2013夏 淡路島エクスカーション参加報告 (後編)

7月28日 日曜日 (2日目)

前日は夜中まで盛り上がったので、朝食の時眠たそうにしていると宿のおばちゃんに笑われてしまう。でも、朝食の真鯛の味噌汁の旨さで眠気は吹き飛び、希少生物達の“繁栄”を願いつつ繁栄荘をあとに。

宿を出てはじめに向かったのは、南あわじ市の阿那賀公園。この海沿いの小さな公園には、なんと異常巻きアンモナイトのブロンズ像というマニアックなものが!淡路島の南部の地層では異常巻きアンモナイトの化石がよく見つかるようだ。次に淡路を訪れるときは化石の見つかりそうな露頭巡りをしてみたい。

淡路市に入り、2日目のみ参加のメンバー3人と合流。途中で道に迷った家族連れの車も目的地が近いということで合流し、合計5台の車が連なって、山間部の棚田地帯の細道をグネグネとドライブ。途中で離合した車や自転車の人達はちょっと驚いていた。国道など幹線道路からは見ることのできない棚田風景は素晴らしく、棚田地帯のど真ん中を抜ける道は等高線の上を走っているかのように平坦でカーブが多かった。尾根沿いまで棚田が積み重なり、こんな所にどうやって水を引いているのかと思っていると、棚田の上いたるところに小さな溜池があるのに気づいた。それぞれの溜池には遠くから見ても違った水生植物が生えており、1つ1つ観察していくのも楽しそうだ。前日聞いた話では、淡路島内の溜池の数は数万を数え、ほとんどが未調査であるという。農家の戸数に対しても溜池の数は多く、放置池も多いそうだ。

迷子の家族連れと別れ、目的地の黒谷の棚田に到着。この場所は環境省の市民参加型環境調査であるモニタリングサイト1000の調査地に指定されているそうだ。朝に合流したメンバーの中にはここの調査に参加している方がいて、動植物だけでなく棚田の農業の話なども聞くことができた。棚田の脇の水路には、木製の水路を分割する珍しい道具が置いてあった。雨の少ない瀬戸内気候の淡路島では、水を正確に分配することは大切なことだったのだろう。棚田の間の道を登って行くと、比較的新しい大きな溜池が眼の前に広がった。池の脇の水路の方へ進むと、今回のエクスカーションの案内役のS田さんが何やら興奮し始めた。近くにいってみると、ツチガエルを見つけたようだ。10年近く淡路島の里地の調査をしてきて初めて発見したらしい。長期間オタマジャクシが水域にとどまるため、雨の少ない淡路島では珍しいとこのこと。全国的には普通種でも、土地によっては希少という生き物に興奮を覚えることも素敵なことだ。

散策の後、すぐ近くのほ場整備された棚田に案内された。よく見ると、整備されて規模の大きくなった水田の上に林が残っている。この林の中には埋め墓と呼ばれる共同埋葬地があり、開発やほ場整備をまぬがれているので様々な野生生物の住処になっている。移動中の車からも、いくつもの埋め墓を見ることができ淡路島の独特な里地の風景を堪能した。

昼食を挟んだあとは最後の目的地、淡路市野島常盤の棚田へ。ここは淡路島の言葉で“じゅるた”と呼ばれる排水性の悪い水田が多く、放棄された水田にも一年中水が溜まっているため様々な水生生物が生息する。この場所は今回参加した院生のF原君の調査地で、前夜には研究内容や植生についての発表を聞いていたこともあり非常に楽しみにしていた。少し歩くと道を挟んで上側に放棄じゅるた、下側に現在も耕作中のじゅるたが現れた。放棄じゅるたにミクリが一面に生い茂った風景は圧巻で、いかついイガイガ果実に雌花、雄花と観察することができた。田の中に入りコオイムシやアカハライモリと戯れていると、気がつけば長靴に大量のヒルが付いていた。しっかりひっついていて中々取れないので、1匹1匹爪で弾くはめに。昔は裸足で田植えをしていたそうだが、その時の田んぼにもこんなにヒルがいたのだろうか?

更に奥に進み、先ほどのじゅるたの水源になっている溜池へ。ここも放棄されているらしく、林の中にひっそりと小さな溜池があった。水面にはサンショウモ、黄色い花を咲かせたコウホネを見ることができた。薄暗い林内の溜池では生き物はひっそりと暮らしている様子で、開けたところにある日当たりの良い溜池とは違う雰囲気だ。

次は別の放棄じゅるたへ。ここは、放棄されてからヤナギ林に遷移した場所らしく、あちらこちらに背の高いヤナギの木が生えている。山間地の棚田は周りの環境や土地の条件も様々で放置された後の植生の遷移も色々なものがあるらしい。林内を歩いているとヤママユガの仲間の繭を発見。手にとって見ると軽い。開いた後も無いので寄生蜂なんかにやられたのだろうかと考えていると、誰かが繭を切り開き中身の観察会が始まった。 最後に、ミクリの生えている放棄じゅるたの前で集合写真を撮ることに。毎回、集合写真はその日見た印象的な生き物をポーズで表現することが習わしのようで、今回は印象に残った放棄じゅるたの生き物ということでミクリやコウホネのホーズをとった。

今回のエクスカーションに参加して、淡路島内の里地の環境や生き物をさっとだが堪能することができた。特に2日目では、山間地の棚田を中心としたフィールドで、希少な植物をたくさん観察することができた。それ以上に、今回集まったメンバーは、植物、両爬、昆虫、墓、貝、海草、化石、岩石など自然物なら何にでも興味や疑問を持ち、各分野の詳しい人が揃っているので、どのフィールドに行っても楽しかった。ちょっとした道を歩いただけで誰かが何か面白いものを見つけ、解説が始まるという素晴らしい光景の連続で予定は中々前に進まなかったが、本当に充実した二日間だった。希少生物懇話会は希少な人間の集まる場所でもあるのだと実感し、初めて参加したエクスカーションだったが次の生態学会やエクスカーションが楽しみになった。

(オプショナルツアー編に続く…!)