個人的には,専門家になるためには体験談の類いは,実質的に役に立たないと考えてますが,これから海事代理士試験に臨まれる方の,少しでも役に立つのであればと願いつつ,差し障りの無い範囲で自らの 体験談を記しておきます。
1.筆記試験
1.1 筆記試験勉強
対策は,上記に述べた方法論で試験日の1年前位から,1日1時間,試験前には3時間程度を勉強時間に充てました。憲法,民法,商法(海商法を除く)その他の一般法については法律系の大学院課程を修了し てましたので,ほぼ不要でした。但し,条文の空欄補充は,「覚える」という作業を,右課程では疎かにしていたので,初心に返って再度条文をインプットし直しました。暗記力が極めて乏しいので,その鍛 錬にもなると思うようにしていました。その他海商法も含め出題法令は,プリントアウトしたもの,PDFを利用したものを併用していました。具体的な法令の勉強法は以上に述べた通りです。
過去問は遡って10年分全て解き,理解が乏しいもの,専門書に記述が無いもの等については,自ら解説を作成し,いつでも参照できるようにしました。
自分がつまずいたのは,俯瞰的,横断的に各法令を一通り学んだ段階で,相互の知識が混然としてきて,答えられるものも,間違える事が幾度となくありました。あまりに暗記に軸足を置いた知識は特にそうでした。この点は口述試験対策にまで影響を及ぼしました。そういうときには,一度違う法令を勉強したり,ある程度海事代理士試験から離れる事もやりました。脳による知識の整理と成熟を意図しての事です。自分には役に立つ方法ですが,人によっては,休めば片っ端から忘れたり,間違えたりする人は注意して下さい。
既に述べたのですが,方向を見定めて,とにかく集中して継続する事だけは,意識していましたので,不安にこそなれど「いつか知識の理解が進むについて,知識も定着するだろう」という楽観的な予測の 下,試験前日までこれらの勉強法を継続しました。
1.2 試験当日
筆記試験会場は,地方運輸局で朝から夕方まで行われます。他の国家資格試験との比較で,ハードであると感じられる方もおられるでしょう。ただ,試験時間の割には,比較的短時間で解答し終えるので,十 分休息時間を取ることができます。短時間で切り上げて割り当てられた控え室で頭や目を休め,頭を切り換えつつ,次の法令についてこれまで積み上げてきた事項を復習する事ができました。この際,終了した法令科目については何も考えないようにしました。
長時間の試験に慣れていない方は,この休息時間に,水分,糖分等の摂取,体のストレスを抜くようにしてみてください。次の試験が随分楽になります。緊張やストレスで胃腸の弱い方は胃薬を飲んでも良いかもしれません。自分に合った,落ち着くことのできる方法を執るには十分時間があります。
このように書くと,ただ,淡々と解答していったように書いていますが,実は,問題の形式面の変化に面食らったこともありました。国家試験ではレベルの差はあれど,こういうことは良くある話しですし, 正攻法で攻めてダメならまた頑張れば良いと腹を決めて,頭を切り換えるように努めました。
終了後は,「出来た」「受かってる」という感覚はなく,「やった割には報われない」という感じでした。自己採点などはやりませんでした。
結果は合格でした。
順序が前後しますが,あくまで,海事代理士試験の勉強を1年程前に始めた上での経験談です。1年前から積み上げていく感じです。他の体験談などをみると数ヶ月という方もおられますが,自分がどうして そのような早い時期から,相応を負荷を掛けたかは,既に述べたので省略します。
2.口述試験
2.1 試験勉強
口述試験対策は,自ら口述過去問をなるべく専門書記載の順序(法令の順序)に,出題頻度が分かるように並べて,質問と解答,解説を一覧できるような資料を作っていました。初期段階から暗記しようとせず,質問事項が,専門書ではどのように記述されているかを落ち着いて読むようにしました。意味なく暗記一辺倒になるのを避けるため,なるべく知識に意味づけをやって修得するように努めました。
最後の1週間程度は,勉強仲間の協力を得て,口述試験さながらの環境を想定して,出題しそれに答えるという練習をやりました。その勉強仲間の彼が,制限時間の到来を知らせる「チーン」となる,アプリ も準備してくれました。やはり,実践形式は,スポーツ,格闘技でもそうですが,緊張感,疲労度が格段に違います。勉強仲間の彼も,分野違いの試験であることを差し引いても,かなり疲労していました し,自分もクタクタになる程でした。これから試験に臨まれる方も,これは是非行うようにして欲しいものです。
2.2 試験前日~試験当日
口述試験はどこに住んでいようと東京霞ヶ関にある国土交通省で行われます。前日に会場付近のホテルに滞在しました。前日のうちに,ホテルから会場までの経路,所要時間を実測しました。自分は,事前に 経路と試験会場を確認しておくだけで若干緊張が緩和されることを経験上知っていたからです。ここで観光する精神的余裕はありませんでしたので,早々にホテルに戻り,準備してあった口述対策資料に目を通してました。緊張とストレスでおなかの調子を狂わすこともあるので,あまり日頃と変わったものを食べたり飲んだりは避けました。あくまで普段通りです。
ホテルでも,条文検索の必要性もありますので,タブレット,ノートPCを持ち込んでました。プリントアウトした条文集は全て置いてきました。あまり荷物が重くなり体力の消耗を避けるためです。知識の集 約段階で,あれこれやるのはマイナスにもなりかねませんから。
口述試験当日は,早朝4時ころから知識の最終確認をやりました。その後,かなり余裕をもって会場入りして,手持ちの資料に目を通したり,コーヒーを飲んだりしていました。控え室は,自分が今までに手に してこなかったテキストらしき本をみている人が多かったように記憶しています。自分に足りない事があるような気もしましたが,ここへきて自分のやってきた事を否定するのも無駄なので,あまり考えないようにしました。全く勉強されていない方もおられました。
自分の順番がくれば,試験官に呼ばれ,試験会場の前で待機します。これから戦場の最前線に送られるような感じです。あるいは,病院の待合室・・・こんな事はどうでも良いですね。ここが緊張のピークでした。何度も自分の着席する場所と法令,問われる法令の順序を想定していました。
入ると,4人2組合計8人と,それぞれの試験官が同室になります。これは想定外でした。しかし,試験開始直前には,どうあがいても逃げられないのは分かってましたので,気は楽になっていました。
最初の出題法令科目は,ほとんど答えられたように記憶しています。逆に得意であった船員法でかなり「分かりません」と答えたと思います。途中から,答えられるものは正確に答えようと切り替えていまし た。筆記試験と同じで,聞かれたことに答えようと集中していました。試験官も当たり前と言えば当たり前なのですが,圧迫的・高圧的な態度な人はいませんでした。分かりませんと答えた問題は,残った時間で再度出題してくれます。気持ちを切り替えて臨んだのですが,分からないものは分からない事に変わりはありませんでした。
終わった後に解放感でも感じられると考えていたのですが,前夜と当日早朝の追い込みも一部しか,出題されず,手応えのなさと疲労感でそそくさと帰ってきました。追い込み勉強はあまり役立たないとい う,自分の経験則上明らかである事を再確認して,無駄に疲れたという訳です。
結果は合格していました。
終わってみての推測ですが,あまり合格率に拘るよりも,自分が落ち着いて試験に臨むこと,これこそが口述試験のキモのような気がしました。このような当たり前の事を見失うようでは,精進が足りません。自分も気を引き締めて海事法規に興味をもってさらに学ぼうと思い直しました。
最後に,ここまで辛抱強く読んで頂いた方で,これから海事代理士試験に臨まれる方は,必ず,各自専門家になるための相応の修練を積まれる事でしょう。焦らず,コツコツ と信じた勉強方法を継続させて下さい。不安は,受験生にはつきものです。その不安と苦労と努力が,きっとより良い結果に繋がるよう願っています。
2015年度 海事代理士試験合格者
>> 海事代理士試験 Top