1 海事代理士試験のクセ
海事代理士試験にも,国家試験である事,法令分野,実務の性質上,いくつかの「クセ」があります。
具体例を挙げると,法令が適用される船舶の,大きさ,長さ,航行区域等,ときには期間制限など,様々な事項と関連して「数字」が問題になります。これらについては暗記すべきであることは否定しません。
ただ,高度な情報化社会になり,必要とする情報にアクセスすることが極めて容易になった昨今では,「オンライン検索」が強力な補助ツールになります。総トン数20トン以上の船舶とはどのような船だろうか, 沿海区域とはどの範囲だろうか,満載喫水線とはと,検索してみると様々な船舶の画像や解説が出てきますので,是非利用して下さい。無機質な暗記作業が立体的なものになり興味深い勉強になるでしょう。但 し,これらの検索も,情報の精度に細心の注意を払って下さい。専門家として,「どこでその知識を得ましたか?」と訊かれて,「ウィキペディアからです」と答える事の無いようにしてください。
次に,海事代理士試験は,筆記試験後の口述試験があり,後者の試験では,船舶法、船舶安全法、船員法、船舶職員及び小型船舶操縦者法に絞って,出題されます。海事代理士試験において,重要視されている法令ともいえるでしょう。ですから,筆記試験の段階で,これらの法令が細かい所まで問われる事もあります。筆記試験で問われないときでも,いずれ必要となる知識です。この際だと考えて学んでしまってくださ い(バランスが必要であることは既に述べました)。
特に,口述試験において出題される法令については,前記参考文献に挙げたもの(概説 海事法規)が大変役に立ちます。条文を読んだだけでは,分かりにくい箇所が,図表で整理されてあったりしますので,是非活用してみてください。
最後に,過去問との関係で,何か出題者の意図に法則性みたいなものがあるのかについてふれておきます。所謂,出題傾向というものです。結論から言うと,「一貫した」法則性は無いということです。たとえ ば,形式面で言うと,ある年までは,選択問題であったものが,突然筆記になっていたり,一つ一つに配点がふってあったものが,2つ正解で初めて点数がつくもの,正誤問題であったものが,説明(筆記)させるものであったりと,様々です。ただし,内容面では,比較的頻回に出題されている知識はあります。これらを,出題形式にとらわれず予断なく勉強を進めて下さい。
過去問を解くにあたり,筆記試験では問題文を良く読むクセをつけてください。とかく暗記知識の吐き出しになりがちな人は,思わぬところで足下をすくわれます。たとえば,「漢数字」 で答えよとあるところを,アラビア数字で答えたり,「日本語で答えよ」とあるのに,英語で答えたり,空欄に必要以上の文言を入れたりしないよう日々注意して下さい。当たり前の事ですが。
2 口述試験
口述試験に限定して述べます。口述試験は,4分間に,試験官の口述で出題される問題に答える形式で行われます。
これまで述べてきた方法を実践されてきた方は,口述試験勉強の中で,用語や知識に面食らうような事が減っているでしょう。
ただ,口述試験のクセがあります。それは,「短時間で答える(即答する)」ということと,あまり語られることはないようですが,会場が極めて騒然としていることです。なぜなら,4人一組として行われるのですが,その際2組同時,同部屋(間仕切りなどもない)で一度に行われるため,試験官の出題,受験生の解答の声がかなりガヤガヤと響き渡るからです。緊張もあって,出題者の声が聞こえづらい事もあるでしょう。そういったプレッシャーを想定して,口述試験対策を進める必要があります。
次に,口述試験に出題傾向はあるのかという点について述べておきます。自ら過去10年分の口述試験過去問を整理した結果,頻回に出題される知識があるにはあるのですが,口述試験のその年の出題のしぶりに影 響を受けますし,4分数題しか出題されないと限定される中で,所謂「的を絞った」勉強は,有効なときがある一方で,極めてリスクを背負うときがあります。過去問の段階では,答えられていたのに,試験本番では「分からない」を連発した旨の体験記は,Web上に散見されるのも頷けます。
以上を踏まえると,口述試験については,日頃,試験傾向に囚われることなく,予断なく知識を吸収しつつ,他人に説明できる程度まで,それらの知識を昇華させる必要があります。
さらに,具体的な「練習」方法を述べます。なるべく第三者に,問題を読んでもらって,時間を計り,答えるという,実践に近い環境を設定して下さい。これは極めて有効です。勉強仲間がおられる方は,是非お 互いにチャレンジしてみてください(体験談で再度触れます)。
最後に,精神的な面,こころ構えについて述べておきます。
あまり精神論を述べるのは好ましくないと思っているのですが,やはり,口述試験である以上,相応の緊張が伴います。ただ,以上に述べてきた方法を諦めず最後まで実践されてきた方は,最後は「ここまでやっ た自分なのだから」と覚悟を決める,言い換えると開き直る事が肝要です。どの専門分野を学ぶにあたっても当てはまる事なのですが,極度のストレスは百害あって一利なしです。