2017春 沖縄本島エクスカーション参加報告

僕は以前、沖縄島に住んでいた事がある。その頃は、植物よりも海洋生物や両生類、爬虫類に興味を持っていたのだが、沖縄を離れて本土の山間部に住むようになり植物に関心が向かうようになった。沖縄では、両生爬虫類を観察するため日が傾いてから山原の森に入り地面ばかり見ていたので視界が狭く、植物、特に大型の木本をじっくり観察することが少なかった。そんななか希少生物懇話会のエクスカーションが沖縄で行われると知り、植物学者と一緒に歩いて違う視点から山原を、沖縄島を眺めてみたいと思ったのだ。

羊雲に覆われた琉球弧の島々は、南下するにつれエメラルドグリーンの礁湖と波の砕ける礁縁が発達し、その様子が飛行機の中から観察できた。晴れ間が広がった瞬間見えたのは、沖縄島東海岸中城湾と金武湾の間に位置する海中道路の先、浜比嘉島沖に広がるモズクの養殖場だ。所狭しと並ぶ養殖網を見て帰ってきたなと感じた。

一日目那覇を出発し北部へ向かった。先ずは万座毛だ。万座毛の開放的な絶景に見とれる観光客の中、足元を観察する集団が少し可笑しかった。風当たりの強い場所なのでどの植物も丈が低く、林内ではあんなに大きくなるガジュマルもここでは足元を這うように成長していて全く違う印象を受けた。断崖絶壁の岩上から海を見下ろすと、波あたりの強そうな石灰岩の窪みにも逞しく生きる植物が見えるが、残念ながら立ち入り禁止だ。

昼食のあと名護岳に向かうと木生シダのヒカゲヘゴに出迎えられ、山原に入ったなと実感した。名護岳の中腹を廻る遊歩道は幅も広くよく整備されていて歩きやすかった。植物を観察するという意識で山原に入ると、実に多くの種類があることに気づいた。もっとじっくり観察したいと思うのだが真新しい図鑑で種を特定するのに手間取ってしまい、すぐに時間が経ってしまった。

名護岳の次は備瀬崎に向かった。フクギ並木の集落の先にある岬から海岸に降り、藻場の生き物の観察をした。やはり海のフィールドは楽しくてはしゃいでしまった。ソデカラッパの面白いはさみの構造やクリミミズアナゴのきれいな色、ジャノメナマコのキュビエ管の粘着力などすべて懐かしかった。あっという間に時間が過ぎた。

二日目は朝から今帰仁の御嶽を散策した。方言でじゃふんと呼ばれるヘツカニガキの大木があり、材として有用であったことや分布の不思議など様々な話が聞けた。林内にはフクギの大木や幼木があり、沖縄に自生した可能性があることを知った。次に喜如嘉へ向かった。ここは沖縄島の中でも数少ない水田地帯で、大好きだったのでよく通っていた場所だ。昔は米、い草、田芋栽培が盛んだったが現在はアヤメ科のオクラレルカの栽培も行われており、その株元には様々な水田植物が生息していた。ヌマガエルやタイリクショウジョウトンボも観察できて沖縄の春の早さを感じた。

午後は与那覇岳登山道へ向かった。植物の専門家たちと歩くと聞いたことのない植物名が次々と聞こえてくる。頭が一杯になってきたところで、ヒリュウシダやアカメイヌビワの春らしい鮮やかな新芽の色に癒やされた。山頂に近づくと乾いた尾根筋の道が続きリュウキュウチクが優占していた。ここで見られた針の短いアリドオシの変種、ビシンニセジュズネノキの名前が難しくて何度も聞き返してしまった。山頂からの帰り道リュウキュウズアカアオバトやサンコウチョウ、ヤンバルクイナの鳴き声を聞いた。

二日目の宿泊は東村安波にあるやんばる学びの森だ。夕食は小鉢が9つもついた豪華なもので、特に気に入ったのがヒカゲヘゴの新芽の甘酢漬けだ。ヒカゲヘゴの朽木から葉痕部分だけ取り出したものが偶々ポケットに入っていたので、並べてみると維管束の形がそっくりそのままで面白かった。

夕食と入浴がすむと僕にとってメインイベント、ナイトツアーだ。というのも場所の選定を任されていたので、何も見られなかったらどうしようかとヒヤヒヤしていたのだ。時間もそんなにないので近くの高低差があって沢筋を横切る頻度の多い林道を選び、車三台で向かう。運良く昼間吹いていた風も弱まり、小雨がぱらつくようになるとアカマタ、イボイモリ、ヒメハブ、オキナワアオガエル、ハブなどを見ることができて一安心。谷の奥からは、イシカワガエルの「ヒャウッ」と合唱する声も聞くことが出来た。丁度エゴノキの花の時期で林道から見上げると白い花びらが闇夜に浮かび上がり満点の星空のようだった。

最終日朝は、なんとかヤンバルクイナを観察したいと思って一時間ほど歩き回ったが姿は確認できなかった。代わりに宿の周りの林の中でけたたましく鳴く声を堪能できた。朝食を取った後ネクマチヂ岳に向かうが、途中雨足が強くなり行き先を変更し慶佐次のマングローブ林へ向かう。幸運にも木道を歩いている間だけ雨が上がりオヒルギやメヒルギの生態、胎生種子の不思議からマングローブ林内の生き物まで短い時間で語り合うことが出来た。

昼食は名護のファーストフード店でとり、山原に帰化したコバナヒメハギの香りのするルートビアを堪能した。午後からは南部、佐敷冨祖崎の緑地でハマジンチョウ群落を観察した。ハマジンチョウの花の模様は個体ごとに変異があって面白かった。群落の海手には防波堤があり、その外側に堆積したサンゴ礫の中にはクサビライシ属のサンゴが沢山含まれていた。現在の中城湾では珍しいのではないかと思うのだが、トカゲハゼの生息地でもある佐敷干潟はまだまだ面白い発見がありそうだ。

最後に時間ギリギリの中、喜屋武岬の東、荒崎海岸に向かった。ここは万座毛よりも海岸線に近い植生を見ることができた。ここも潮風がよく当たるところで、這うように成長したオオハマボウはまるでハマヒルガオの様だった。曇り空の中イワタイゲキの花序が怪しく光り、とても写真映えしたのが印象的だった。

今回のエクスカーションで改めて沖縄の良さを確認することが出来た。そして、次に沖縄を訪れるときの為にも本土の動植物をしっかり観察して、それぞれ比較できるようにしておきたいと思った。

最後に、エクスカーションの運営をされた方々、楽しい時間をありがとうございました。