2013春 西表エクスカーション参加報告 (前編)

3月20日 水曜日 (1日目)

最寄の空港から、飛行機を2度のりかえて石垣島へ ― 離島行きのフェリーターミナルで、今回一緒に旅をしてくださる方々と合流しました。みな、大きなリュックサックやスーツケースをかかえています。自分にとっては初めての西表島。ターミナルのお土産屋さんで日焼け止めや非常食のサーターアンダギーを買っていると、わくわく感がさらに大きくなってきます。高速船にのり、30分ほどすると、左手に、西表島が見えてきました。

上原港につき、今回お世話になる旅館にバスで移動しました。この旅館は、島の植物に詳しい方が切り盛りされています。玄関先の鉢植えには、色とりどりの花が咲き乱れ、西表に詳しいメンバーの方々がさっそく解説をしてくださいました。

チェックイン後は、旅館の周囲を散策しました。道路沿いのちょっとした植物の様子も、自分の住む地域とはかなり異なります。デイゴ、ヤマグワ、アカメガシワ、シマトネリコ、オオバナノセンダングサ、リュウキュウコザクラ、シマニシキソウ、ルリハコベ、数十メートル歩いただけでしたが、多くの植物を記録することができました。折り返し地点付近では、「海人(うみんちゅ)」の看板が、なぜか「法人(ほうじん)」と読み間違えられるハプニングもあり、和気あいあいとした雰囲気で初日の観察を終えました。

3月21日 木曜日 (2日目)

この日は、浦内川から遊覧船にのってカンピレーの滝を目指しました。船が出るまですこし時間があったので、乗り場近くの遊歩道を炭鉱方面にむかって、植物を観察することにしました。アカミズキ、オオムラサキシキブ、コンロンカ、シイノキカズラ、オオバギと、(自分にとっては)あまり見慣れない植物が続き、解説してくださる方の言葉をひたすらノートする時間が流れました。アカメガシワ、ハゼノキなどがでてくると若干安堵するものの、カラスキバサンキライ、オオシマコバンノキ、カキバカンコノキ、アカテツ、・・・(略)と、南国シャワーは続きます。来てからなんとなく感じたことなのですが、南西諸島はツル植物の多様性が高いところではないでしょうか。「これはホウライカズラ(マチン科)です。」 え、マチン科って・・・。オシャレな名前だなあ、なんて思うひまもなく、ひたすらノートと写真をとりながら遊覧船乗り場にかえってきました。 乗り場では、「マングローブの勉強をしましょう」と、オヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギの同定ポイントを確認しました。もっとも水に近いところにあるのがメヒルギ、つぎにヤエヤマヒルギ、そしてオヒルギの順に陸にあがっていきます。でもその通りにはみえない(?)個体があり、議論がもりあがりました。ヤエヤマヒルギはタコのような根が出るのが特徴で、石垣空港の食堂では、器にその絵が描いてあったとのこと。そんな器ならごはんがさらにおいしくなりそうです。

遊覧船が出発すると、浦内川の両岸に広がる亜熱帯性の森林や、水辺のマングローブ林の風景が前から後ろに流れていきました。またところどころに、セイシカのうすピンクの花が咲いていました。船を降りるとすぐに、フロラリストの作成です。桟橋付近では、サキシマツツジ、テリハノギク、ヒメタムラソウ、シャリンバイ、クチナシなどの花がみられました。イスノキには(おなじみの?)ムシコブがついており、みなで笛をならして挨拶をしました。浦内川のほとりには、いたるところにポットフォール(岩のくぼみにおちた石が流水で動いて穴になった場所)がありました。そのほか、リュウキュウイナモリ、ハクサンボク、アコウ、ヒイラギズイナ、シマミサオノキ、タイワンサギゴケなど様々な植物が記録されました。

・・・とここまで、ほんのわずかしか歩いていないのに、かなり時間がたっていることに気付きました。計算すると、時速0.6kmとのこと。これでは目的地までとても間に合わない、間に合ったとしても帰りの船に乗り遅れてしまう、ペースアップしよう、という意見が出ました。ところが、その気持ちとは裏腹に、「あ、○○○」と、私たちは次々にトラップにはまってしまいます。個人的にトラップとなった植物は、シマトネリコ、サキシマスオウノキ、リュキュウマユミ、ヤブレガサウラボシなどでした。上級者の方からみれば笑われてしまいそうなトラップですが、ついつい足がとまってしまいます。

このような具合で各自がトラップにはまっていては、前に進まないのは当然です。しかしさすがにこれではまずいだろうと、みな心を鬼にして、すたすた歩くことにしました。そのかいあってか、マリユドゥの滝の展望東屋にお昼過ぎに到着することができました。そこでお昼ごはんを食べ、シラタマカズラの実をみながら、休憩をとりました。

休憩を終えて出発するとき、わたしたちは、「トラップにはまることなくカンピレーの滝まで急ぐ」という気持ちを強く持つことを確認しました。そして、強い気持ちを保つために、トラップにはまった人には何か罰を与えようということになり、サーターアンダギーを5つ一気に食べるというペナルティが提案されました。ガイド役の方々の先導のもと、速足になる一同。そして、トラップ対策の一環としてはじまった植物名しりとり(頭の中の半分ぐらいが消費され、トラップに目がいかなくなるようにする自主的取組)が、盛り上がります。よしよし、いいペース!

・・・と、そのとき、進行方向の右手やや上空に、突如、美しく紅葉した、三裂の葉群が出現しました。「え、なに、これ? カエデ?!」 みな、たまらずたちどまってしまいました。この木はよく見るとカエデではなく、フウの仲間のようです。しかし、フウは日本には自生がないので、人のもちこんだものが野生化しているのではないか、そもそもこんなところに定着してしまっていいのか?など様々な意見が出ました。幸い、サーターアンダギーの刑には恩赦がつき、無事にカンピレーの滝に到着することができました。

カンピレーの滝は、流量が多く、とても迫力がありました。水辺近くの岩場には、オオシラタマホシクサ、ミミカキグサなどがみられました。岸からやや離れた斜面にはヤマグルマ、セイシカ、サキシマツツジ、クチナシなどが咲いています。また、黒と赤の強烈なフォルムをもった巨大ヤスデが出現し、場をにぎやかにしてくれました。のちに調べてくださった方によると、これはヤエヤママルヤスデ Spirobolus sp.という生き物で、ヤスデ類では日本最大の種だが,正式な学名はついていない、とのことでした。帰路、やはり時間を気にした一同は、ひき続き、「植物名しりとり」をすることにしました。わたしは、答えを見つけるだけで精一杯でしたが、上級者の人たちは、少しでも気の利いた、お洒落な植物名が出るよう気を配られていました。そして、行きより何倍もスムーズに、桟橋まで帰ることができました。夜は、名前のわからなかった植物を調べながら、泡盛によいしれ、文字通り、植物談義に花が咲きました。

3月21日 木曜日 (2日目)

この日は、旅館近くの裏山に行くことになりました。旅館のすぐ裏手で、シロハラクイナを見かけたあと、カショウクズマメの花と実を観察しました。何度見ても、面白い実の形です。周辺では、アリマウマノスズクサ、ナンバンカラムシ、フウトウカズラ、コンロンカ、シマイズセンリョウなどがみられました。

満開のセンダンを見ながら林道をすこしあがり、道脇の植物の観察をはじめました。まず、林道横の斜面にはイリオモテクマタケランがありました。赤色やオレンジの実がついていて、なかなかの存在感です。同じく道脇には、テリハノギク、コアブラガヤ、カキバカンコノキ、ショウベンノキ、アカメガシワ類、イヌビワ類などがでてきました。アカメガシワ、ウラジロアカメガシワ、ヤンバルアカメガシワ、サキシマフヨウなど、昨日はややとまどっていた種の違いにも目が慣れてきたようです。イヌビワ類は、イヌビワ、オオバイヌビワ、ホソバムクイヌビワなどがみられました。

この日は、特に行程が決まっていなかったので、比較的ゆったりしたペースで植物を見ることができました。「パパイヤ」が生えていたのにはびっくりしましたが、人里近くであることを反映しているのだろうという意見がありました。シュロガヤツリ、オオバノセンダングサなどの外来種は一定の割合で生えているようです。リュウキュウガシワの花、羽がきれぎれになったイシガケチョウ、いつのまにか誰かの腕にくっついていたタイワンサソリモドキ(すごい名前!)、ニジマルキマワリを期待しての朽木くずしなど、間髪いれずにトラップ・・いや、チェックポイントがでてきます。またイシガケチョウの幼虫の突起を見て、「若いうちはパンク野郎でとがっている」「いや、うさぎさん」などと意見が分かれる一幕もありました。林道の奥のほうには、むかし水田だったと思われる湿地がありました。湿地のまわりでは、ギーマ(開花)、コバンノキ、テリバザンショウなどが観察できました。そのやや手前では、谷側ののり面の開けた場所があり、西表の美しい海が見下ろせました。むこうの山の斜面には、樹冠いっぱいに花をつけたシャリンバイとそのまわりを飛び交うチョウたちが見えます。このみはらしのよい場所で、記念撮影をしました。

(後編に続く…!)