消費生活相談員資格試験対策 総論
1.試験の特徴 合格率は意外に低く、論文の採点はシビア
消費生活相談員の業務は、消費者と事業者との間のトラブルに係る相談が主たるものとなる。その消費者と事業者間のトラブルは日々新しい問題が生じる。したがって、日頃から消費者トラブルの情報をアップデートする必要が有る。また、消費者関連法も日々改正される。消費者法の専門書でしっかり学んでいても、新しい情報や改正に追いつかない。消費生活相談員資格試験(以下、「本試験」という)においては、その新たな問題・新たに注目される消費者問題が出題される。そこに大きな特徴が有る。
次に試験政策的な観点からの特徴をみる。本試験は、合格率が20%代後半で、比較的難易度が低い国家資格試験で有るとの評価が大半を占める。しかしその評価は過小評価だと思う。結論を述べれば、20%前後と難易度は『高め』だと考えられる。その理由は大きく2つ有る。
1つめは、現に地方公共団体における消費生活相談の事務に従事している者等が受験してくること。既に行政職員で経験を積んでいる者が受験する。そのことと、合否判定基準の不明確さとを考え合わせると、1次試験の択一式試験の最低ラインが上がってくることが考えられる。合格最低点の補整などは公表されていないが、いわゆる『合格当確』のラインは、行政職員以外の一般の受験生であれば80%辺りを得点しておかないと安心できないと推測する。
2つめは、論文試験の採点が『シビア』だと言うこと。使用語句が5つ明示されていて、1000〜1200文字と論文試験であれば、極めて難易度が低い。しかしながら、自らの得点は合格最低ラインに近いものだった。この形式の論文式試験では、論述の訓練を受けた者が受験した場合、大抵の場合高得点のラインに集中して、かえって問題になることが多い。どうやらそうはなっていない。そこから推測されるのは、採点委員が予め配布された「模範解答」に近い答案でないと高得点に繋がらないとか、その模範解答からズレる場合に採点委員が裁量をもって採点出来ない、もしくはそういう採点委員や採点システムを執っていないことが考えられる。また、論述試験とあるが、問題によっては「消費者保護の立場にたった」論述になっていないと評価が伸びないのではないかということが考えられる。法律文書のように淡々とテンポ良く書くことが点数に繋がらないのではないだろうか。いずれにしても、詳細な採点基準と採点委員が明らかになっていない以上、受験対策講座やWebにあるいわゆる「模範解答」などは、余程のことがない限り、あてにはすべきではない。それらは試験委員や公式に発表されたものでないため、当たり前と言えば当たり前だが。
自分の場合大阪で受験したが最終合格者数が9名となっている。受験会場ごとのデータは公表はされていないが、受験会場は大きな会議室に50名前後はいたと思う。そこからしても、実質的な合格率は決して高くないだろう。おそらく択一式試験や論文式試験で、想定以上の(いわば不明確な)絞りが掛かっているものと思われる。
最後にあまり情報のない、面接試験(口述試験)について触れておく。落ちない試験であることは合格率からみて間違いない。ただ、受験生ごとに訊かれる内容・試験時間が異なるということ。Web情報によると「15分程度」とあったが、自分の場合、約30分程度にも及んだ(前々の受験生は15分弱で部屋から出てきた)。およそ専門書を読んでいないと答えられないであろう、立法趣旨や、法改正経緯、適用法条の違いからくる問題点、法改正はどうあるべきか云々、本当に他の受験生に出題しているのだろうかと内心苦笑したことを記憶している。詳細は受験生が特定されるためここでは差し控えるが、試験委員2人のうち1人が「かなり詳細に横断的に答えて頂いたので、今日はこれで・・」と、他方の試験委員を制したほどだった。他の受験生はどうだったのだろうか。ざっとみた受験生の層からすれば、少なくとも「過剰質問」だったように思う。
以上の体験談からすると、やはり受験講座やWeb上の正確性の担保のない情報よりも、専門書をしっかり使って学んでおかないと思いもよらないところで足をすくわれる。
2.試験対策 専門書・消費者白書と参考ホームページ+過去問
本試験の公式に発表したヒアリングや講評などならともかく、ちまたにあふれる「試験対策」は、頼りにすべきでない。「専門知識」を身につけるには「専門」書から「専門」家から、この当たり前のことを見失ってはならないのは、本試験でも同じである。受験講座やWeb上のどこの誰が書いたものか分からないのをアテにしては、実践的な専門知識は身につかない。したがって、公式に指定される教材や、専門書以外は使わない。
本試験の受験要項には親切に「出題形式」のみならず、「参考図書・参考ホームページ一覧 」まで掲載されている。出題者が「これを使いなさい」と明示してくれているものを使わない手はない。公にされているデータは信頼して良いし、またそれ以外が信頼度は下げてよい。とりわけ、消費者白書と参考ホームページは必須である。
自分の経験上、答案解説を作成する必要性から、様々な文献にあたったのはすでに述べたが、「これさえあれば」と言うものに絞って参考文献を列挙してみる。六法などの法文集は省略する。
①基本講義 消費者法 第4版 中野邦博・鹿野菜穂子編 日本評論社
②キーワード式 消費者法事典〔第2版〕日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編 民事法研究会
③消費者法講義[第5版]日本弁護士連合会 日本評論社
①②は必読・必携である。③は余力があればで良いと思うが、時間的に余裕が有る受験生は読んでおいて損はない。口述試験(面接試験)や実務で役に立つ。また、分からないことを調べるには重宝する。これら3点と消費者白書と参考ホームページを参照すれば、択一式試験のみならず論文試験もカバー出来る。もちろん著名な学者や実務家の書いた専門書であるから、論述の仕方も非常に参考になる。
その他としては、各業界団体のWebサイトなどが役に立つ(標準約款や消費者保護対策等)。
3.試験対策 勉強時間はどっぷりと1年間
法的な問題に係る相談業務に就く能力を身につけるためには、相応の負荷をかける必要が有る。過去問の○や×をいくらやってもそれは身につかない。逆に言えば錦の御旗のごとく、過去問解説をやっておけという類のものにはあまり立ち入るべきでない。受験を通過しても、はっきり言って役に立たない。具体的やり方は何度も当会で指摘してきたので割愛するが、専門家として必要な精緻で実践的な知識体系や理論体系を身につける勉強を1年もやれば、余裕をもって、本試験に臨める。