越後の山猿沖縄を行く

3月2日

新潟空港 午前11:45フライト

飛行機が離陸して雲の上に上がったら雲しか見えなくなった。すると不思議に出発の準備をしている頃S隊長に「私の先輩が50年ほど前に採集した屋久島の標本に名前のわからない植物があって困っているが沖縄に持参したら教えてもらえますか」とメ-ルで問い合わせた、すると「私はわからないので答えられないが他に解る方がいるかもしれません」と言う返事が来た、このことを思い出した。本当に普通の植物がわからずに希少種の名前だけを解ることが出来るのだろうか、と考えていたら結論が出ないうちに飛行機は那覇空港に着いた。

那覇空港で、預けた荷物を取りに向かったら、向こうから一人のご婦人から「Y様でいらっしゃいますね?」と声をかけられた。私が初めて訪れる沖縄で声をかけられるのは、「懇話会」の皆さんしか居ないだろうと思い、てっきり懇話会の皆さんが迎えに来てくれたものと思い込んだ。ところが近くに行ったら私の旅行ケースがありその婦人が「これはYさんのお荷物でよろしいですね」と言われた。私が荷物を取りに行くのが遅かったので待っていてくれただけのことだった。

那覇空港でこれから半日どこを見せていただこうかと案内所で検討した。近いところで瀬長島に行くことにしてタクシ-に乗った。瀬長島の手前まで着たら海岸にモンパノキがこんもりと茂っている。その向こうにグンバイヒルガオガよく来てくれましたねと手招きをしている。即、タクシーの運転手に「ここでよいから降ろしてください」と言うと、「瀬長島は、まだむこうですよ」と言う。「かまわないから降ろしてくれ」といって降りた。まだグンバイヒルガオの花は咲いていないがなんとも表現のしようのない興奮であった。

瀬長島の麓の道路沿いを歩いて行くとまず目の入ったのがオオバギであった。植物で葉に楯状に葉柄が付くものは限られている。その時点では名前がわからなかったが後にS隊長に教わった。

次に目に入ったのは、オオハマボウである。ハマボウはかつて三重県で見たことがあるが葉の形が違っている。 そうこうしているうちに、今から50年前の屋久島の標本で見たことがあるが、名前のわからないキク科の植物が 目の前に現れた。現実に生体を見て興奮してしまった、未だ名前がわからない(編集註:アメリカハマグルマあたりか?)。

日が暮れてきたのでそろそろ予約してあるルートインに帰ろうと思った。ところが困ったことにタクシーが来ない。しかたがないので大きなケースをガラガラと引きながら歩いていた。すると箱型のタクシーが止まり乗せてくれた。「どこまでゆきますか?」と聞くので「ルートインまでいってください」と言ったら、私が予約したのと別のルートインに送ってくれた。

3月3日

今日は、S隊長に教えてもらった「斎場御嶽」に行くことにした。目的地に近いバス亭で運転手に御嶽はどこかと聞いたら、前に行く若いカップルを指差した。そこでその後をついていったらビーチに出た。既に海水浴の季節が始まっていたのだ。私は、道を間違えたことに気がついたが植物はどこにでも生えているのでのんびりと植物観察をさせていただいた。見るもの、見るもの全て初めて目にするものばかりで一人で興奮していたら、一戸の家から立派な紳士が出てきて「どこからきました?」と訊ねる。そこで「越後から来ました」と答えたら、今度は「何しに来ました?」と訊かれた、「植物の調査で来ました」と言うと「ごくろうさまです」と返事が返ってきた。沖縄の人は礼儀正しいのだなと思った。

夕方になって集合場所の酒屋に行った。驚いたことにみんな私の子供くらいの人達だけだった。一瞬私が来てよかったのだろうかと思った。ところが、その中に私の娘のような婦人が両方から話しかけてきてくれた。うれしかったが両方の人に一度に話すことも出来ず大変悩んだ。そうこうしているうちに踊りだす人が現れた。それを見てこれは愉快な人達の集まりなんだと安心した。

3月4日

最初の観察地、万座毛では、美しい海にテンノウメと種々のキク科植物が花開いているのに感激した。 那護岳に登り始めて気がついた、希少植物以外の名前はわからないといっていたS隊長がみんなの質問に全て答えていた、私が、飛行機の中で悩んだのは取り越し苦労であることがわかった。

夕方になって、海岸に赴いた。それまで山の中に居るときは物静かだったご婦人が、急に生き返り海洋生物の説明を始めた。このとき初めてこの会は植物だけの集まりでないことが解った。長靴を持ってこなかったのが残念でならなかった。

3月5日

伊呂波の田んぼで最初に目にはいったのがタガラシであった。未だ沖縄にはタガラシが元気に育っていることがうれしかった。次に目に映ったのが、ミズワラビであった。新潟県のミズワラビはヒメミズワラビと分類されたと言うことが一目瞭然にわかった。まったく違う。

与那覇岳

テレビで見たことがあるが、屋久島の登山道は、狭くすぐ脇がジャングルになっている。正に与那覇岳もそれと同様であると解った。

教えていただく植物の名前を必死に記録するのがやっとであった。これからこのメモを見ながらひとつずつ図鑑にあわせて確認をしていきたいと思っている。

ナイトツアーでは、あまり得意ではないが、ハブ、ヒメハブを見せていただき勉強になった。

3月6日

いよいよ待望のオヒルギ、メヒルギを見せていただくことが出来た。なんともいい難い喜びを感じた。こんな立派なマングローブを見ることが出来るとは想像もしていなかった。また、近くにキキョウランがあり花をしっかりと撮影してきた。

ここで私は、一日に一便しかない飛行機に乗るため皆さん方とお別れした。この度は、皆様のおかげで、私の生涯に残る観察会に参加させていただきました。また、楽しい人達で久しぶりに気持ちが温まりました。ありがとうございました。どなたも、新潟県内のこられるようでしたら案内させていただきたいと思います。