<第57回定例会>
□日 時:2021年10月21日(木)16時30分~18時30分 @オンライン
□発表者:樫村愛子先生(愛知大学文学部社会学教員)
□題 目:「シーセッションと日本の女性政策」
□概 要:コロナ禍は、リーマンショックにおける製造業の不況が男性に被害を与えたのと対比的に、世界的に女性の貧困や困難をもたらし、「シーセッション」と呼ばれています。とりわけ、日本型雇用システムのもとでの男性稼ぎ手モデルと日本型福祉の下で、日本の女性めぐる状況は、災害とされるコロナによる脆弱性を露にしています。 宿泊・飲食業を中心に、5割を超える非正規労働者と、シングルマザー、子育て女性に深刻な貧困が及び、子育て女性やシングルマザーに雇い止めや非労働力化が起こっています。また、DVも国際的に増加しており、日本ではDV対策も遅れています。女性の自殺率も増加しています。
ジェンダーギャップ指数が120位であり、性犯罪等の人権案件においても、深刻な弊害のある日本において、国民の7割が賛同する選択的夫婦別姓制度も、(差別禁止法から名前を変えさせられた)LGBT理解増進法も通らない、今の自民党政権の下で、女性が最も抑圧され、この10数年において、ジェンダー政策は他国に遅れに遅れています。
一方、衆議院選挙を前に、野党は、女性政策による日本の家父長的社会構造の変革、女性が担ってきたケア領域の評価等を打ち出しています。
コロナ禍が示唆した日本の女性の貧困と政策についての考察を行いました。
話題提供者は、豊橋市・田原市・湖西市・東栄町などで、男女共同参画審議会委員長他を務め、今年、あいち反貧困ネットワークで初めて女性の貧困をテーマにした総会で、講師を務めました。また今年立ち上がった、SNAW(Safety Net Aichi of Women, https://twitter.com/net_aichi)のメンバーとして、あいちの衆議院候補者に女性の貧困政策に関わる質問状を送り(https://idnatom.wixsite.com/snaw/%E8%B3%AA%E5%95%8F%E7%8A%B6%E3%81%AE%E5%86%85%E5%AE%B9)、愛知の女性市議、候補者、ソーシャルワーカーらと10月9日にフォーラムを開催しました(https://www.youtube.com/watch?v=Y7a_7ghrYEQ)。
当日は、名大のジェンダー教育政策の問題点なども指摘されました。またネオリベと現在の女性の貧困の問題についても質問が出て議論しました。ジェンダーは余剰の政策ではなく、ジェンダー主流化とされる社会構造、社会政策上の問題だという認識が日本では欠けている点も確認されました。さらには、社会主義とフェミニズムの歴史的な総括や議論が必要だとする議論も出ました。
<第56回定例会>
□日 時:2021年9月26日(日)16時00分~17時30分 @オンライン
□発表者:加納安彦先生(名古屋大学環境医学研究所)
□題 目:健康や食品に関する疑似科学はいかに浸透しているか?
□概 要:疑似科学とは、実質的な科学性が明らかでないにもかかわらず、科学的な根拠があるかのように装った言説や営みをさす。中でも健康や食品、医療に関する内容は広く流布され、科学的根拠が不明な食品が、健康の増進や疾患の予防に効果があるかのように多くの媒体を通じて宣伝され、販売されている。今回の研究会では、いわゆる「健康食品」に代表される、健康と食品に関する疑似科学的な言説がどのように浸透しているのかを、一般市民、医療従事者、そして医療従事者養成校の学生を対象として実施したアンケート結果を基に紹介した。
例えば、「ブルーベリーやビルベリーには視力をよくする成分が含まれている」に対して「正しいと思う」を回答した市民は70%、「酵素を摂取することは健康に良い」に対しても50%以上の市民が「正しいと思う」と回答した。これらは基礎医学の知識があれば十分に判断できるはずであるが、残念なことに医療従事者や養成校学生も市民とほぼ同じ割合で「正しいと思う」と回答した。
その他の言説においても、多くの医療従事者や医療従事者養成校の学生たちが疑似科学的な宣伝や広告の影響を受けていた。一方で、アンケート結果を詳細に分析すると、医療従事者養成校の学生では、その専門分野によって正しい認識を獲得できている学生もいた。このことは、学ぶ内容の工夫によって正しい認識が得られていることを示唆している。
いわゆる「健康食品」は広く利用されていることは公的機関を含む多くの調査から明らかであり、その利用率は4〜6割にのぼっている。注目すべきは一般市民よりも医療従事者の方が保健機能食品を含めた「健康食品」の利用率が高かいことであり、疑似科学的言説が医療従事者にも広まっていることを裏付けているかのようである。しかし、いわゆる「健康食品」に行政上の定義はなく、機能が表示できる保健機能食品であってもその根拠は十分ではないなど、さまざまな問題点が指摘されている。さらに、いわゆる『健康食品』とされる食品以外にも、『コレステロール0』を謳うサラダ油などミスリードを誘う宣伝を伴う商品もある。健康や食品に関するリテラシーの重要性は強調してもしすぎではない。
最後に、健康を強く志向する食生活は環境への負荷も小さくないことを示す米国での研究が先頃発表されたので紹介した。所得や教育水準の高い人々ほど健康的な食生活を送る傾向にあるが、そのことが環境へ大きな負荷をかけている。一方で、社会経済的に弱い立場にある人々が、栄養改善と環境改善を同時に達成するのは難しい。著者らは、所得と食品価格に影響を与え、栄養価の高い食品をより手頃な価格で購入できるようにする政策が必要であると主張している。
<第55回定例会>
□日 時:2021年7月22日(木)14:00~@オンライン
□発表者:髙山進先生(三重大学名誉教授)
□題 目:食・農・タネをめぐる市民運動に関わって
□概 要:2017年6月に種子法廃止が国会で決まり、多くの道県でそれに代わる条例が制定される動きがあり、三重県で2019年11月、市民運動「三重たねネットワーク」が設立された。報告者は、この会の設立から関わられた立場から、三重県種子条例の可決(2020年6月)、改正種苗法の衆院可決(2020年11月)という流れの中で、この市民運動がこれらの法律の背景にある「食・農・タネ」をめぐる問題を受け止め、この問題に関わる市民、行政、県議、農業関係者、研究者と対話し、働きかけ、学んできたプロセスと内容が紹介され、一連の動きの背景として今国際的に展開している熾烈な対立軸を直視することが重要であることを指摘された。
その対立軸とは、近年国際的に寡占化が進んでいる農業メジャー諸企業が農産物貿易自由化を促進する国際協定を通じて、日本で長年行われてきた種子法、種苗法を通じた農民への支援制度を切り崩し、農業メジャーの利益率を上げる仕組みに切り替える画策と、一方で2010年代半ば以降顕著になる「アグロエコロジー」(有機農業)や「小農の権利・食料主権」を重視する動きが国連をも動かし、「国連家族農業の10年」(2019~2028)、SDGsに反映するような流れとの対立軸である。
日本の市民は前者の圧力がもたらす食の安全性をめぐる弊害への危機感が薄く、有機農業の価値の認識が甘い。エネルギーや生物多様性をめぐる地球環境の危機を踏まえても、現在新自由主義経済からの脱却を意味する後者の流れの選択が不可避と思われるが、その議論も日本において熟しているとは言えない。その意味で、宇沢弘文氏がかつて新自由主義経済を批判する立場から、地球社会の持続的な未来を切り開く社会運営の在り方を提言した「社会的共通資本」論の再評価や、学術に立脚した総合判断能力を持つ組織(IPCCや日本学術会議)が、政治から介入されず自律的に活躍できる条件が必要とされている。報告者は最後に、専門である環境論・科学論の視点からこの論点を補足された。
質疑応答では、新自由主義政策とSDGsとの関係など、対立軸の理解に関して活発な議論が行われた。
<第54回定例会>
□日 時:2021年5月23日(日)14時00分~16時00分まで オンライン形式
□発表者:髙山孝治先生(司法書士・社会保険労務士・行政書士)
□題 目:「持続化給付金事業の体験的問題点―行政オンライン化と民営化の帰結―」
□概 要:昨年4月7日(同月20日に変更)の「経済対策」という名称の閣議決定は、「Ⅱ.雇用の維持と事業の継続」の「3. 事業継続に困っている中小・小規模事業者等への支援」のなかに、「持続化給付金」を盛り込んだ。経済産業省の外局の中小企業庁がこの事業を実施することになったが、この事業を行う組織、給付の要件、申請以降の手続そして争訟手続が、法律ではなく、中小企業庁が定める規程によって定められている。100%オンライン申請によるものとされ、商工会の協力のほかに、給付金事業の大半が民間委託された。これらの制度をみて、また関係者の聞き取り結果もあわせて考察すると、中小企業庁や事業を受託した事業者の便宜という性格が強く、ルールがはっきりしないという特徴がある。
質疑応答では、制度設計の粗さ、オンラインであることと不正を助長する危惧との関係の有無、補正指導をする窓口機関(公務員)の役割、民間委託と利益相反の可能性、中小企業庁による監督の可否など、様々な角度からの意見交換が行われた。誰のどのような権利を保護するために、どのような給付要件とすべきであり、また事前事後の手続を法定するべきか、といった法的論議が欠けたまま、政策的に給付事業が行われている。このことが決定的な問題点だが、一時支援金も同様だといわざるをえない。生活者が主権者として自らルールを作る法の支配や法治主義の意義を再考すべきである。
<第53回定例会>
□日 時:2021年2月20日(祝・土)15:00~@オンライン
□発表者:髙石鉄雄先生(名古屋市立大学副学長 運動生理学、バイオメカニクス、健康科学)
□題 目:東部・西部医療センターの市立大学病院化をめぐる議論
□概 要:名古屋市は、名古屋市立病院の東部医療センターと西部医療センターを、2021年4月を目標に名古屋市立大の付属病院とする方針を打ち出した。この統合案が持ち上がったのは2018年であったが、コロナ禍の現在においても実現のために膨大な事務作業が勤務する者の仕事を圧迫し、その影響は医療の質にまで及ぶ可能性が懸念されている。市立大学病院化のメリットとして市側は、医療体制の向上や医療教育の向上を掲げているのだが、本当にデメリットは全くないと言えるのだろうか?市民の生活や健康がどこまで統合された医療によって守られうるのだろうか?考えられるデメリットとしては、これまでの市民病院のセーフティーネットの機能は大学病院化して高度医療を優先するために廃止を検討すると2019年12月26日の財政福祉委員会でも明言されていることなどが挙げられた。市民からの反対の声が上がってこないのは、市民にとっても統合が望ましいことであると根拠なく捉えられている可能性がある。また、医師の身分が教育職に変わることで給与が大幅に減ることが予想されるが、このことについて、市立病院の医師からの反発の声がほとんどないのも、名古屋市立大学が病院を中心とした縦割り構造になっていて、さらにその病院の経済的基盤である名古屋市に対して異を唱えることができない形になっているからであると思われる。このことは、愛知県という閉じた世界にいれば不幸や強い憤りを感じることがなく、社会と深く関わろう、あるいは社会を変えなければという態度や行動をとろうとしない学生の気質にも関連している思われることなどが指摘された。
<第52回定例会>
□日 時:2021年2月5日(金)18:30~@オンライン
□発表者:田中 勤先生(南生協病院産婦人科、少年支援保健委員会・Public Health(NGO))
□題 目:思春期のこれから —コロナ禍の現場から
□概 要:話題提供者は、2007年9月から夜の街のこどもたちへの声かけ活動を継続してきた。しかし、感染拡大が切迫し、現在の活動は休止状態にある。夜の街はコロナの感染源として行政により名指しされ、真っ先に自粛要請の標的とされた。夜の街を生活の糧としている人々が客足の減少による大きな経済的打撃を受けたことは周知のところであり、アルバイトなどでそこに依拠してきた学生をはじめとする若者も厳しい状況におかれている。また、勤務先病院で担当している婦人科思春期外来では、2020年春の休校措置によって、多くの子どもは学校からの課題や家族との葛藤など家庭の内外で大きなストレス状態におかれ、学校再開後も学校生活に馴染めず苦痛にさらされていた。学校も、感染者の発生の都度、対応に追われ、その過程で、子どもたちの意思は汲み取られていたのか疑問が残る。一方で、登校・学校生活に困難を感じていた若者にとって、遠隔授業を中心とする学校生活は肯定的に受け容れられる面もあった。コロナ禍の社会では、人々の社会経済的背景によって意識の差が大きく、感染拡大防止と経済防衛とを天秤にかける現状が、日本における生活者の分断につながっている。コロナ禍で露呈した社会の脆弱性の手当ても喫緊の課題ながら、停滞を余儀なくされた社会だからこそ、社会経済から最も影響を受ける子どもたちの成長発達権、意見表明権、そして最善の利益を護るための環境整備について、「誰一人取り残さない」未来を見据えて組み立てていく良い機会ともなりうるという視点も必要であると思われる。
<第51回定例会>
<第50回定例会>
□日 時:2020年7月31日(金)18:00~@名古屋大学アジア法交流館セミナルーム1
□発表者:稲葉一将先生(「考える会」世話人)
□題 目:Covid-19(新型コロナウイルス感染症)「対応」の何が問題か
□概 要:かつて、『人権の歴史と展望増補版』(法律文化社、1980年)において、「特殊近代西欧的」な「人権」に入らない「人間としての本源的自然的欲求」から発生する「『人間として生きる』ことの要求」(12頁)という意味で、1970年代の人権状況を問題にしていた行政法学者の下山瑛二氏は、その「序」において、「人々が危機状況に直面したとき、事態の正確な認識をもっているかどうかがそれを乗り切る唯一の途であることも過去の経験が示している」と述べていました。私たちが「人間として生きる」ためには、そのルールを私たちが創り、このルールが社会関係全体を支配するのでなければなりません。これを法の支配といいますが、その現状をご存じですか?いわゆる特措法といわれているのは新立法ではありません。既存の法律の附則に一か条を追加するだけのことに、どれほどの時間がかかったのかを皆さんご存知ですか?そして、いま、コロナ「対応」のための新立法どころか、風営法等の法目的を拡大解釈する方針が、国会が閉じたままの状態で、示されてきています。これらのことが、どれほど異常(アブノーマル)であるか、その認識があるでしょうか。
たしかに、私たちは正確な情報を与えられていないので不安になり、自粛要請に応じざるを得ない状況が続いています。でも、飲食・接待等どんな営業も自由権行使なんですから、これを制限するのなら、賠償や補償は当然です。そして、どんな危機的状況でも、社会性を有する「人間として生きる」権利を保障するために国は存在するのです。ところが、閣議決定でもって経済対策として給付金事業が行われているので、責任、あるいは権利義務関係が曖昧で、任された各省も事務を外注し、市区町村の自治事務にするというありさまです。この内閣機能強化と各省行政弱体化の原因を明らかにするのでなければ、一部飲食店の排除や広告代理店との癒着などといっても、論者の意図とは別にことの本質を見ていないといわねばなりません。
この会の4月のテーマとのかかわりでいえば、地域医療を脆弱にしてきた政治と行政が、国のCovid-19「対応」を貧弱なものとしています。このような「対応」が生まれた原因をはっきりさせることが、いま研究者のすべきことです。どこまでさかのぼるべきか。これは、実は難しい問題ですが、ひとまず1990年代の国家構造改革にまでさかのぼって、検証しませんか。「ポスト・コロナ」などというのであれば、いちど立ち止まるべきでしょう。ところが、6月13日以降、「ニューノーマル時代の IT の活用に関する懇談会」なるいわゆる有識者会議の座長は、小泉政権で経済財政政策の担当大臣を経験した竹中平蔵氏です。7月17日の骨太方針2020もご覧ください。マイナンバー制度の強化、テレワークや医療教育のオンライン化、これのどこが「ニュー」ですか?正確な分析と的確な論点提示、この仕事を各分野で分担しなければならないでしょう。常態(ノーマル)からほど遠い国との対立物をあえて存在させる民主主義の工夫である地方自治の重要性も理解しつつ、まずは多分野で集まり、引き続き情報共有しましょう。
<第49回定例会>
□日 時:2020年1月10日(金)18:00~@名古屋大学工学部7号館
□発表者:稲葉一将先生・古橋忠晃先生(「考える会」世話人)
□題 目:不良な生活環境解消条例(ごみ屋敷条例)の現状と論点
□概 要:話題提供者らは、不良な生活環境(いわゆるごみ屋敷)解消条例を素材として、今年度、「医師の専門性と住民の民主性との協働」という仮説を立てて、この仮説の適否を、自治体に設置された審議会議事録の情報開示・提供とこれの分析作業とによって、検討している。この検討結果から得られた見解を、日本都市センター『自治体による「ごみ屋敷」対策―福祉と法務からのアプローチ―』(2019年)も参照することで、述べた。不良な生活環境という「結果」に注目して医療措置や規制的行政活動で対処するのではなくて、この「原因」をどこまでさかのぼって発見しようとするのかが、医師のみならず住民全体にとっても、最も重要な問題である。不良な生活環境を生み出している個人が形成している社会関係(人間関係)、自治体行政(高齢化社会におけるごみの収集処理のありよう)、国の政治行政(希薄な社会関係や異質な個人を排除しようとする意識を生み、あるいは助長していると考えられる諸政策)の全体が論じられるべきである。そのためには、不良な生活環境を生み出している個人を対象とする諸措置が検討され、講じられていることの狭隘さや限界が、この条例を制定している自治体においては、意識されてよいのではないだろうか。たとえば、個々の事例を、定義がはっきりしない精神疾患にあてはめることは、本来異なる原因を個人の問題へと転化してしまう可能性が危惧される。本来は原因が個人の中にはないにも関わらず精神医学化した問題がこれまでにいくらかあったが、ごみ屋敷の問題も、条例を執行する自治体において専門家の意見を聴くなどして、この問題をよく検討しないと、このままでは、明確な対処や治療方法もないままこうした個人を「患者」としてただ受け入れるようになる可能性がある。また自治体から国に対して、根本原因であるごみを生まないような商品の生産消費過程を制度的に確立するといった努力を要求することも、検討する価値があるだろう。なお、この研究報告は、2019年度公益財団法人明治安田こころの健康財団の助成を受けて行われたものである。
<第48回定例会>
□日 時:2019年11月29日(金)18:00~@名古屋大学工学部7号館
□発表者:庄村勇人先生(名城大学・行政法)
□題 目:公共施設コンセッション契約の動向と課題
□概 要:コンセッション制度は3度目のPFI法改正時(2011年改正)に導入された制度で、公共施設の所有権を国・地方公共団体が有したまま、施設の運営権を民間に譲渡する仕組みである。当初のPFIは、設計、建設、運営を一体的に行う
事業としてのPFI事業を宣伝していたが、政府は、今やこのコンセッション制度を前面に押し出して推奨している。「骨太の方針2019」においては、空港、水道事業分野での導入を明示しており、人口20万人以上の自治体への実効ある優先的検討のため等の支援、PFI導入に向けた補助金、2013年~2023年の事業規模目標を22兆円に増額するなどが示されている。
研究会では、PFI法制定から20年が経過した現時点におけるこの制度の可能性や問題点について報告と討論を行った。特に、個別法との抵触関係は現実には解決されていないのではないか、その理由として外国でPFI事業を行う企業の育成という面があるのではないか、といった点について議論が行われた。また、わが国のPFIのモデルとされたイギリスでは昨年PFI事業からの撤退を表明した。この点については、イギリス特有の事情もあるものの、VFMの検証や対象適格事業の検討、情報公開などわが国も参照すべき指摘が多数あることも報告された。
<第47回定例会>
□日時:2019年10月25日(金)18:00~@名古屋大学工学部7号館
□発表者:小牧亮也先生(名古屋大学学術研究員・憲法学)
□題目:フリント水道危機(Flint Water Crisis)が提起する論点――水道と法の公共性を考える
□概要:2014年にアメリカのミシガン州フリント市で、深刻な水道汚染問題が発生した。鉛中毒による人的被害に加えて、レジオネラ菌による死者をも出したこの事件は、「フリント水道危機」と呼ばれ、2018年に公開されたマイケル・ムーア監督の「華氏119」を通じて、日本でも知られるところとなった。フリント水道危機は、財政危機に陥ったフリント市が、財政コスト削減のために水質の悪い地元のフリント川に水源を変更したことに端を発したものであるが、こうした水源変更を可能にしたのは、当該自治体の住民代表機関の権限を事実上停止するミシガン州法の存在であった。本報告では、そうした「民主主義」の欠損をもたらす法制度が、人間の「生」にとって不可欠な公共サービスまでも危機的な状況にしたというアメリカの経験に学びつつ、水道事業の効率的運営が叫ばれる昨今の日本の状況を考えるための素材を提供した。
当日は、①前述のミシガン州法に基づく水道経営が、一般的に考えられる民営化以上に民営化としての特質を有すること、したがって、②フリント水道危機は日本の水道民営化に通ずる問題性をクリアに示していること、しかしながら他方で、③アメリカと日本の社会構造の差異(日本では地域問題が人種問題・貧困問題と必ずしも結びつくわけではない)に注意が払われるべきこと、が議論された。
<第46回定例会>
□日時:2019年9月27日(金)18:00~@名古屋大学工学部7号館
□発表者:森山花鈴先生(南山大学法学部/社会倫理研究所)
□題目:日本における自殺対策の現状と課題
□概要:日本では1998年に自殺者数が急増し、その後、国家を挙げて自殺対策が取り組まれるようになった。2006年に自殺対策基本法が成立して以降、各地域において自殺対策が実施されるようになり、因果関係は明らかにはなっていないが、現在の自殺者数は3万人台から2万人台にまで減少している(ただし、2019年現在もG7の中ではワーストワンの自殺死亡率となっている)。
自殺対策は、それまでは「個人の問題」であると思われていたこともあり、予算規模も当初はとても小さい政策分野であったが、法律成立後、2009年には地域自殺対策緊急強化基金が造成され、その後も補助金が計上されるようになった。しかし、実は、国家単位・自治体単位でどのような自殺対策を実施すれば確実に自殺者数が減るのかはいまだに解明されていない。そのため、基金や補助金もどのような政策に利用すべきか手探りの状態で活用されてきた。そのような中で、2016年には自殺対策基本法が改正され、全ての市町村に国の方針を基本とした自殺対策の計画策定が義務づけられることとなった。今後、全国一律のサービスが受けられるような形で政策は実施されるべきなのか、それとも地域の実情に応じた政策を実施するべきなのか、議論されることは多い。
今回は、自殺対策の政策過程を概観した上で、行政制度と自殺対策の関係、そして、自殺対策という新しい政策への予算の使われ方・制度設計の在り方について議論した。
<第45回定例会>
□日 時:2019年7月19日(金)17:00〜@名古屋大学工学部7号館
□発表者:辰巳創史先生(堺総合法律事務所)
□題 目:マイナンバー制度の現状と論点―マイナンバー違憲訴訟を手がかりとして
□概 要:国の「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」(2019年6月4日)や「デジタル時代の新たなIT政策大綱」(同月7日)等の基本計画においては、国地方、官民の区分にかかわりなく、社会全体のデジタル化を実現するためのインフラとして、マイナンバー制度が位置付けられている。インテリジェンスとサーベイランスが常態化し、地方自治が否定されることとなれば、その先に待っているのは、国家構造(憲法)全体の改変であろう。これに対して、マイナンバー法の施行により、憲法13条が保障するプライバシー権(自己情報コントロール権)を侵害されると主張する者が、国に対して、プライバシー権に基づき、個人番号の収集・保存・利用および提供の禁止とともに削除を請求している。
今回は、大阪訴訟の原告代理人にお越しいただき、この訴訟に即して、マイナンバー制度の現状と今後の論点が議論された。
<第44回定例会>
<第43回定例会>
□日 時:2019年5月10日(金)18:00〜@名古屋大学アジア法交流館
□発表者:賀屋哲男先生(愛知学童保育連絡協議会事務局長)
□題 目:学童保育の「分権」改革の現状と課題
□概 要:保護者の労働時間が長くなるのにともない、その子どもの養育が社会の問題となる。子どもの養育の問題は、子どもだけではない多くの住民の「生」と直結しており、だからこそこれは「民主主義」の問題でもある。国は、放課後における子どもの保育環境を整備するために、1997年に、児童福祉法のなかに「放課後児童健全育成事業」を位置づけた。そして2015年の同法改定により、市町村が、学童保育に「従事する者及びその員数については厚生労働省令で定める基準に従い定める」ものと定められた。ところが、この部分の規定は、2019年3月8日において閣議決定された地方分権一括法による改正児童福祉法では、「削る」こととされた。この結果、今後は、市町村が定める学童保育の職員基準は、「厚生労働省令で定める基準を参酌する」ことを要するが、市町村は、厚生労働省令で定める基準に従わなくてもよくなる。
以上のような「分権」改革は、学童保育における人材確保が困難であることを所与とする改革であり、人材難の原因や職員の労働環境の改善といった問題の克服に取り組むものではない。また、学童保育そのものの制度確立や役割を果たす環境が整備されていたわけでもない。そこで、このような「分権」改革は関係者からの強い批判を受けている。しかし、国の政策を批判するだけではなく、地方自治の存在理由が、国とは対立する住民の利益を自治体に反映し、そして国に政策変更を要求することであるかぎり、国の政策と対立する地方独自の取り組みが、ますます求められるようになっているとも言える。当日は、国の「分権」改革の経緯と特徴を確認するとともに、これとは異なる地方独自の取り組みも検討された。
<第42回定例会>
□日 時:2019年4月6日(土)15:00~@名古屋大学アジア法交流館
□発表者:辻本駿先生(西尾市のPFI問題を考える会)
□題 目:西尾市PFI事業の特徴と問題点
□概 要:西尾市は、市町村合併後に公共施設を再配置するために、2012年に、PFI(民間資金の活用による公共施設の建設管理)事業を計画した。当初、この事業計画は、新規性が全国的に注目されていた。しかし、事業計画の策定から実施の段階になると、事業内容や費用の積算根拠に対する疑義が生まれ、やがてPFI事業の見直しが住民から強く要求されるようになった。その後、2017年に行われた市長選挙では、PFI事業見直しを公約に掲げた候補者が当選した。そして「PFI事業見直し方針」(2018年3月)の策定を経て、その後、住民意見の公募が行われた。今後、公共施設再配置をどのように進めるべきかが課題である。以上の経緯を現時点で振り返ると、いくつかの問題点が明らかになる。(1)地域経済の現実を考慮しない事業計画の危険性、(2)事業内容が住民の生活感覚から乖離したことで、主権者意識をもつようになった住民が、情報公開請求や住民訴訟などの手段を活用したこと(住民が一段成熟した存在に育ったこと)である。反民主的な行政運営が住民の日々の「生活」に影響を及ぼし、これに対して「民主主義」が主張されている。このような相互(交互)作用のなかから、もう一度、自治体の政治行政のあり方や、これを支える公務員の存在理由が、問われるようになっている。
<第41回定例会>
□日 時:2019年3月8日(金)17:00~@名古屋大学アジア法交流館
□発表者: 大坂恭子先生(外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表)
□題 目:外国人技能実習制度の実態と問題点
□概 要:外国人技能実習制度においては、技能実習生を保護するために受け入れ企業を監督すべき「監理団体」が、人権侵害に直接間接に加担することすらあった。「監理団体」が受け入れ企業からの独立性を有しないからであり、またこのような制度設計を行った国には、人権侵害についての責任があったといえる。ところが、改正された入管法の制度設計は、従来の技能実習制度の欠陥を是正するどころか、むしろこれを土台とするものとなっており、このため諸問題の拡大と一層の深刻化が危惧されているのである。つまり、4月から始まる新制度では、法務省に新設された「入国在留管理庁」の監督のもとで、登録制である「登録支援機関」が、外国人労働者に対する生活支援を行う建前であるが、「登録支援機関」が受け入れ企業から独立していなければ、従来と同様の人権侵害が多数に及ぶのではないだろうか。それどころか、今回の法改正では、新たに内閣が基本方針を決定し、新設される入国在留管理庁は、内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることが任務とされている。外国人労働に関するトップダウンの政策的な制度運用が行われる可能性と、法務省が期待された役割を発揮できない可能性とが危惧される。当日は、法が有するべき授権と統制機能の回復、国と対立する地方自治体の動向への注目、グローバル化のなかでの位置づけが議論された。
<第40回定例会>
□日 時:2019年1月12日(土)15:00~@名古屋大学アジア法交流館
□発表者: 森川恭剛先生(琉球大学・刑法)
□題 目:辺野古の臨時制限区域~「警察と公有水面埋立法」~
□概 要:1950年代に「銃剣とブルドーザー」で沖縄の土地が接収され、米軍基地が拡充された。現在は「警察と公有水面埋立法」で辺野古新基地建設が進められている。この新基地建設事業は、2014年6月、日本国政府がキャンプ・シュワブ水域の一部を常時立入禁止の臨時制限区域に指定した上で、開始された。なぜ日本国政府が、米軍に排他的使用権(立入禁止権を含む)のある水域を立入禁止にできたかといえば、それは同事業の保安目的のために、日本国政府が、日米地位協定2条4項aに基づき、臨時制限区域を「みずから使用」しているからである。しかし、このことは、以下のような矛盾を生みだしている。第1に、「みずから使用」している日本国政府が、米軍が使用する基地に入ることを禁止する日米地位協定刑事特別法2条に基づき、処罰を行うことはできないはずである。第2に、「みずから使用」している沖縄防衛局が、米軍の許可が出ないという理由で、サンゴ類保全を目的とする沖縄県の立入調査要求に応じないことも、理由がない。立入許否の権限は日本国政府にあるからである。このように日本国政府は、「みずから使用」しているはずの臨時制限区域に入る行為に対して刑事特別法2条が適用されるという矛盾する法律解釈を行っており、このことによって、辺野古新基地建設事業の正当性は、大きく揺らぐことになるだろう。
<第39回定例会>
□日 時:2018年12月14日(金)18:00~@今池ガスビル
□発表者: 佐藤真理先生(奈良合同法律事務所)・辰巳創史先生(堺総合法律事務所)・星雄介先生(きずな大阪法律事務所)
□題 目:NHK放送法遵守義務確認訴訟の意義と論点
□概 要:放送番組に介入を繰り返す政治行政に対して、BPOの設立と自主規制という「実践」、そしてこれを支える放送法4条倫理規範説という「理論」が存在する。しかし、国家介入には、規制緩和による介入という一面もあることが注意されるべきである。実際に、NHKを除き、4条を含む放送法を撤廃するという内容を有する放送制度改革の存在が、今年3月に明らかになった。このような国家介入に対抗できるのは、自主規制や倫理規範など国家制定法である放送法4条からの「逃避」ではなくて、これの「実現」を目指す実践と理論である。その一つの試みである裁判運動を、今回、紹介した。これは、NHK受信料訴訟の被告となったNHK受信者が、国家宣伝機能を強化するNHKに対して、戦前の放送制度を否定するものとして制定された放送法の4条(政治的公平および多角的論点提示)の遵守を求めて、裁判所に民事訴訟(および公法上の当事者訴訟)を提起したものである。意見交換においては、受信料財源や予算の国会承認等の民放とは異なる制度が採用されているNHKを被告とする訴訟であること、参政権侵害の予防等を主張する主観訴訟であり苦情や意見広告とは質的に異なること、受信者が直接裁判所に司法審査を求めることで放送に対する政治行政介入の正当性が希薄になること、が議論された。裁判の情報は、以下のリンクを参照。https://nhkmondai-naranokai.com/category/lawsuit/
<第38回定例会>
□日 時:2018年11月10日(土)15:00~@名古屋大学アジア法交流館 セミナールーム3
□発表者:
□題 目:精神障がい者に対する自治体による医療費助成制度の現状と問題点
□概 要: わが国においては、精神障がいへの理解と支援が遅れていると言われている。当日は、自治体によって支援制度の内容が異なる「精神障害者医療費助成制度」につ いて取り上げさせていただいた。愛知県下では 9 割の自治体が「自立支援医療」を 受けていれば、「精神障害者手帳」の有無を問わず、「精神障害者医療費助成制度」の対象としている。しかし、1 割の自治体については、財政力があるにも関わらず、「精神障害者手帳」を助成の要件としており、自治体間格差が発生している。そのた め、他の自治体と同様の制度にするように求める請願書が提出されていることを紹介 した。
話題提供後の意見交換では、制度実現を求めるために、どういった権利として 要求すべきか、健常者にも必要性を理解してもらうためにどう説明したらよいか、根 本的には労働環境を変える必要があるのではないかなど、様々な点に話が及んだ。労 働環境や生活環境が改善されない限り、障がい者が安心して暮らせるよう求める運動 や訴訟が広がっていくことが予想される。今後も障がい者の権利実現に向けた運動 と、それに対する行政の応答について注視してゆきたい。
<第37回定例会>
□日 時:2018年10月5日(金)18:00~@名古屋大学東山キャンパス法学研究科906教室
□発表者: 石井拓児先生(名古屋大学 教育学)
□題 目:朝鮮学校無償化除外訴訟をめぐる論点と課題
□概 要:2010年3月に成立した「公立高校授業料不徴収及び高等学校等就学支援金支給 法」に基づき、インターナショナルスクールや民族学校を含む後期中等教育の段階に ふさわしい教育を行っている学校を対象としつつ、すべての高校生に、国公立高校と 同額の就学支援金が支給されることとなった。これは、国際人権規約社会権規約(A 規約)第13条の理念に沿う、適切な政策措置となるものであった。しかし、自民党政 権となった2012年12月に突如、下村博文文部科学大臣は、朝鮮学校無償化除外の方針 を発表した。これは、就学金支給法改正によることなく省令改正で、朝鮮学校生のみ を「狙い撃ち」するものであり、反法治主義的かつ差別的な決定であったというほか ない。 本報告では、朝鮮学校無償化除外決定に対して、この違法性を主張する訴訟が各地 で提起されてきていることを踏まえ、広島地裁判決、大阪地裁判決、東京地裁判決お よび名古屋地裁判決について、それぞれの争点をめぐる共通点・相違点を概括して把 握するとともに、今後、究明すべき研究的課題を提示した。当日は、上位の省令規定 を廃止しながら下位の規程を用いて除外処分を行う決定のあり方そのものの違法性 や、規定削除によって朝鮮学校の申請権を遡及してはく奪することの問題点など、各 地裁判決で未だに検討されていない重要な論点が示されるなど、活発な意見交換が行 われた。
<第36回定例会>
□日 時:2018年9月14日(金)18:30~@名古屋大学東山キャンパス全学教育棟1階(C12講義室)
□発表者: 山木照子先生(滋賀医科大学 特任助教)
□題 目:医師による予後告知が、がん患者-家族の関係性に与える影響
□概 要: 「家族とよい関係でいること」は、日本人が人生の最終段階の「生」に望むものの一つとされる。専門職の職権を背景として医師が行う予後告知は、その段階にある患者 の「生」の質(Quality of Life)に関わる“家族との関係性”に、大きな影響を及ぼし得る。ただ現状では、予後告知に関する考え方や実践は医師により様々であり、予後に関する情報提供を受けるか否か、受ける場合は、いつ、誰に、どのようにして伝えられるか等についての意思決定は、必ずしも患者によりなされていない。
当日は、予後告知による“患者と家族の関係性”変化について、病名告知による変化と対比しながら話題提供させていただいた。残り時間が限られていることを伝える生命予後の告知の意味が浮き彫りとなり、有限性の知覚の重要性に関連して、「限りが無い」引きこもりや認知症の告知にも話題が及んだ。 平成30年3月に、それ以前のガイドラインを改定し「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が厚生労働省により提唱された。引き続き、今後の動向を注視したい。
<第35回定例会>
□日 時:2018年7月7日(土)15:00~@愛知大学豊橋校舎「研究館」1階「第二会議室」
□発表者: 鈴木 正廣氏 (原告団副団長・事務局長)
□題 目:ユニチカ豊橋事業所跡地住民訴訟
□概 要:名古屋地裁はユニチカ豊橋事業所跡地住民訴訟において原告の主張を全面的に認め、「被告は、被告補助参加人に対し、63億円及びこれに対する平成27年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ」と画期的な判決を言い渡した(平成30年2月8日、被告:佐原光一豊橋市長、補助参加人:ユニチカ、原告:宮入興一団長ら130名)。
佐原光一市長は、跡地売却に係わる経緯について市民はもちろん、市議会議員にも全く知らせなかった。この市民無視、議会軽視は、主権者として、地方自治のあり方から考えて許しがたい。これが訴訟に踏み切った原点である。ユニチカが撤退すれば豊橋市に返還されるべき土地であると主張する根拠は、豊橋市とユニチカが交わした契約書である。第12条は「甲(ユニチカ)は将来第三条(一)の(イ)の敷地の内で使用する計画を放棄した部分は之を乙(豊橋市)に返還する」としており、撤退すれば豊橋市に返還するべき土地であった。しかし、当該土地所有権が積水ハウスに移転した後、市民がその事実を知ったことから土地の返還を求めることは難しいと判断し、当該土地売却額63億円は豊橋市に入るべきお金であり、佐原光一市長はユニチカに請求せよと提訴した。佐原光一市長は、名古屋地裁の命令を不服として控訴した。控訴審の行方が注目される。
<第34回定例会>
□日 時:2018年5月18日(金)18:00~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者: 國田武二郎先生(弁護士)・佐橋祐策先生(弁護士)
□題 目: 名古屋のマンション紛争
□概 要: 良好な生活環境の実現よりも開発優先の都市政策は、日本各地において乱開発に抗議する建築紛争を生み出したが、住民運動のたかまりや裁判の蓄積が、都市空間整備の法制度を発展させることともなった。それでも全般的には、狭隘な空間に高層建築が行われているように、住民との合意によって生活の圧迫を予防しながら進められるような都市空間整備は制度化していない。実際に、名古屋市では、低層住居が多く並ぶ瑞穂区においてマンション紛争が起きている。そこで、今回は、白龍町における住民運動や訴訟の現状を、支援活動に取り組んでおられる弁護士からお話しいただいた。道路拡張計画に適合するように行われた沿線部分の建築規制緩和(準商業地域の指定)が、道路拡張計画中止後も変更されていないところに、紛争を生む原因がある。この原因が解消されない限り、今後も、同種の紛争が続出するのではないだろうか。今後の動向を注視することとしたい。
<第33回定例会>
□日 時:2018年4月13日(金)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者: 中山 弘之先生(愛知教育大学・教育学)
□題 目: 「なごやアクティブライブラリー構想」の特徴と問題点
□概 要: 各地の自治体において、社会教育のあり方をめぐる対立が生まれている。例えば、指定管理者による図書館管理の適否や、公民館利用における政治的中立性の意義をめぐって、住民と自治体とが対立している。行政において社会教育の市場化を促進する利益が優先され、住民の学習活動が制約されれば、その「生」や「民主主義」に及ぼす影響は計り知れないものがある。今回は、実際に「なごやアクティブ・ライブラリー構想」の報告書を検討した。専門資料の収集という図書館機能を直営施設に集約するとともに、この機能が失われる指定管理者による民間施設を新たに設けることは、選書を中心とする図書館機能の政治・経済的な支配の強化を容易にする。このような特徴は本件だけではなく各地に広がっているし、またこれと対立するのは、経済とは異なる参加型の社会教育モデル、歴史の消滅や修正への抵抗だが、今後の展開が注目される。
<第32回定例会>
□日 時:2018年3月17日(土)14:00~@名古屋大学アジア法交流館セミナールーム5
□発表者: 国吉 聡志先生(沖縄タイムス)、長谷川 一裕先生(名古屋北法律事務所)
□題 目:①沖縄からの現状報告 ②高江機動隊派遣愛知住民訴訟について
□概 要: 平穏な「生」を奪う軍事のなかでもとくに、対外的・対内的に主権が問題となる安保体制を背景に進められている沖縄の基地建設は、あちらこちらに対立や矛盾を生み出している。国と県、施設建設と近隣住民との対立のみならず、職員が処分を受けた事例のように国の組織内部においても矛盾が生まれている。個々の「生」の苦しみが孤立したままではなくて、それぞれに異なる利益を相互に交換することでネットワーク状の組織が形成されて、ここから社会に介入する国家に対して「民主主義」的要求が有力に主張されうる可能性も生まれるのではないだろうか。
国吉記者からは、国家行政の適法性確保のための司法審査をしない裁判所の諸判決、こうして国家行政の民主的コントロールが機能しないために強く主張されている地方自治も国家によって無視されていること、という2つの特徴が、主権者にチェックされない国家行政を生み出しているという現状が報告された。長谷川弁護士からは、沖縄県民と愛知県民との連帯の想いを、法制度において表現する試みである機動隊派遣違法訴訟(住民訴訟)の経緯や現状が報告された。意見交換を通じて、多面から個々の問題点を明らかにして、これらを総合する実践と理論とが、いま一層必要であることを確認した。
<第31回定例会>
□日 時:2018年1月16日(火)18:00~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者: 林 秀弥先生(名古屋大学・経済法)
□題 目:人工知能(AI)を活用する市場と法
□概 要: ICTの高度化・インテリジェント化が止まるところを知らない。2045年にはコンピュータの能力が人間を超え、技術開発と進化の主役が人間からコンピュータに移る特異点(シンギュラリティ)に達するとも議論されるなど、その処理能力は加速度的に高まっている。この情報技術の現状を考える場合、経済社会(市場)において独占が進行していること、このための事業環境を欧米、中国といった大国が競いながら整備していることが研究会では議論された、。技術進歩の中で主要プレーヤーの立場を確保しようとする動きが、欧米そして日本を含むアジア各国の独占資本と国家において目立っていることを報告では指摘した。当日は、AIをめぐる開発の現状と今後の課題を、専門分野の垣根を越えて一緒に考えてみた。
<第30回定例会>
□日 時:2017年12月4日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者: 田中 勤先生(南生協病院産婦人科、少年支援保健委員会・Public Health(NGO))
□題 目:深夜の街のこどもたちから社会を考える―名古屋栄地区における夜回り活動から
□概 要: 2007年9月から10年にわたり、名古屋市栄地区を中心に深夜徘徊の思春期世代を対象として実施されてきた夜回り調査相談活動。かつては援助交際や風俗店など性的搾取と関わりのある10代女性に出会うことも多かったが、リーマンショック以降の不景気を反映してか、あるいは時代の流れからか、現在主に出会うのは、不登校などの経験のあるこどもたちとなってきた。10年間でのタイプの変遷こそあれ、こどもたちに共通するのは、彼らもまた資本主義社会における搾取の構造に組みこまれていった者であるということであった。今回は、深夜の街で出会ったこどもたちのケースを基に、社会の問題点とそれに対する若者支援の在り方と連携、行政への提言、さらには公衆衛生活動の在り方とは何かといった、幅広い議論が展開され、なによりこどもたち自身が求めているものは何かについて考える機会となった。
<第29回定例会>
□日 時:2017年11月6日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者: 川口直也先生(弁護士)
□題 目:日本の難民政策の実情
□概 要: 第二次世界大戦によって発生した大量の難民、ソビエト圏からの難民を背景に、1951年難民の地位に関する条約が採択されました。当時、自国に多数の難民が流入することを危惧した国があったことから、難民条約は、1951年以前の事件により国を逃れた難民に限って、適用される内容でした。その後、1967年に「難民の地位に関する議定書」が採択され、1951年以前という制限は、撤廃されました。日本は、難民条約及び議定書に加入していませんでしたが、1975年以降、多数のインドシナ難民が流出したことを契機に、難民条約及び議定書に加入し、1982年1月1日から難民の受け入れを行っています。当初の難民認定申請者は数十人規模でしたが、最近は難民申請が急増し、2017年は、1万人を超えるに至っています。他方、難民認定者は、28人と低迷しています。このような現状を生み出している日本の難民政策を題材に、民主主義における主権者、基本的人権の主体について議論しました。
<第28回定例会>
□日 時:2017年10月17日(火)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者: 関根佳恵先生(愛知学院大学 農業経済学 准教授)
□題 目:小規模・家族農業をめぐる国際情勢の変化と支援制度構築の可能性
□概 要: 小規模・家族農業は、近代化に乗り遅れた非効率な農業と見なされる傾向があったが、近年、そうした見方には大きな変化がみられる。国連は2014年を国際家族農業年と定め、加盟国に対して小規模・家族農業の役割を再評価し、政策的支援を行うよう求めた。この流れは、「国際家族農業の10年間」の採択を国連総会に求める国際的運動に連なって行く。こうした小規模・家族農業をめぐる国際情勢の変化と背景、持続可能な食料生産、貧困・飢餓の撲滅、農村所得の確保等の目標実現に向けて小規模・家族農業に期待される役割、その役割発揮の上で障害になっているものについて、日本における農業改革議論にも言及しながら報告がなされた後、意見交換が行われた。小規模・家族農業支援に期待する意見が出されるとともに、既存の権力構造の中に小規模・家族農業が組み込まれていく可能性についても議論がなされた。
<第27回定例会>
□日 時:2017年7月21日(金)18:30~@名古屋大学工学部1号館144講義室
□発表者: 西尾彰泰先生 (岐阜大学 保健管理センター 准教授)
□題 目:発展途上国の精神保健―日本人に何ができるか?
□概 要:日本のODAは、1954年、ビルマとの間に「日本・ビルマ平和条約及び賠償・経済協力協定」を結び、戦後賠償としてスタートした。現在、日本は、年間約1.2兆円を拠出しているが、これは日本のODAは過去最高であった1997年の半分である。そのうち、保健医療分野のODAは予算全体の2.1%であり、DAC加盟国合計の15.5%と比較すると極めて少ない。保健医療分野の中でも、精神保健分野は、誤解やスティグマが根強く、多くの国や国際社会全体においてもタブー、もしくは非優先分野として周辺化されてきた。精神障害は、地域、国境、人種、文化を越えて存在するが、一般的に開発途上国における精神保健は困難度が高く、JICAにおいても精神保健分野のプロジェクトが実施されたことはなかった。それでも、2016年に、Global Alliance for Chronic Diseases(GACD)の開発枠組みの中に、精神保健が追加されたことを皮切りに、AMED研究費「地球規模保健課題解決推進のための研究事業」にも、はじめて精神保健分野が追加された。近年、急速に注目される国際精神保健分野の現状を、報告者が関わるカンボジアでの小さな精神保健プロジェクト、東南アジアでの学校精神保健プロジェクトを軸に報告した。
<第26回定例会>
□日 時:2017年6月27日(火)18:00~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者: 伊藤弘子先生(名古屋大学大学院 法学研究科 アジア法 特任准教授)
□題 目:アジアにおけるイスラーム
□概 要:イスラームの基本を確認した上で、ムスリム人口が世界最多のインドネシアと第2位のインドをとりあげアジアにおけるイスラームにつき考察した。インドネシアは国民の大多数である2億人がムスリムで、インドではムスリムは人口のほぼ15%であるとはいえ1億7,000万人を擁する。いずれの国へも外来の宗教としてイスラームが伝播し、土着法の融合と旧宗主国法の移植によりムスリム法が形成された。インドネシアでは成文ムスリム法が制定され、イスラーム法にはなかった養子縁組を制度化している。これに対してインドでは、マイノリティの人権としての宗教の平等と信仰の自由を侵害するとして、家族法分野の世俗化に強い抵抗が示される。報告では、両国においてイスラームが法改正および政治的争点として、どのように現れてきたかが例示され、イスラームの多様性とアイデンティティとしての宗教について意見交換が行われた。
<第25回定例会>
□日 時:2017年5月12日(金)18:00~@名古屋国際センター第4会議室
□発表者: 社会学の観点から 川北稔先生(愛知教育大学/社会学 准教授)、憲法学の観点から 大河内美紀先生(名古屋大学/憲法学 教授)
□題 目:不良な生活環境解消条例(いわゆるごみ屋敷条例)の検討
□概 要:「不良」な生活環境の「解消」を目的内容とする条例を検討した「中間まとめ」に即して、世話人からの問題提起のあと、社会学および憲法学のそれぞれの観点からのコメントが行われた。国ごとに異なる言語表現の多様性とその背景、地域社会での互酬や支援の取組みから権力的行政活動を授権する条例制定への変化の諸要因、この地域特性、自治体と国の政策との対立や緊張関係、近代主義的個人像をめぐる認識の対立とこの条例の評価との関係、支援のあり方に関する規範(意識・制度)、本件の個別特殊性を経験した民主主義の課題などの論点が提起されて、活発な意見交換が行われた。
<第24回定例会>
□日 時:2017年4月17日(金)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者: 船津静代先生(名古屋大学 職業教育学 准教授)
□題 目:進路獲得行動に不器用な学生たち
□概 要:大学における就職相談の現場では、就職活動の時期の学生は、いわば「進路獲得行動に不器用な学生たち」と捉えられている。「不器用」の中には、「経験値が低い」「頭でっかちで体がついていかない」「むかうモチベーションが低い」一群とともに、「働く現場で一般的に求められる力に一定の偏りを有する」一群がある。その中には発達障害圏域の学生も存在する。明らかな障害として認知のある学生群とともに、グレーゾーンと言われる学生群も多く、彼らは就職活動期に入り大きな壁にはじめて向かい合うことになる。大学から働く世界へのこれら学生の支援の実態と問題点とを、事例を通じて検討した。
<第23回定例会>
□日 時:2017年3月24日(金)18:30~@名古屋大学アジア法交流館3階「セミナールーム2」
□発表者: 大河内美紀先生(名古屋大学大学院 法学研究科 教授)
□題 目:「新しい民主主義」が私たちに投げかけるもの
□概 要:報告では、近時の「新しいデモクラシー」においてなされる表現が、従来の民主政過程においてなされる表現とは質的な相違があるという認識に基づき、それを踏まえ た表現の自由の保障のあり方を考えることが必要であるとの問題提起を行った。 すなわち、カウンターデモクラシーやポリュリズムを含む「新しいデモクラシー」は本来的に否定的・感情的な要素を含んでいるとされ、そのためそこにおける表 現も否定的・感情的な性格を帯びる傾向にある。そして、直接的に危険を招来するとまではいえない「過激な」政治的表現を比較的安易に規制してきた日本には、特にこ の種の表現への規制が容認されやすい土壌が存在する。これに対するひとつの応答としてはアメリカ的な規制のあり方を突き詰めることが考えられるが、それだけで は単に「自由」に表現させるだけにとどまり、実際には理性的・合理性を重んじる言論空間においては合理性に欠けるという理由で黙殺される可能性が高い。「新しいデ モクラシー」に期待をかける以上、単に規制を回避するだけでなく否定的・感情的表現から「何か」を汲み取る回路を用意する必要がある。
<第22回定例会>
□日 時:2017年2月27日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者: 関根佳恵先生(愛知学院大学 農業経済学 准教授)
□題 目: 新自由主義的農業・食料体制の矛盾―日本における企業、抵抗、災害―
□概 要:1980年代からの新自由主義の台頭の下で、日本の農業・食料政策は大きく転換してきた。そのなかで企業の農業参入が進んでいるが、農村地域ではそうした動きに対する組織的あるいは未組織の抵抗が展開している。2011年の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故の被災地では、復興の名の下でさらなる規制緩和と企業の農業参入が促進されているが、それにともなって新自由主義的農業・食料体制の矛盾は深まっている。「生」をつなぐために欠くことのできない食料生産の現場で、今何が起きているのか。Kae Sekine and Alessandro Bonanno. 2016. The Contradictions of Neoliberal Agri-Food: Corporations, Resistance, and Disasters in Japan. West Virginia University Press.の内容を元に議論した。
<第21回定例会>
□日 時:2017年1月23日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟703教室
□発表者: 牧瀬英幹先生(中部大学生命健康科学部 精神医学 准教授)
□題 目: 精神医学の学界動向を通して今日の「生」支配を考える -精神分析における「彼岸」と「伝承」の問題を軸にして-
□概 要:『トーテムとタブー』に始まり『モーセという男と一神教』へと受け継がれるフロイトの思想を再確認することを通して、人間の社会的行動が「彼岸」への関係においてどのように決定づけられるかを検討した。それは、人間の死という現実が、生き残る人々に如何に強い影響をもたらすものであるかをもう一度省み、そのような死と共に我々の新たな生を模索する試みでもあった。
結果、人間にとっての「彼岸」への関係が、世代間の通時的伝達で文化的に受け継がれないとき、我々は生と死を巡る想念に、病という形で苦しむことになるということが示唆された。また、先祖=死んだ父との関係から自由になろうとその関係性を抑圧し続けることで、かえってそれに強く縛られてしまうという逆説を如何に乗り越えるかが、精神分析の臨床実践のみならず我々が生きる社会の再構成を促していく上での共通の課題となることが提起された。この点において、精神分析という場を介して先祖=死んだ父との紐帯を再構成することは、主体の新たな生を切り拓くだけでなく、人間と言語との関係を位置づけ直し、社会全体の言語生成システムを再起動させる可能性を孕むものであると考えられた。
<第20回定例会>
□日 時:2016年12月26日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 法学研究科905教室
□発表者: 勝部麗子先生(豊中市社会福祉協議会 社会福祉学)
□題 目: ゴミ屋敷は社会的孤立の象徴-困った人は困っている人-
□概 要:豊中市のコミュニティーソーシャルワーカーという新たな職業が2004年に配置された。コミュニティーソーシャルワーカーの第一線で活躍してきた話題提供者の実践から、10年で400件以上のゴミ屋敷支援を行った中から見えてきた課題や教訓、つまり、「社会的排除をさせない」「困っている人を支える人を地域に増やしていく」「制度の狭間の課題こそ地域福祉発展の芽」「地域での問題解決力を高める」「本人の支援と本人の社会関係を広げていく」「同じ問題を抱える人を横につなぐ(独りぼっちをつくらない)」「社会資源につなぐ、なければ生み出す」「ネットワークとフットワークと諦めない心」などについて意見交換を行った。
<第19回定例会>
□日 時:2016年11月21日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者: 早川徳香先生(南山大学総合政策学部 精神医学 准教授)
□題 目: 地域に包摂されるゴミ的屋敷と精神科訪問医療
□概 要:ある地域の精神病院では医療者が病者を訪問して精神医療サービスを提供し、地元に定着している。訪問地域には、同院の患者か否かに拘わらず、一見して奇異なゴミ的屋敷に住まう奇異な行動を伴う者も複数いるが、いずれも地域から排除されることなく包摂されて生活している。今回、精神障害者、精神科訪問医療、ゴミ的屋敷と「いわゆるゴミ屋敷」、地域の包摂をキーワードに社会的包摂に関する話題を提供した。
<第18回定例会>
□日 時:2016年10月24日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者:大園誠先生(名古屋大学 政治学・政治思想史 大学院研究生)
□題 目: 「南原繁と『戦後教育改革』」
□概 要:本報告では、戦前から戦後にかけて活躍した政治哲学者・南原繁が深く関与した「戦後教育改革」を取り上げ、検討した。南原は、同時代における重要な局面において現実政治に直接コミットしたが、その中でも「戦後教育改革」に対する関与は際立っており、しかもその多くが実現したことは注目に値する。
報告内容のポイントは以下の5つに要約できる。第一に、「戦後教育改革」に関与した背景には、南原が目指した「戦後日本の精神革命」という目的が存在した(自立・独立した国民の形成という課題)。第二に、南原らが関与した「戦後教育改革」(例えば「教育基本法」の制定)は、敗戦後にGHQ主導で実施されたと言われてきた一連の「戦後改革(占領改革)」の中でも「日本側のイニシアティヴ」が強かった(南原はアイデアを練る段階から一貫して関与した)。第三に、「日本側のイニシアティヴ」が発揮された理由の一つとして、「戦後教育改革」の構想内容については「戦前からの連続性」という側面が存在した(具体的には、昭和研究会内に設置された「教育委員会」の存在とその構成メンバーとの連続性。この点は先行する実証研究によって指摘されている)。第四に、実現した「戦後教育改革」の内容(6・3制による義務教育の実施、旧制高校の廃止、新制大学の創設、一般教養科目の導入など)のうち、「高等教育の一元化」については南原が特にこだわりを見せたこと(その背景には、南原自身が恩恵を受けてきた、旧制高校を中心として複線的に存在した戦前のエリート教育制度への批判が存在し、すべての国民に対して平等に教育機会を提供するという目標があったと考えられる)。第五に、南原の「戦後教育改革」への関与の政治哲学的基礎として、ドイツの哲学者フィヒテの「文化国家」「教育国家」という理念が存在した(南原は「戦後日本の精神革命」によって、国民ひとりひとりが自立・独立した個人として「人間性」を発展させ、「国家社会の形成者」となることを目指していた)。
当日の議論では、「戦後教育改革」の内容や、2007年の「教育基本法改正」による変化、南原が目指した「人間像」などに関連して疑問や論点が様々な観点から提起され、民主主義を支える主体を形成するために「戦後教育改革」が果たした役割と現代的意義について、さらに考察する必要性を認識した。
<第17回定例会>
□日 時:2016年9月30日(金)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者: 高橋祐介先生(名古屋大学 税法学 教授)
□題 目:「租税回避と近時の国際的対応の動向」
□概 要:本報告では、多国籍企業による国際的な租税回避とそれに対する各国の対応策について報告を行った。まず導入として、報告者の最初の研究テーマであるアメリカのパートナーシップ課税と、その課税上の利点故に1970年代以降タックス・シェルターの要素としてパートナーシップが使われている現状、流行の企業形態としてのLLC、法人の役員以上に高額報酬を得ることができ、それゆえに格差を生み出す一要因と目されているファンド・マネージャーと大学基金の関係を説明した。
次に、日本における租税回避、脱税、節税のそれぞれの定義とそれが発生するメカニズム、負の課税としてのふるさと納税制度といわゆるお礼の品、リースによる租税回避と名古屋の関係、タックス・ポジションの差異と非課税法人としての国立大学法人名古屋大学の地位の利用可能性に触れた後、源泉地管轄と居住地管轄に基づく各国課税権の行使と租税条約、国際的租税回避の仕組みを説明した。
最後に、OECDのBEPSプロジェクトや税務行政執行共助条約、国際的な(租税に関する)情報交換ネットワークといった近時の国際的対応の動向を紹介した。あまり知られていないが、外国の納税者番号が日本の金融機関における口座開設などには要求されていること(日本のマイナンバーは要求されていない)、世界に多くあるタックス・ヘイブンの特徴などを明らかにした。
<第16回定例会>
□日 時:2016年7月11日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者:樫村愛子先生(愛知大学 社会学 教授)
□題 目:「豊橋JK広報室問題について」
□概 要:「豊橋JK広報室問題」について、決定のプロセス等への申し入れを行った当事者として、報告を行った。「JK広報室問題」とは、豊橋市が今年の市制110周年記念事業の広報活動を強化するため募集を始めた女子高校生(JK)による「JK広報室」の設置に対し、私ほか元市議豊田八千代ら女性20名らが、設置のプロセスに対する疑義と名称変更を佐原市長に申し入れたものである。
女子高校生の性を売り物にした「JKビジネス」は、グレーの性産業として、規制条例の施行が予定されるなど、社会問題化している。一方、繰り返される総務省や地方自治体広報のセクハラ問題、HIS問題など、公共性への性的資本主義の侵入が観察されてきていた。
そして、申し入れの過程でわかったことは、女性の貧困や雇用、性の問題と関わるこの案件は、男女共同参画問題の案件であるにもかかわらず、市はまったく関連部署と連携せず、その必要性の認識もなかったことである。さらにはこの申し入れについての記者会見を妨害することとなるような報道リテラシーの欠如も見られた(http://mainichi.jp/articles/20160604/k00/00e/040/248000c)。
「JK」用語を公共性に留意すべき市が使用することの妥当性、女子高校生たちが呼称使用をよいというなら構わないとする、誤った当事者主義による公共性の侵害、一方でJK用語の当事者的使用における、現在の女子高校生たちの生活世界の貧困と抑圧、さらには若年女性の貧困、ネオリベ・消費主義的地域おこしの方法的貧困について、議論しました。
<第15回定例会>
□日 時:2016年6月20日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者:石井拓児先生(名古屋大学 教育行政学 准教授)
□題 目:「グローバリゼーションと新自由主義教育改革」
□概 要:本報告では、大きな二つの柱を設定した。第一の柱は、グローバリゼーションとよばれる新しい社会段階をどうとらえるのかにかかわる問題設定である。大きな話題を呼んでいるパナマ文書にみられるように、グローバリゼーションのもとで、グローバル企業や富裕層の「税逃れ」の実態が進行しており、現代国家は、「租税国家」としてその機能と役割を果たすことが難しくなり、とりわけ富の再分配機能は著しく低下してきている。21世紀以降、世界各国で同時並行的にすすめられる財政削減を主たる目的とする一連の教育改革・大学改革を、「新自由主義教育改革・新自由主義大学改革」として把握しうる。
第二の柱は、戦後日本における教育財政制度の特質をどうとらえるのかという問題である。先進諸外国のほとんどで、子ども手当が「普遍的現金給付」として制度化されたのに対して、日本の児童手当(1971年)は、「選別主義制度」として成立し、所得制限のうえに第3子以降に対象が限定される、きわめて矮小な制度であった。ほぼ同時期から、大学授業料は大幅な値上げを繰り返すようになり、1970年代の後半には全銀行で「教育ローン」事業が開始されるようになる。銀行業界は、奨学金制度が教育ローン事業の拡大の妨げになるとし、「無利子奨学金制度」「返還免除制度」の廃止を要求するようになった。子育て・教育費を含めて社会保障の仕組みが未整備であるなか、安定的な生活条件は、日本型雇用(年功賃金、終身雇用)に参入することに特化されたのだ、ということもできる。
このように、戦後日本が諸外国の類型とも相当に異なる「福祉国家(福祉社会)」であった歴史性のうえに、今日の新自由主義教育改革がすすめられてきたのである。以下、討論・質疑応答の成果を含めて、本報告でえられて知見を整理したい。第一に、この戦後的特質のゆえに、わが国では日本型雇用の参入のための「学歴競争」「受験競争」が激化し、また多様な生き方・働き方が社会的に承認されてこなかった(承認されにくかった)ということができる。このことは、引きこもり問題の発生をめぐる社会構造的・教育制度的背景としてとらえることも可能である。第二に、大学授業料無償を制度化する保守主義型福祉国家、大学授業料は無償ではないものの奨学金等の個人支給を重視する自由主義型福祉国家、そのいずれにも属さない日本という類型理解がえられることである。制度的には、「保守主義型と自由主義型の合成」(エスピン‐アンデルセン)ととらえることはできず、いずれの「福祉国家」とも結合しない「似非福祉国家(=福祉社会)」とみるべきであろう。第三に、社会保障制度の未整備の上に、日本型雇用が崩壊し、子育て・教育費をめぐって社会的な恩恵が何も得られない世帯が、現下の日本において急速に拡大しているということができることである。日本の子ども・青年の「生と民主主義」をめぐって、とりわけ深刻な事態が生じてきている構造的な把握をいっそうすすめる必要があるだろう。
<第14回定例会>
□日 時:2016年5月9日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 工学部7号館B棟705教室
□発表者:照山絢子先生(筑波大学 人類学 助教)
□題 目:「障害を持つ教員に関する研究」
□概 要: 教育と障害にまつわる研究といえば、ほとんどの場合、教育を受ける側の障害、即ち障害を持つ児童・生徒をあつかうものである。今回の報告では、視点を変えて、障害を持つ教員に焦点を当て、教員という職業や学校という職場がどのように経験されているのかを語りの中から明らかにした。また、こうした教員の存在が、よりインクルーシブな学校文化、職場環境、社会のありかたを考える上で、どのような視座を提供するのかを検討した。
<第13回定例会>
□日 時:2016年4月16日(土)15:00~@名古屋大学東山キャンパス 法学研究科905教室
□発表者:西土彰一郎先生(成城大学 憲法学 教授)
□題 目:「番組編集準則」
□概 要: 報道の最も重要な役割は、権力監視である。この役割を果たすために、報道に携わるマスメディアは、自律的な存在でなければならない。放送も報道に携 わる以上、権力監視の観点から 自律的な存在である必要がある。しかし、近時、この放送の自律性に対して政治の世界からさまざまな圧力がかけられている。この介入の根拠となっているのが、放送法に定められている番組編集準則である。この状況に対して本報告では、「内部的自由」を視野に入れながら番組編集準則を「解釈」することの意義を述べた。詳しくは、雑誌「世界」2016年5月号に掲載された拙稿をご参照ください。
<第12回定例会>
□日 時:2016年2月15日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 法学研究科905教室
□発表者:鈴木國文先生(名古屋大学大学院医学系研究科・リハビリテーション療法学専攻 教授)
□題 目:「精神医学史から今日の社会を考える」
□概 要:精神医学の歴史と言っても、それは、ほんの200年あまりのものでしかない。つまり、近代的な意味での精神医学は、ほぼフランス革命の時代以降に生まれたものと考えていい。その誕生以来、精神医学は、近代の流れの中で、その時代の思考の枠組みと微妙な関係を結びながら、「精神の病」に対する視点を変え、またそれに対する対応のあり方を変えてきた。当日は、近代精神医学200年の歴史の流れをごく簡単に概観しながら、それを踏まえて、今日の精神医学に見られるいくつかの特徴について話題を提供した。
<第11回定例会>
□日 時:2016年1月18日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 法学研究科905教室
□発表者:野村直樹先生(名古屋市立大学 人類学 教授)
□題 目:「E系列の時間―同期からみる人と生物の時間」
□概 要:「E系列の時間」とはなにかを発表した。「E系列の時間」とは、同期と相互作用がつくる時間のことである。それは、たとえば私たち生命体の体内時計に見られるように、環境と同調し周囲の変化に合わせてリズムを刻む生物時計のことでもある。E系列の時間は、今、今が連続していく時間であり、ダンスを思い浮かべていただいてもよいように、個人がもつ過去ー現在ー未来という時制とも、時計が刻む時間とも異なる。生命の時間についての再定義を試みた。
<第10回定例会>
□日 時:2015年12月4日(金)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 法学研究科906教室
□発表者:稲葉一将先生(名古屋大学 行政法学 教授)
□題 目:「共通番号制度」
□概 要:「世界最先端IT国家創造宣言」や産業競争力会議新陳代謝・イノベーションWG等の政府文書をみながら、共通番号制度が有する深刻な問題は、個人の行動の予測分析とリスク管理とによって、プレイフルでクリティカルな主体性(主観性)が消滅することにこそあるという観点から話題を提供した。この問題に関して必ず引用されるといってよいDeleuzeのSur Les Sociétés de Contrôleが資本主義の構造変化を論じていたことを確認するとともに、このDeleuzeが用いていたmodulationの語に注目しながらプライバシー保護の機能にboundary managementが含まれると主張する法学者Julie Cohenの論議を紹介した。
<第9回定例会>
□日 時:2015年10月19日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 法学研究科905教室
□発表者:岡本文人先生(大阪市福祉局 心理学)、古橋忠晃先生(名古屋大学 総合保健体育科学センター 准教授)
□題 目:「いわゆるゴミ屋敷」問題を考えるにあたって
□概 要:生活困窮者支援の一つである「いわゆるゴミ屋敷」問題に関して、精神医学、行政法、社会学など複合的立場から学際的に探究していくプロジェクトが始まりました。研究代表者(古橋忠晃)から研究の意義や計画について説明した上で、大阪市福祉局で心理士として活動している岡本文人先生に大阪市の現状について簡単にご報告していただきました。
<第8回定例会>
□日 時:2015年9月21日(祝日・月)16:30~@KDX名古屋駅前ビル13F ディスカッションルーム
□発表者:庄村勇人先生(名城大学 法務研究科 准教授)
□題 目:残留農薬規制における「安全性・危険性」判断
□概 要:残留農薬の基準決定手続の問題について、TPP交渉の進展も踏まえていくつかの話題を提供した。
<第7回定例会>
□日 時:2015年7月27日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス法学研究科906教室
□発表者:川北稔先生(愛知教育大学 社会学 准教授)
□題 目:ひきこもり支援と社会空間~相談窓口は居場所の回復を保証するか?
□概 要:ひきこもり支援活動のフィールドワークから、居場所や就労支援など多様な拠点がもつ「空間」としての意味について報告した。ともすれば、支援活動は個人単位の相談や訓練へと矮小化して評価され、多様な空間的拠点における経験が参加者の自己像を再構築する意義が見過ごされてしまう。生活困窮者自立支援法の時代において、相談窓口のみならず多様な生活や活動の拠点をどのように生み出すか、展望も含めて議論がおこなわれた。
<第6回定例会>
□日 時:2015年5月11日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 文系総合館401/402教室
□発表者:吉永公平先生(弁護士)
□題 目:自治体内弁護士は住民の敵か
□概 要:弁護士であり、また任期付の地方公務員としても活動した経験にもとづき、公務員と住民のそれぞれの意識や関係の変化について話題を提供し、公務員が有するはずの全体の奉仕者性とは何かを論題とした。
<第5回定例会>
□日 時:2015年4月27日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 文系総合館401/402教室
□発表者:三脇康生先生(仁愛大学 精神医学 教授)
□題 目:社会おける『難しさ』を変えることができるか、あるいは複数の『難しさ』に気づくことができるか、少しでも楽になるために
□概 要:障害者自立支援法ができて、小規模作業所の非能率性が切り捨てられ、いろんな存在の仕方が切り捨てられた気がし、臨床家の私にとって大きな危機が訪れた。管理のなかでも様々なあり方を最小限でも回復する方法を考えたいと思い臨床を続けている。少なくとも、そういう非能率性が豊かな時間性を生み出していたことを確認した。
<第4回定例会>
□日 時:2015年2月26日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 法学研究科905教室
□発表者:樫村愛子先生(愛知大学 文学部人文社会学科 教授)
□題 目:ネオリベラリズム社会におけるマネジメント・イデオロギー
□概 要:社会による資本主義のコントロールの危機(制度と理念の危機)について、マネジメント・イデオロギー(仏社会学)の観点から、①「資本主義の新たな精神」 、②ポスト全体主義(社会的制度・集団等の機能不全による社会的機能の停止)、③ 臨床社会学による企業組織分析(企業は個人に内面化・心理学化されるため、個人はこの矛盾を自分の中で生きなくてはならず、管理の合理化に伴う組織の変更 により、リーダーシップではなく組織そのものの支配として、一人のリーダーで はなく組織の全能性のイマジネールが各人の自我理想とすり変わる)、④ストーリーテリング(矛盾を覆い隠すものとして、物語幻想-ストーリーテリングが機能する)を考察した。ここでは、スティグレールが指摘するように、認知資本主義 (アテンション・エコノミー)のもとで、「社会からの象徴界の排除は、文化の マネジメントへの動員と呼応している」。さらに日本の企業経営と人材マネジメントの問題を分析した。
<第3回定例会>
□日 時:2015年1月19日(日)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 法学研究科905教室
□発表者:稲葉一将先生(名古屋大学 法学研究科 教授)
□題 目:福祉行政の規制・寄生(parasitic)行政化?―いわゆるゴミ屋敷対策条例を素材に
□概 要:生活困窮者支援と総称される制度は、従来の社会福祉(責任)からの行政の退行という一面を有するが、社会福祉を、曖昧な言い方になるが様々な主体が「つくる」一面も有する。ネグリらの言語表現を借りれば、"the ruled now tend to be the exclusive producers of social organization"であり"the rulers become ever more parasitical"である(べき)といってもよい。新自由主義的な国家と法を否定するとしても、だからといって福祉国家と法を呼び戻すのではなく、「寄生」的存在とされる「国家」を統制する「民主主義」を追求する課題にとりくむ法学があってもよいだろう。
<第2回定例会>
□日 時:2014年12月1日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 法学研究科905教室
□発表者:下山憲治先生(名古屋大学 法学研究科 教授)
□題 目:法・規制と『通常人』・『合理人』―医薬品流通規制改革の混乱を題材に―
□概 要:医薬品の流通・販売は、消費者の便宜のために薬局・薬店以外でも販売できるように規制緩和される一方で、消費者を保護するために郵便等販売方法(いわゆる通販)は規制が強化されました。それぞれ逆方向の規制の流れは、医薬品の売買取引の場面で「合理的判断ができる通常人」を想定するか、「不合理な判断をしてしまう現実的な人」を想定するかで違いがあります。これらがどのように使い分けられて、法律ができたのか簡単に検討する。なお、この医薬品の通信販売規制は、最高裁により違法判断を受け、2014年に改正された。
<第1回定例会>
□日 時:2014年10月20日(月)18:30~@名古屋大学東山キャンパス 法学研究科905教室
□発表者:古橋忠晃先生(名古屋大学 総合保健体育科学センター 准教授)
□題 目:ひきこもり青年の「生」のあり方に関する最近の私の研究紹介
□概 要:大学生の精神医療というのは医学的言説にはおさまらないものを含む領域である。発表者の専門領域である「ひきこもり」はまさにそうしたテーマの一つである。主体における公的/私的なものの対立、自律(autonomie)と個人主義、医療化と社会的苦痛の問題などを巡って、これらの問題がどのように「現代における『生』とは何か」という問いに結びつくかを提示した。