2013春 愛知県エクスカーション参加報告

静岡市で行われた生態学会に参加するために集まった希少生物懇話会のメンバーは、この機会に東海地方の希少種を見に行きたいということで、7人で静岡駅からレンタカーに乗り込み、愛知県新城市を目指した。エクスカーション候補地はたくさん挙がったものの、春まだ早いということで、落葉樹が展葉していなくても楽しめる場所として、黄柳野ツゲ自生地と鳳来寺山へ行くことにした。

黄楊野

ツゲ自生地へ向かう途中、とても良い雰囲気の農村が広がっており、直線でない畦や石垣に囲まれた棚田風の水田などがあり、もっと季節が進んだらきっと希少な植物がたくさんみられるだろうという話で盛り上がった。神社のところに車を止めて、農村の奥を歩き始めた。きれいな小川には魚影が見られ、ため池のほとりにはタヌキやヤマカガシの死体があったりした。ホトケノザ、オオイヌノグフリ、ヒメオドリコソウ、コハコベ、ノゲシなど畑地水田雑草はすでに花を咲かせているものがみられた。林内に入っていくと、林床ではカンアオイの仲間が花を咲かせていた。後の同定でヒメカンアオイであることが判明した。葉には食痕が残っていて、このあたりに生息するといわれているギフチョウのものかもしれない。このあたりから、ちらほらツゲの低木が混生し始める。

さらに進んで行くと、樹高の低い森林が広がっており、ツゲのほかにはウバメガシ、リョウブ、ジングウツツジ、ヤマモモ、スダジイ、ヤブニッケイ、ネズ、クロバイ、ヒイラギ、クロキなど、多種が混交する独特な林相がみられた。このあたりは基岩の地質が蛇紋岩でできており、土壌も薄いため、このような独特な森林が広がっているのだろう。天然記念黄楊樹林の石柱の前で、全員でツゲポーズで記念撮影をし、下山した。なお、途中で、常緑樹の幼木で種名のわからないものがあり、においをかいだり、ライターで炙ったりしてもなにかわからなかった。持ちかえって葉緑体DNAをバーコー ディングしたところ、トキワガキであることが判明した。林内の幼木だと見たことのあるトキワガキと印象がだいぶ違った。

車へ戻る途中で、ヒレンジャクの10羽程度の群れを発見し、双眼鏡で除いて観察した。再び車に乗り込み、移動する途中で、きれいな蛇紋岩の露頭があったので、車を降りて観察。つやつやと濃い緑色をした蛇紋岩を、なでたり写真を撮ったりして楽しんだ。ここまでに作成したフロラリストでは維管束植物は88種記録された。

鳳来寺山

山頂付近へは向かわず、鳳来寺山自然科学博物館へ。すでにここまでで時間が予定よりだいぶ押していて、博物館はちょこっとだけ見学する…つもりだったが、これがなかなか見ごたえがあったので、つい長居してしまった。特に地質の展示が充実しており、一番楽しんだのは、この付近で採集された岩石をバイキング形式で購入できるお土産。全19種の岩石をケースに収めて2000円で販売していた。新城市は中央構造線と糸魚川静岡構造線が近く、多種多様な地質や岩石がみられる地域であることがよくわかった。

その後、ようやく鳳来寺の境内へつづく参道の石段を登り始めた。切り立った崖が目前に迫り、鋭い尾根にはコウヤマキらしき樹形がみられた。新第三紀の海成層と火成岩の松脂岩やデイサイトが侵食されて複雑な地形がみられるという、博物館の展示で勉強したばかりの知識を目の前で確認した。参道脇はスギの植林で占められていたが、アラカシ、イチイガシ、ルリミノキ、イズセンリョウ、カギカズラ、コショウノキなど、たくさんの植物をみることができ、トウゲシバ、イワヒトデ、ヌリトラノオ、ウチワゴケなどシダ植物の種数も多かった。鳳来寺山で記録したフロラリストは短い行程ながら70種にのぼった。

どちらの山も大変盛り上がり、歩くのに時間がかかったため、時間があったら行こうと思っていた、渋川つつじ公園と湖西市のトキワマンサク自生地はカットされた。それでも十分に充実したエクスカーションとなった。もっと良い季節にまた行ってみたい場所であると、参加者全員が思ったところである。

(了)