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相続放棄の申述について -自ら相続放棄の申述をした体験談-
*注意*
相続放棄の法的効果は重大です。以下の記載は、あらゆる相続の場面にあてはまるとは限りません。あくまで極めてシンプルな事案に基づく記述で、体験談の範疇です。そのため、法的判断や評価については記載をしていません。あくまで相続放棄の申述は、慎重におこなうべきです。不安であるならば、相続問題に精通した専門家に相談されることを強くお勧めします。なお、以下の記載を参照したことによって生じた如何なるトラブルについて、当方は、一切責任を負いません。相続放棄手続きの詳細に関するお問い合わせについてはお答え出来ません。ご了承下さい。
*参照リンク*
裁判所ホームページ 家事事件 相続の放棄の申述
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/
*必ず上記リンクを参照して下さい。
*補足*
各行政機関によっては、市民のために無料の法律相談を開催しているところがあります。また、専門家による初回無料相談も有ります。適宜利用するのも良いでしょう。なお、相談先の回答によっては、回答内容が異なる場合が有ります。
目次
1.相続放棄について
2.設例 単純なケース
3.相続放棄の申述の手続 概要
4.相続放棄の申述の手続に必要な添付書類
5.相続放棄の申述の手続 家庭裁判所において
6.即決審判手続について
7.さいごに
1.相続放棄について
相続人となった人が遺産の相続を放棄しようとするとき、家庭裁判所で、相続放棄の申述の手続きを執ることが出来ます(*その他の選択肢としては、単純承認、限定承認が有りますが割愛します。)。これは、相続人が口頭や自らが作成した文書で『相続を放棄した』と表明しても、相続放棄の法的効果は認められません。家庭裁判所において相続放棄の申述の手続を執る必要が有ります。
相続放棄をすることが出来る期間は、相続開始があったことを知った時から3か月以内です(民法915条、938条 *期間を延長することも出来ます。)。この期間に相続人がその前提となる相続関係や相続財産について調査し、相続放棄をするかどうかを決定します。相続放棄については、撤回は出来ません。よほどのことがない限り、相続放棄の効果を覆すことは出来ない、それくらいのイメージでよいと思います。
また相続放棄は、期間の経過の他、一定の事由がある場合には出来なくなってしまうことがあります。ですので、一定の事由の詳細は控えますが(ケースバイケースであるため)、とにかく、相続放棄の申述が受理されるまで『被相続人の財産については一切触れない』くらいの認識で良いでしょう。
念の為、一般論として相続放棄をするにあたっての動機について触れておきます。典型的な動機としては、『亡くなった親の借金(債務)を相続したくない』というものがあるでしょう。その他には、『相続について煩わしいことに巻き込まれたくない』といったものが意外に有ります。たとえば、亡くなった親の相続財産は本当にわずかな預貯金だけでありそれらについて後から、親族にあれこれ言われたくないとか、そもそも親族と疎遠であり今更連絡を取るような関係性に無いとか、一般的に生じる相続関係の煩雑さを避ける、または気持ちの区切りとして相続放棄したいということもママ有ります。
そのような相続放棄の動機を含めてよく考えるべき期間というのが、上記で示した『3か月』という期間です。以下で単純な設例に基づいて具体的手続についてみていきます。
2.設例 単純なケース
【設例】
令和2年1月1日、Aは死亡した。B・Cは、Aの子である(未成年者はいない)。他に相続人はいない。相続されるべき財産(積極財産・消極財産)はほとんどない。
被相続人A(死亡した者)
相続人B(死亡したAの子)
相続人C(死亡したAの子)
Aの死亡の事実及び、相続の開始を知ったのは、同年1月1日とする。相続放棄の申述にあたっては、実際に相続人(B・C)が管轄する家庭裁判所に赴いた。
一般的には、Aが死亡して以降、お葬式から火葬、埋葬、各種手続を執る必要が出てきます。当面のところ、それらについては葬儀屋さんが応対してくれるものとして、それと並行して相続放棄を見据えて、その準備をするイメージです。以下、上記設例を元に述べていきます。
3.相続放棄の申述の手続 概要
①相続放棄の申述書を作成し、必要な添付書類を揃える。
②相続放棄の申述書と添付書類を家庭裁判所に提出する。
③相続放棄の申述の受理(証明書発行等)。
以上です。
費用は、戸籍謄本・戸籍の附票などの取得の費用、裁判所での印紙・郵便切手代(相続放棄の申述のための費用、即日審判手続の費用、相続放棄の申述が受理された証明書の発行のための費用など)、家庭裁判所への交通費等です(*専門家への相談料は除く。)。
4.相続放棄の申述の手続に必要な(添付)書類
①被相続人(死亡者A)の死亡の記載のある戸籍謄本
②被相続人(死亡者A)の住民票除票又は戸籍の附票
③申述人(相続放棄をする者B,C)の現在の戸籍謄本
④相続放棄の申述書
基本的には以上です。要するに、Aが亡くなったこと、Aとの関係で、B、Cが相続人に該当することを、公的に証明出来る書類を揃える訳です(*戸籍を遡って取得しなければならない場合が有りますが、本記述は、上記設例に沿った、極めてシンプルな事例の場合についての記述です。)。なお、Aの死亡から、Aの戸籍・住民票の処理にしばらくの期間が必要となって、戸籍や住民票を取得出来ない場合が有りますから、この間に、Aの葬儀の手続等に奔走することが一般的でしょう。住民票除票については、相続放棄の手続きに必要な場合であっても、複数通取得したり、申請から交付まで慎重な自治体が有りますので確認して下さい。大抵の場合は、戸籍の附票で足ります(*②は『又は』となっています。)。複数人の相続人間で共通・重複する添付書類については1通で足ります。
繰り返しになりますが、大切なことは、相続放棄の手続との関係で、死亡者Aの物(モノ)や債権・債務については『一切触らない』ようにした方が良いということです。法定単純承認に該当して相続放棄が出来なくなる場合があり、そのリスクを避けるためです。万一、債権者からの問合せなどがあれば『相続放棄の手続に入っている』旨を伝えておくとよいでしょう。もちろん一般的に「形見」というものがあるでしょうが、法定単純承認に該当するか否かはあくまでケースバイケースであるので『あくまで触らない』のが無難です。よく、『自分のポケットマネーから支払えば問題はない』というアドバイスを見聞きすることが有りますが、万一相続に関して争いになると主張・立証の問題が出てくることも有りえますので、特に死亡者Aの債権・債務については些細なものであっても触らないくらいの態度で良いと思います。
④の相続放棄の申述書ですが、裁判所ホームページからダウンロード出来ますし、家庭裁判所に備え付けて有ります。申述書の記載については大切なポイントが有ります。まず、楷書で丁寧に記載すること。それは一般的に『綺麗に書く』と同一では有りません。癖のある字ではだめで、『点画を正確に書き、現在、最も標準的な書体』で書くことを意味します。癖のある字は訂正を求められます。具体的には後に述べます(下記5・6参照。)。次に、正確に記載することが求められます。本籍地や住所については戸籍謄本記載の通りに記載します。省略してもだめで、あくまで『その通りに』記載します。
相続財産の概略については、設例のケースでは『不明』で足ります(もちろん、調査の上、正確に記載するのが原則です。)。
ちなみに、訂正の必要性が生じた場合、家庭裁判所の窓口において、訂正が可能ですし、後に述べる即決審判手続の過程で訂正が可能です。さらに、仮に、すべて書き直しの必要性が生じたとしても、家庭裁判所に申述書が備え付けていますので、正確・丁寧に記載すれば、あとで対応が可能であるくらいの認識でよいでしょう(*相続放棄の申述手続を軽視している訳では有りません。)。
5.相続放棄の申述の手続 家庭裁判所において
これまで述べた、相続放棄の申述に必要な(添付)書類の準備が整えば、被相続人(死亡者A)の相続開始地(被相続人の住民票所在地)を管轄する家庭裁判所に赴きます(*郵送の場合もありますが省略します。)。一般的には、『この準備で問題無いだろうか』と不安になることでしょう。それもさほど心配には及びません。各家庭裁判所には、当該裁判所の管轄する手続について相談窓口を設置しており(提出窓口を兼ねている)、丁寧にアドバイスしてくれます。仮に訂正や不備があればアドバイスしてくれます。ですので、心配であれば、提出前に念の為に書類のチェックの趣旨で、提出先の家庭裁判所に相談に赴くと良いでしょう。相続放棄の事の重大性からいっても、念の為事前相談をされる方がなお良いでしょう。
なお、必要な印紙や郵便切手については、当該家庭裁判所内で販売しているので、事前に準備する必要は有りません。必要な枚数も、窓口で指示されます。
記載事項に訂正の必要があれば、当該家庭裁判所窓口で訂正印による訂正が認められます。ですので、申述書に押印したものと同じ印鑑を持参しましょう。
申述書と添付書類に問題が無ければ、申述書の提出は完了です。あくまでケースバイケースですが、これらに問題がなければ、1週間程度で、相続放棄の申述の受理の原本が交付されます。なお、相続放棄の申述の受理の証明書については別途交付申請の必要が有ります。
*印鑑(認印)と身分証明書を持参
6.即決審判手続について
特定の家庭裁判所で、条件を満たせば、当該相続放棄の申述について、即日、審理を行える場合が有ります(即日審判手続)。相続人を足並みを勘案したり、他の相続人が遠方に居住している場合等で、何度も家庭裁判所に赴く事が困難であるとか、可及的に短期間で相続放棄の申述を受理して欲しい場合には、極めて便利な手続です。必要な費用を印紙で納付して、所要時間1時間〜1時間30分程度で審理が完了し、しかも相続放棄受理の証明書発行の申請手続まで行えます。
このとき、裁判所書記官が、当該相続放棄の申述に関して対応します。ここで、当該相続放棄の申述について、人違いがないか、記載内容が正確か等について間違いがないか確認がされます。記載事項について質問される場合が有ります。分からないなら分からないと答えても問題ないことが多いでしょう(*免許証等の身分証明書が必要)。
ここで、申述書の記載が、『正確に楷書で記載されているか』を慎重にチェックされます。『点画』にとどまらず、インクのカスレやハネ・トメなどまでチェックされます。以上の手続が終われば、前記所要時間が経過するまで待って、書記官より相続放棄の申述の受理の原本の交付と、証明書の発行申請手続を行います。証明書については、後日、各相続人に郵送で交付されます(必要な郵便切手を貼り、封筒に住所を記載する。)。両者は大切に保管し、証明書のコピー等で、被相続人の債権者等から問合せがあった場合などに提示するなどして対応します。
*印鑑(認印)と身分証明書を持参
7.さいごに
ひとが亡くなると、悲しみや喪失感などで何も手につかないことが往々にしてあるでしょう。しかしながら、亡くなった人に関わる法的な手続を執る必要性が一気に吹き出してきます。一般的には、葬儀屋さんと相談して、所定の費用を支払えばすべて『おまかせ』で諸々の手続きを終えることが出来ます。ただし、相続放棄等の問題は、最後は自らの意思に関わることですし、債権者にとどまらず親族等の利害に関わる難しい手続とも言えます。さらに、想定していなかった問題が既に生じていたり、葬儀費用諸々の出費がかさみます。その費用の支出が難しいご遺族もおられることでしょう。自分で相続放棄等の手続きをおこなうかどうかはさておくとしても、その手続きを事前に理解しておけば、安心材料のひとつになると思います。そういった人たちの少しでも役に立てばと上記内容を記載した次第です。