた男たちの濃厚な咀嚼音(そしゃくおん)は、両者(りょうしゃ)の間(ま)の朝の拡(ひろ)がりのどこかで失われ(うしなわれ)、彼の耳まで届いてこない突然、100マイルの距離(きょり)を感じた。戦争の網(あみ)の目の中に生きていても、孤独は襲(おそ)ってくる。孤独は勝手(かって)気ままなものであって、はらわたを不意につかんで今も彼を引きずりこんだ。どこかの窓の向こうに立って、見知(みし)らぬ男らの食事シーンを眺めているような感覚が今また彼を捉(とら)える。

He's driven out, away, east over Vauxhall Bridge in a dented green Lagonda by his batman, a Corporal Wayne. The morning seems togrow colder the higher the sun rises. Clouds begin to gather after all. A crew of American sappers spills into the road, on route to clear some ruin nearby, singing:

It's...

Colder than the nipple on a witch's tit!

Colder than a bucket of penguin shit!

Colder than the hairs of a polar bear's ass!

Colder than the frost on a champagne glass!

車で市街を走る。従卒のウェイン伍長[*10]が運転する凹みのあるグリーンのラゴンダは、ヴォクソール橋を渡り一路東へ。今朝の気温は日が昇るにつれて低下していくかのようだ。どうやら雲もたちこめてきた。近くの爆撃跡の片づけに向かうアメリカの工兵たちが道に吐き捨てるように歌う

きょうの寒さはよー

越冬隊のジャケッ

魔女の垂れたパ〜イパイ

ペンギンウンコのバ〜ケツ

シロクマのおケツの冷たさあだよ〜お

일주

10 因みに、一九三九年に始まった漫画のバットマンの本名も(ブルス。)ウェイン。

車で市街(しがい)を走る。従卒(じゅうそつ)のウェイン伍長(ごちょう)が運転する凹み(へこみ)のあるグリーンのラゴンダは、ヴォクソール橋を渡り(わたり)一路(いちろ)東(あずま)へ。今朝(けさ)の気温は日が昇るにつれて低下(ていか)していくかのようだ。どうやら雲もたちこめてきた。近くの爆撃跡(ばくげきあと)の片づけに向かうアメリカの工兵(こうへい)たちが道に吐(は)き捨(す)てるように歌う

きょうの寒さはよー

越冬隊(えっとうたい)のジャケッ

魔女(まじょ)の垂(た)れたパ〜イパイ

ペンギンウンコのバ〜ケツ

シロクマのおケツの冷(つめ)たさあだよ〜お

No, they are making believe to be narodnik, but / know, they are of lasi, of Codreanu, his men, men of the League, they . . . they kill for him—they have oath! They try to kill me . . . Transylvanian Magyars, they know spells ... at night they whisper. . . . Well, hrrump, heh, heh, here comes Pirate's Condition creeping over him again, when he's least expecting it as usual—might as well mention here that much of what the dossiers call Pirate Prentice is a strange talent for—well, for getting inside the fantasies of others: being able, actually, to take over the burden of managing them, in this case those of an exiled Rumanian royalist who may prove needed in the very near future. It is a gift the Firm has found uncommonly useful: at this time mentally healthy leaders and other historical figures are indispensable. What better way to cup and bleed them of excess anxiety than to get someone to take over the running of their exhausting little daydreams for them ... to live in the tame green lights of their tropical refuges, in the breezes through their cabanas, to drink their tall drinks, changing your seat to face the entrances of their public places, not letting their innocence suffer any more than it already has ... to get their erections for them, at the oncome of thoughts the doctors feel are inappropriate . . . fear all, all that they cannot afford to fear . . . remembering the words of P. M. S. Blackett, "You can't run a war on gusts of emotion." Just hum the nitwit little tune they taught you, and try not to fuck up:

違う、やつらはナロードニキの仮面をかぶって人民の味方のふりをしているが、俺は欺かれんぞ。あいつらはヤシの町の出で、コドレアヌに属する<連盟>[*11]の連中なのだ。首領の指示で殺す誓いを立てている。おれも狙われている...トランシルヴアニアのマジャール人というのは魔法の呪文を知っていて...夜になるとささやくのだ。…おっと、オッホン、ヘッ、ヘッ、パイレート様の<海賊的コンディション>というのがまたぞろ現れてきたようですな。まさかというときにかぎっていつも出現する。ここらでお話ししておきましょう、公的ファイルが「海賊プレンティス」と呼ぶのは、実に奇異なる才能で、どんな才能かって、これがすごい。他人の空想に入りこみ、当人に代わってその管理を引き受ける、いま入ってきたのは、ルーマニアからの逃亡者で、この先すぐにも必要になるかもしれない王党派の一員の空想だ。プレンティスのこの才能は<ファーム>[*12]にしてみたら、ありがたいことこの上ない。戦争のこの時期に、指導者そのほか歴史をつくる要人の精神衛生は是が非でも守らなくてはならないわけで、心に溜まってくる過剰な不安要素は取り除きたい。それを誰かに引き受けさせることができたら、そりゃもう、<ファーム>にとっては願ったり叶ったりだ。白昼夢など沸いてきたなら、そんなものに精神を消耗させず、汲みとりだして別の誰かに管理させる...熱帯の隠れ家の淡い緑の光の中で暮らしたり小屋を吹きぬけるそよ風を感じて、長いグラスのドリンクを飲んだりするのは、こっちの男にお任せあれ。席を替わって、お偉方の出入りする公館の玄関と向かい合い、きちんと見張って、彼らの無垢な心にこれ以上の負担を負わせないよう...勃起を感じてきたら代わりにしてさしあげる、医者たちが不適切と感じる想念もみんな引きうけて…恐怖も感じずにすむよう代わりに感じてさしあげる... P.M.S。ブラケット教授[*13]も言っていたじゃないですか。「感情の突風で戦争は導けない」と。まぁ、教わった戯れ唄でも歌って、気を静めて、ヘマはやらかさないことだーー

일주

11 ルーマニアの反共。反ユダヤ活動は、一九二11年、ヤン大学の学生だったコルネリ?コドレアヌを中心に「国家キリスト教防衛連盟」を結成。さらに極右化を強め、11七年には「大天使ミカエル軍団」(通称「鉄衛団」)の成立を見る。

12 <the Firm>とは、SOE<特殊作戦執行部>の通称。

13 素粒子研究の霧箱を開発して後にノーベル賞を得た物理学者で、戦争中は、空軍の対空作戦司令長官のアドヴァイザや、海軍省の戦略研究部局のディレクターを務めた。

違う、やつらはナロードニキの仮面(かめん)をかぶって人民(じんみん)の味方(みかた)のふりをしているが、俺は欺(あざむ)かれんぞ。あいつらはヤシの町の出(しゅつ)で、コドレアヌに属(ぞく)する<連盟>の連中なのだ。首領(しゅりょう)の指示(しじ)で殺す誓(ちか)いを立てている。おれも狙(ねら)われている...トランシルヴアニアのマジャール人というのは魔法の呪文(じゅもん)を知っていて...夜になるとささやくのだ。…おっと、オッホン、ヘッ、ヘッ、パイレート様の<海賊的コンディション>というのがまたぞろ現(あわ)れてきたようですな。まさかというときにかぎっていつも出現する。ここらでお話ししておきましょう、公的(こうてき)ファイルが「海賊プレンティス」と呼(よ)ぶのは、実に奇異なる才能で、どんな才能かって、これがすごい。他人の空想(くうそう)に入りこみ、当人(とうにん)に代わってその管理を引き受ける、いま入ってきたのは、ルーマニアからの逃亡者(とうぼうしゃ)で、この先すぐにも必要になるかもしれない王党派(おうとうは)の一員(いちいん)の空想だ。プレンティスのこの才能は<ファーム>にしてみたら、ありがたいことこの上(うえ)ない。戦争のこの時期(じき)に、指導者(しどうしゃ)そのほか歴史をつくる要人(ようじん)の精神衛生(せいしんえいせい)は是(ぜ)が非(ひ)でも守らなくてはならないわけで、心に溜(た)まってくる過剰な(かじょうな)不安要素(ようそ)は取り除(のぞ)きたい。それを誰かに引き受けさせることができたら、そりゃもう、<ファーム>にとっては願(ねが)ったり叶(かな)ったりだ。白昼夢(はくちゅうむ)など沸(わ)いてきたなら、そんなものに精神を消耗(しょうもう)させず、汲(く)みとりだして別の誰かに管理させる...熱帯(ねったい)の隠(かく)れ家(が)の淡(あわ)い緑の光の中で暮らしたり小屋(こや)を吹(ふ)きぬけるそよ風を感じて、長いグラスのドリンクを飲んだりするのは、こっちの男にお任(まか)せあれ。席を替わって、お偉方(えらがた)の出入り(でいり)する公館の玄関と向かい合い、きちんと見張(みは)って、彼らの無垢(むく)な心にこれ以上の負担(ふたん)を負(お)わせないよう...勃起(ぼっき)を感じてきたら代わりにしてさしあげる、医者たちが不適切(ふてきせつ)と感じる想念もみんな引きうけて…恐怖(きょうふ)も感じずにすむよう代わりに感じてさしあげる... P.M.S.ブラケット教授(きょうじゅ)も言っていたじゃないですか。「感情(かんじょう)の突風(とっぷう)で戦争は導(みちび)けない」と。まぁ、教(おそ)わった戯(たわむ)れ唄(うた)でも歌(うた)って、気を静(しず)めて、ヘマはやらかさないことだーー

Yes—I'm—the—

Fellow that's hav-ing other peop-le's fan-tasies,

Suffering what they ought to be themselves—

No matter if Girly's on my knee—

If Kruppingham-Jones is late to tea, I don't even get to ask for whom the bell's ...

[Now over a lotta tubas and close-harmony trombones]

It never does seem to mat-ter if there's daaaanger,

For Danger's a roof I fell from long ago —

I'll be out-one-day and never come back,

Forget the bitter you owe me, Jack,

Just piss on m' grave and car-ry on the show!

そうさ、オレ様、夢想の請負人

ひとのファンタシーを肩代わり

代わりに被ってさしあげる

カワイコちゃんが膝にいたって

クラッピンガム・ジョーンズさんがお茶に来てなくたって

お声がかかれば出動だ、誰がために鐘が鳴ろうとカンケーない

[ここで多数のチューバとトロンボーンの密集和音]

危険もなにもカンケーない

危険という名の屋根からは、とうに滑りおちた身だ

ある日オレ様が出かけたきりになったなら

むかしの怨みは忘れろよ

墓に小便ひっかけて、しかしショーは続けてくれ

そうさ、オレ様、夢想(むそう)の請負人(うけおいにん)

ひとのファンタシーを肩代(かたが)わり

代わりに被(かぶ)ってさしあげる

カワイコちゃんが膝(ひざ)にいたって

クラッピンガム・ジョーンズさんがお茶に来てなくたって

お声がかかれば出動だ、誰がために鐘(かね)が鳴ろうとカンケーない

[ここで多数(たすう)のチューバとトロンボーンの密集和音(みっしゅうわおん)]

危険(きけん)もなにもカンケーない

危険という名の屋根からは、とうに滑り(すべり)おちた身だ

ある日オレ様が出かけたきりになったなら

むかしの怨み(うらみ)は忘れろよ

墓(はか)に小便(しょうべん)ひっかけて、しかしショーは続けてくれ

He will then actually skip to and fro, with his knees high and twirling a walking stick with W. C. Fields' head, nose, top hat, and all, for its knob, and surely capable of magic, while the band plays a second chorus. Accompanying will be a phantasmagoria, a real one, rushing toward the screen, in over the heads of the audiences, on little tracks of an elegant Victorian cross section resembling the profile of a chess knight conceived fancifully but not vulgarly so—then rushing back out again, in and out, the images often changing scale so quickly, so unpredictably that you're apt now and then to get a bit of lime-green in with your rose, as they say. The scenes are highlights from Pirate's career as a fantasist-surrogate, and go back to when he was carrying, everywhere he went, the mark of Youthful Folly growing in an unmistakable Mongoloid point, right out of the middle of his head. He had known for a while that certain episodes he dreamed could not be his own. This wasn't through any rigorous daytime analysis of content, but just because he knew. But then came the day when he met, for the first time, the real owner of a dream he, Pirate, had had: it was by a drinking fountain in a park, a very long, neat row of benches, a feeling of sea just over a landscaped rim of small cypresses, gray crushed stone on the walks looking soft to sleep on as the brim of a fedora, and here comes this buttonless and drooling derelict, the one you are afraid of ever meeting, to pause and watch two Girl Guides trying to adjust the water pressure of the fountain. They bent over, unaware, the saucy darlings, of the fatal strips of white cotton knickers thus displayed, the undercurves of baby-fat little buttocks a blow to the Genital Brain, however pixilated. The tramp laughed and pointed, he looked back at Pirate then and said something extraordinary: "Eh? Girl Guides start pumping water . . . your sound will be the sizzling night . . . eh?" staring directly at no one but Pirate now, no more pretense. . . . Well, Pirate had dreamed these very words, morning before last, just before waking, they'd been part of the usual list of prizes in a Competition grown crowded and perilous, out of some indoor intervention of charcoal streets ... he couldn't remember that well . . . scared out of his wits by now, he replied, "Go away, or I will call a policeman."

二回目のサビのところは、歌なしのバンド演奏。ここでパイレートは膝を高く上げ、前後にスキップwe・フィールズ[*14]の頭(ピンクの鼻つき、トップハットつき)を握りに彫ったステッキをクルリと回し、マジックもやってみせそうな調子。これに走馬燈幻影が伴う。実物の光影が、観客の頭越しにスクリーンの軌道の上に降りかかる。その断面はヴィクトリア朝風のチェスのナイトに似せた繊細なイメージで、繊細ではあるけれども卑猥ではない ーーそしてまた後方へ飛びさっていく突入と退却を繰りかえす映像の大きさの変化があまり急激なので、見ている方はときどきは薔薇色にライムの緑を混ぜたみたいな気分になる。投影されるのは、代理夢想人としてのパイレートの生涯のハイライト集だ。若き日の、蒙古斑のとれない脳が<少年期の阿呆>の印を、頭の中心から投射しまくっていたころのエピソードに遡る。自分が夢想することの中に、こんなものが含まれるはずがないということは、ずいぶん前から意識していた。いや、白昼にしっかり内容の分析したわけじゃないが、ピンときていた。そしてとうとう、彼の夢想の実の帰属者と初めて出会う日がやってくる。あれは公園の水飲み場の近くだった。ベンチが長く整った列をなして連なり、刈りこまれた小さな糸杉のすぐ向こうに海の気配がした。歩道のグレイの砕石は、フェドラ帽の縁のよう、寝ころんだら気持ちよさそうだなと見えたそのとき、ボタンのとれた、涎たらしの、こんなやつ誰も会いたくないよって感じの浮浪者がやってきて、ガルスカウトの少女がふたり、噴水の水の高さを調節している手前に立った。少女たちは気がつかずに屈みこむ、そして避けがたく白い木綿の下着が丸見えとなるその下の、まだボチャポチ中した小さなお尻の曲面が、パイシートのイカレた性感も確実に刺激する。それを指さして浮浪者はケタケタ笑い、一瞬パイレートのほうを振り向いて、なんとも不思議なセリフを吐いた。「ガールスカウトのねえちゃんが水を飛ばす…おまえの音は身も焦げる夜…だな?」こう言ってパイレートの目を見つめる。まじめな表情。いやはや、このセリフ、まさに二日前の朝、目をさます直前に夢に出てきたものだった。何かのコンテストがあって、その景品のリストに、この言葉が何気なく含まれていたのだ。あたりはすごく人だかりがして危険な雰囲気で、室内のはずなのにチャコール色の通りが入りこんできて...!記憶はあいまいなのだが...同じ言葉をまた聞いて恐怖を感じたパイレートは、「あっち行け、さもないと警察を呼ぶぞ」と言ったのだった。

일주

14 当時まだ健在だった仏頂面の喜劇王。

二回目のサビのところは、歌なしのバンド演奏。ここでパイレートは膝(ひざ)を高く上げ、前後(ぜんご)にスキップ。W.C.フィールズの頭(ピンクの鼻つき、トップハットつき)を握り(にぎり)に彫(ほ)ったステッキをクルリと回し、マジックもやってみせそうな調子(ちょうし)。これに走馬燈(そうまとう)幻影(げんえい)が伴(ともな)う。実物(じつぶつ)の光影(みつかげ)が、観客の頭越し(あたまごし)にスクリーンの軌道(きどう)の上に降りかかる。その断面(だんめん)はヴィクトリア朝風(あさかぜ)のチェスのナイトに似(に)せた繊細(せんさい)なイメージで、繊細ではあるけれども卑猥(ひわい)ではない ーーそしてまた後方(こうほう)へ飛びさっていく突入(とつにゅう)と退却(たいきゃく)を繰(く)りかえす映像(えいぞう)の大きさの変化があまり急激(きゅうげき)なので、見ている方はときどきは薔薇色(ばらいろ)にライムの緑を混(ま)ぜたみたいな気分(きぶん)になる。投影(とうえい)されるのは、代理夢想(だいりむそう)人としてのパイレートの生涯(しょうがい)のハイライト集(しゅう)だ。若き日の、蒙古斑(もうこはん)のとれない脳(のう)が<少年期(しょうねんき)の阿呆(あほ)>の印(しるし)を、頭の中心から投射(とうしゃ)しまくっていたころのエピソードに遡る(さかのぼる)。自分が夢想(むそう)することの中に、こんなものが含(ふく)まれるはずがないということは、ずいぶん前から意識(いしき)していた。いや、白昼(はくちゅう)にしっかり内容(ないよう)の分析(ぶんせき)したわけじゃないが、ピンときていた。そしてとうとう、彼の夢想の実の帰属者(きぞくしゃ)と初めて出会う日がやってくる。あれは公園の水飲み場の近くだった。ベンチが長く整(ととの)った列をなして連(つら)なり、刈りこまれ(かりこまれ)た小さな糸杉(いとすぎ)のすぐ向こうに海の気配(けはい)がした。歩道(ほどう)のグレイの砕石(さいせき)は、フェドラ帽(ぼう)の縁のよう、寝ころんだら気持ちよさそうだなと見えたそのとき、ボタンのとれた、涎(よだれ)たらしの、こんなやつ誰も会いたくないよって感じの浮浪者がやってきて、ガルスカウトの少女(しょうじょ)がふたり、噴水の水の高さを調節(ちょうせつ)している手前に立った。少女たちは気がつかずに屈みこむ(かがみくむ)、そして避(さ)けがたく白い木綿(もめん)の下着(したぎ)が丸見えとなるその下の、まだボチャポチ中した小さなお尻(しり)の曲面が、パイシートのイカレた性感も確実に刺激(しげき)する。それを指さして浮浪者はケタケタ笑い、一瞬パイレートのほうを振り向い(ふりむい)て、なんとも不思議なセリフを吐いた(はいた)。「ガールスカウトのねえちゃんが水を飛ばす(とばす)…おまえの音は身も焦げる(こげる)夜…だな?」こう言ってパイレートの目を見つめる。まじめな表情(ひょうじょう)。いやはや、このセリフ、まさにニ日(ふつか)前の朝、目をさます直前(ちょくぜん)に夢に出てきたものだった。何かのコンテストがあって、その景品のリストに、この言葉が何気なく(げなく)含(ふく)まれていたのだ。あたりはすごく人だかりがして危険(きけん)な雰囲気で、室内のはずなのにチャコール色の通りが入りこんできて...!記憶(きおく)はあいまいなのだが...同じ言葉をまた聞いて恐怖(きょうふ)を感じたパイレートは、「あっち行け、さもないと警察を呼ぶぞ」と言ったのだった。

It took care of the immediate problem for him. But sooner or later the time would come when someone else would find out his gift,

someone to whom it mattered—he had a long-running fantasy of his own, rather a Eugène Sue melodrama, in which he would be abducted by an organization of dacoits or Sicilians, and used for unspeakable purposes.

それでその場はしのげたが、しかしいずれは誰か、彼の特異な才能に気づくだろう。そしてしかるべき目的に利用してやろうと考えるだろう、パイレートは長いこと、ある自前の夢想に悩まされた。これはウージェーヌ・シュー[*15]のメロドラマのようであって、ビルマコイツの盗賊団かシチリアのマフィアかに誘拐され、口にできないような目的に使われそうになるのである。

일주

15 海賊小説でも名を馳せたフランスの作家(一八〇四~五七)。

それでその場はしのげたが、しかしいずれは誰か、彼の特異な才能に気づくだろう。そしてしかるべき目的に利用してやろうと考えるだろう、パイレートは長いこと、ある自前(じまえ)の夢想に悩まされた(なやまされた)。これはウージェーヌ・シューのメロドラマのようであって、ビルマコイツの盗賊団(とうぞくだん)かシチリアのマフィアかに誘拐され(ゆうかいされ)、口にできないような目的に使われ(つかわれ)そうになるのである。

In 1935 he had his first episode outside any condition of known sleep—it was during his Kipling Period, beastly Fuzzy-Wuzzies far as eye could see, dracunculiasis and Oriental sore rampant among the troops, no beer for a month, wireless being jammed by other Powers who would be masters of these horrid blacks, God knows why, and all folklore broken down, no Gary Grant larking in and out slipping elephant medicine in the punchbowls out here . .. not even an Arab With A Big Greasy Nose to perform on, as in that wistful classic every tommy's heard . . . small wonder that one fly-blown four in the afternoon, open-eyed, in the smell of rotting melon rinds, to the seventy-seven-millionth repetition of the outpost's only Gramophone record, Sandy MacPherson playing on his organ "The Changing of the Guard," what should develop for Pirate here but a sumptuous Oriental episode: vaulting lazily and well over the fence and sneaking in to town, to the Forbidden Quarter. There to stumble into an orgy held by a Messiah no one has quite recognized yet, and to know, as your eyes meet, that you are his John the Baptist, his Nathan of Gaza, that it is you who must convince him of his Godhead, proclaim him to others, love him both profanely and in the Name of what he is ... it could be no one's fantasy but H. A. Loaf's. There is at least one Loaf in every outfit, it is Loaf who keeps forgetting that those of the Moslem faith are not keen on having snaps taken of them in the street... it is Loaf who borrows one's shirt runs out of cigarettes finds the illicit one in your pocket and lights up in the canteen at high noon, where presently he is reeling about with a loose smile, addressing the sergeant commanding the red-cap section by his Christian name. So of course when Pirate makes the mistake of verifying the fantasy with Loaf, it's not very long at all before higher echelons know about it too. Into the dossier it goes, and eventually the Firm, in Their tireless search for negotiable skills, will summon him under Whitehall, to observe him in his trances across the blue baize fields and the terrible paper gaming, his eyes rolled back into his head reading old, glyptic old graffiti on his own sockets. . . .

ふつう睡眠とは見なされない状態で "夢"を見た最初は一九三五年-当時は彼は<キップリング時代>であって、あたり一面、野蛮なファジーワジー[*16]が群れる中にいた。ギニア虫症だの東洋瘤腫だのが蔓延し、まる一ヶ月もビールが飲めず、本国との交信も、なぜだか知らぬが忌むべき土人の宗主になりたがっている他の列強の妨害にあってままならず、話のタネも尽きた。おふざけ調子のケーリー・グラントが入ってきてパンチボウルの中に象に使うクスリを混入するでもなく[*17]…英国兵なら誰もが聞いた懐かしの古典ぎったデカ鼻のアラブ人>の話も底をついた…そんな、蠅のたかる午後四時、メロンの皮の腐った臭いがする中で、この前哨地の唯一の音盤ーー「衛兵の交替」オルガン演奏、サンディ マクファーソンーーの七千七百万回目の再生中のことであった。だからそれほど不思議というわけでもないのだが、豪華なるオリエンタル風の夢想がパイレートのぼっちり開いた眼の前に展開したのである。任務をさぼってフェンスのずっと向こう側、街の<禁区>へ忍びこむ。そこで乱交パーティを主宰するのは、まだ誰も正体に気づいていない<救世主>だ。彼と眼があった瞬間に確信が起こる。自分は彼の洗礼者ヨハネであり、ガザのナタンであって[*18]、彼こそは神の子であると、本人にも周囲にも宣告し、そして彼を、地上的な意味でも、その聖なる御名においても愛するのだ、と。こんな幻想を抱くのは誰だろう、H・A・ローフのやつに決まっている。どの部隊にもこういうヤカラが一人はいる。イスラム信仰をもつ者は路上でスナップ写真を撮られたがらないこともポイと忘れてしまうヤツ...人のシャツを失敬して煙草を吸いきってしまうとあんたのポケットに手を伸ばして不法の紙巻きを抜き取り白昼の食堂で火を点けて、やがてニンマリ笑ってふらふらと憲兵のセクションまで歩いて行って、統括している軍曹にファースト・ネームで呼びかける。こんな野郎に、この幻想はお前のだなと確認を求めたのが運の尽き、彼の特異な才能はただちに上官たちの知れるところとなった。<書類>に書きこまれ、やがて<ファム>へ送られ、あらゆる才の徹底利用を図る<かれら>の探索の眼にかかったらもうホワイトホール[*19]への呼び出しは避けられない。ブルーのベイズ織りの野原のなか、トランス状態にされ、実験結果をペーパーまたペーパーに書きつけられ、眼球をぐるり廻され、眼窩に刻まれた太古の象形文字のような落書きを読まされるのだ…

일주

16 英軍の侵略に対して勇猛に刃向かった東スーダンの民族の英兵による呼び名。”縮れ毛の土人“を意味する蔑称だが、ラドヤード・キップリングが彼らを賛美した詩(一八九二)のタイトルとして知れ渡った。

17 インドを舞台にしたキップリングの詩『ガンガ・ディン 』の映画化作品(ケーリー。グラント主演、一九三九)に出てきたシーン。

18 ヨハネはキリストに洗礼をほどこし、いわば救世主として送りだした預言者ナタンはダビデ王にヤハウェの意思を伝えた預言者。

19 首都の統治機構の中心をなす通り。ここに英国陸軍省、海軍省のほか、財務省、ロンドン警視庁などが並んでいた。

The first few times nothing clicked. The fantasies were O.K. but belonged to nobody important. But the Firm is patient, committed to the Long Run as They are. At last, one proper Sherlock Holmes London evening, the unmistakable smell of gas came to Pirate from a dark

street lamp, and out of the fog ahead materialized a giant, organlike form. Carefully, black-shod step by step, Pirate approached the thing. It began to slide forward to meet him, over the cobblestones slow as a snail, leaving behind some slime brightness of street-wake that could not have been from fog. In the space between them was a crossover point, which Pirate, being a bit faster, reached first. He reeled back, in horror, back past the point—but such recognitions are not reversible. It was a giant Adenoid. At least as big as St. Paul's, and growing hour by hour. London, perhaps all England, was in mortal peril!

最初の数回は反応が来なかった。夢想自体に不足はなかったが、意味ある人物のものではなかった。それでも<ファーム>は辛抱強く、「長期の展望」なるものを見据えていた。そしてついに、あるシャーロック・ホームズ的なロンドンの宵のこと、明かりの消えた街灯から、間違いようのないガスの臭いがただよってきて、前方、夜霧の中から現れいでた。こ、これは何だ、巨大な生物の器官か。注意深くにじり寄る黒靴のパイレート。そいつは敷石の上をぬるりぬるりと、カタツムリのように彼に向かって進み寄ってくる。通った跡の舗道に光るネバネバは、霧のせいでそう見えるわけじゃない。パイレートは恐怖によろけながら後退。両者の中央に交差点があり、怪物よりは早足だった彼が先にそこにたどり着いてとりあえず難は逃れたが、知ってしまったことは消し去りようもない。そいつはなんと、肥大扁桃腺であったのだ!いや扁桃腺といっても、すでにセントポールの大聖堂ほどの大きさがあって、時間の経過とともに肥大化していく一方なのだ。ロンドン中が、ひょっとしたらイギリス全土が、壊滅に瀕している!

This lymphatic monster had once blocked the distinguished pharynx of Lord Blatherard Osmo, who at the time occupied the Novi Pazar desk at the Foreign Office, an obscure penance for the previous century of British policy on the Eastern Question, for on this obscure sanjak had once hinged the entire fate of Europe:

Nobody knows-where, it is-on-the-map,

Who'd ever think-it, could start-such-a-flap?

Each Montenegran, and Serbian too,

Waitin' for some-thing, right outa the blue—oh honey

Pack up my Glad-stone, 'n' brush off my suit,

And then light me up my bigfat, cigar—

If ya want my address, it's

That O-ri-ent Express,

To the san-jak of No-vi Pa-zar!

このリンパ肥大のモンスターはかつて、プレイザラード・オズモ卿の高貴な咽頭をふさいだ経歴を持つ。当時オズモ卿は外務省でノヴィ・バザール担当のデスクにあって、前世たた紀英国の東方政策に祟られ、かつてはヨーロッパ全土の命票懸かった[*20]この地に関する贖罪業務を、人知れず行なっていた。

地図のどこにあるのか-誰も知らないーー

そんなとこでこんなことになるだなんてーー

モンテネグロ人もセルビアの男もーー

いきなりの砲撃に身を構える111オー、ハニーー

トランク出してースーツにブラシ

ぶっとい葉巻にー 火ーをつけてーー

俺の住所なら オリエント・エクスプレス

行き先はノヴィ・バザール行政区

일주

20 セルビア、モンテネグロ、コソボに挟まれた山間に位置するノヴィ・バザールは、長らくオスマン帝国の小さな行政区(サンジャック)のひとつだった。そこにオストリア・ハンガリーー帝国の進出と、それを阻止したいイギリスが対立さらにボスニアヘルツエゴヴィナとセルビアとの民族間紛争が複雑に絡んで「ヨーロッパの火薬庫」の状況が継続した。

Chorus line of quite nubile young women naughtily attired in Busbies and jackboots dance around for a bit here while in another quarter Lord Blatherard Osmo proceeds to get assimilated by his own growing Adenoid, some horrible transformation of cell plasma it is quite beyond Edwardian medicine to explain . . . before long, tophats are littering the squares of Mayfair, cheap perfume hanging ownerless in the pub lights of the East End as the Adenoid continues on its rampage, not swallowing up its victims at random, no, the fiendish Adenoid has a master plan, it's choosing only certain personalities useful to it—there is a new election, a new pretention abroad in England here that throws the Home Office into hysterical and painful episodes of indecision ... no one knows what to do ... a halfhearted attempt is made to evacuate London, black phaetons clatter in massive ant-cortege over the trusswork bridges, observer balloons are stationed in the sky, "Got it in Hampstead Heath, just sitting breathing, like . . . going in, and out . . ." "Any sort of sound down there?" "Yes, it's horrible . . . like a stupendous nose sucking in snot. . . wait, now it's . . . beginning to ...oh, no . . . oh, God, I can't describe it, it's so beast—" the wire is snapped, the transmission ends, the balloon rises into the teal-blue daybreak. Teams come down from the Cavendish Laboratory, to string the Heath with huge magnets, electric-arc terminals, black iron control panels mil of gauges and cranks, the Army shows up in full battle gear with bombs full of the latest deadly gas—the Adenoid is blasted, electric-shocked, poisoned, changes color and shape here and there, yellow fat-nodes appear high over the trees . . . before the flash-powder cameras of the Press, a hideous green pseudopod crawls toward the cordon of troops and suddenly sshhlop! wipes out an entire observation post with a deluge of some disgusting orange mucus in which the unfortunate men are digested—not screaming but actually laughing, enjoying themselves. . . .

踊るコーラスラインの乙女たちは、バスビー:ハットにジャックブーツ[*21]。別の一画でブレイザラード。オズモ卿が、ぐんぐん肥大してゆくみずからの扁桃腺に吸収されていく。これはエドワード朝[*22]の医学ではまったく説明のつかない現象...ほどなくメイフェア広場は逃げだした男達のトップハットが散乱イーストエンドのパブの灯りの下は閑散として安香水の匂いだけがただよう中を、怪物ノドチンコが暴れまくる。といってもランダムに人を襲うのではない。この魔物にはマスタープランがあるのだ。使える人間だけを選り分けている。この英国にて今また始まった、新たなる<選ばれ>、新たなる<見捨て>[*23]。内務省も手の打ちようがなく、痛々しいヒステリックな逡巡の症状…何をすべきか誰もわからず…そのままずるずるロンドン全域に避難命令発令となった。トラス構造の橋の上をガタゴト、黒のフェイトン四輪馬車が連なって動いていくさまは正に蟻の行列だ。空に観測気球が上がった。「見つかりました、いまハムステッド・ヒース[*24]です。止まっています。息をしてます...吸ってえ、吐いてえ、みたいな…」「音は聞こえるか」「スゴイです。オゾマシイ、鼻の穴の怪物が鼻水をズルズル啜ってるみたいな音がします。あっ、動きました。ああ?なんてことだ、こ、これは…とても放送できません、あーーっ!」突然ティールブル送信が途絶える。明け方の暗緑青の空を気球が昇っていく。キャヴェンディッシュ研究所[*25]から研究者チームがやってきた。ハムステッド・ヒースが巨大な磁石と電極メーターやクランクだらけの黒い鉄製コントロールパネルの輪で取り囲まれる。新型毒ガス爆弾を積みこんだフル装備の軍隊も到着11、アデノイドは砲擊、電気ショック、毒薬散布に曝され、そちこちが変色・変形し、黄色く太い結節を木々の上に突き上げる...報道陣のフラッシュが焚かれるなか、アデノイドは軍が張った非常線のほうへ見るもおぞましき偽足を伸ばし、一瞬、ジュブルルルッ!という凄い音とともに、オレンジ色の粘液を噴出して、観測地点一帯を、ひとたまりもなく消滅させてしまった。その場に居合わせた者はあえなく消化されてしまうのだが、悲鳴はなく、楽しげな笑い声が聞こえるだけ…

일주

21(衛兵を思わせる)毛皮の高帽と騎兵用の軍隊ブーツ。

22 エドワード七世がイギリス国王だった時代。一九○一~一九一○年。

23 キリスト教の教義の中心にある、神による天への救いに際する選別に言及している。「見捨て」と訳したpreteri- tionの原意は「無視して通りすぎる」こと。カルヴァン派では「救い」の対語として使われる。

24 ロンドン北西部、上流階級の居住区にある緑地。

25 ケンブリッジ大学2の物理科学研究教育機関)。

Pirate/Osmo's mission is to establish liaison with the Adenoid. The situation is now stable, the Adenoid occupies all of St. James's, the historic buildings are no more, Government offices have been relocated, but so dispersed that communication among them is highly uncertain—postmen are being snatched off of their rounds by stiff-pimpled Adenoid tentacles of fluorescent beige, telegraph wires are apt to go down at any whim of the Adenoid. Each morning Lord Blatherard Osmo must put on his bowler, and take his briefcase out to the Adenoid to make his daily démarche. It is taking up so much of his time he's begun to neglect Novi Pazar, and P.O. is worried. In the thirties balance-of-power thinking was still quite strong, the diplomats were all down with Balkanosis, spies with foreign hybrid names lurked in all the stations of the Ottoman rump, code messages in a dozen Slavic tongues were being tattooed on bare upper lips over which the operatives then grew mustaches, to be shaved off only by authorized crypto officers and skin then grafted over the messages by the Firm's plastic surgeons .. . their lips were palimpsests of secret flesh, scarred and unnaturally white, by which they all knew each other.

パイレート/オズモの受けた使命はアデノイドとの交信を確立することだ。状況は安定している。アデノイドの体はいまセント・ジェイムズ公園の全体を占めている。数々の歴史的建造物は消え去り、政府諸機関も移転したが、広範囲に分散してしまった結果、お互い同士の連絡がきわめて不安定になってしまった吹き出物だらけの蛍光ベージュの触手が伸びて、配達人の手から郵便を奪いとってしまうし、電信が伝わるか途絶えるかもアデノイドの意のままだ。毎朝オズモ卿は、山高帽を被りブリーフケースを手にして、この外交相手のところへ出かけて申し入れを行うのだが、これがたいへん時間をとられるイ・バザールのことがなおざりになってきたことに外務省は気を揉んでいる。一九三○年ランスオブ*パワ代といえばまだ力の均衡の考えが支配的で、外交官はみなバルカンのことでノイロゼ気味、オスマン帝国崩壊後この一帯の駐屯地には、異国風の名前をハイフンで繋いだ輩がたくさん潜んでいた。スパイらは上唇に、スラヴ系約1ダースの言語を駆使した暗号のタトゥーを彫り、その上に口髭を蓄えていた。髭を剃ってよいのは、権限を与えられた専門員がその任に当たるときだけ。その皮膚に人ファーム>所属の形成外科医が新たな暗スカ号を埋めこむ...傷だらけの異様に白い上唇は、諜報員同士が互いを認識しあう、密やかな肉の羊皮紙となっていたのだ。

Novi Pazar, anyhow, was still a croix mystique on the palm of Europe, and EO. finally decided to go to the Firm for help. The Firm knew just the man.

ノヴィ・バザールはいまなお、ヨーロッパの手相における「クロワ・ミスティーク[*26]」。外務省としても結局<ファーム>の援助を仰ぐことになった。<ファーム>は適任者を知っていた。

일주

26 神秘十字線。人によって感情線と知能線の間にできるX字マークで、神秘的な能力を持つ印とされる。

Every day, for 2 1/2 years, Pirate went out to visit the St. James Adenoid. It nearly drove him crazy. Though he was able to develop a pidgin by which he and the Adenoid could communicate, unfortunately he wasn't nasally equipped to make the sounds too well, and it got to be an awful chore. As the two of them snuffled back and forth, alienists in black seven-button suits, admirers of Dr. Freud the Adenoid clearly had no use for, stood on stepladders up against its loathsome grayish flank shoveling the new wonderdrug cocaine—bringing hods full of the white substance, in relays, up the ladders to smear on the throbbing gland-creature, and into the germ toxins bubbling nastily inside its crypts, with no visible effects at all (though who knows how that Adenoid felt, eh?).

かくして二年半の間、一日も欠かさずセント・ジェイムズのアデノイドを訪ねるのがパィレートの仕事となった。これは本当にたいへんだった。意思疎通のため混成語も少しずつ習得したが、アデノイド語特有の鼻音を発する器官がパイレートにはなかったために誤解が起きてばかりだった。両者がその鼻ズル的発声によるコ、ミュニケーションに勤しむ間、黒い七つボタンのスーツに身を包んだ精神分析の専門家、それもフロイト博士の崇拝者の指揮の下、おぞましいアデノイドの灰色っぽい脇腹に立てかけた梯子をつたって新種の驚異の薬・コカイン[*27]の白い粉のたっぷり入った石炭バケツがリレーで上まで運ばれ、脈打つ扁桃性クリーチャーの、腺の凹みで泡を立てている毒素に注がれる。それもしかし目に見える効果は生まない(もちろんアデノイドの気持ちなど誰が知ろう)。

일주

27 医薬化された当初(一八八○年代)、フロイトはコカインを、習慣性を持たずに幸福感と活力を与える物質として賞賛していた。

But Lord Blatherard Osmo was able at last to devote all of his time to Novi Pazar. Early in 1939, he was discovered mysteriously suffocated in a bathtub full of tapioca pudding, at the home of a Certain Viscountess. Some have seen in this the hand of the Firm. Months passed, World War II started, years passed, nothing was heard from Novi Pazar. Pirate Prentice had saved Europe from the Balkan Armageddon the old men dreamed of, giddy in their beds with its grandeur—though not from World War II, of course. But by then, the Firm was allowing Pirate only tiny homeopathic doses of peace, just enough to keep his defenses up, but not enough for it to poison him.

しかしパイレートの働きによって、プレイザラードオズモ卿は、勤務時間のすべてをノヴィ・バザールに割くことができたのだった。その彼が、一九三九年、とある子爵夫人の館で謎の死を遂げる。タピオカ・プディングのなみなみ入った浴槽で窒息していたのだ。これに〈ファーム>の関与があったとささやく者もいた。数ヶ月後、第二次大戦が勃発。それから数年を経た今日、ノヴィ・バザールから危機の知らせは届いていない。海賊プレンティスは見事にヨーロッパを救ったのだ-老人たちの夢見る目もくらむ壮大なバルカン最終戦争から。だが言うまでもなく、第二次世界大戦からは救えなかった。その戦時にも<ファーム>は彼にごく微量の平和は与えてくれた11平和への抵抗力を保つ同毒療法として。平和に毒されるほどの量はけっして与えてもらえなかったが。

섹션 1 GRReadingS001