樫村愛子(愛知大学)
1.社会と地域の変化における「ごみ屋敷」問題
(2)社会的包摂における「ごみ屋敷」問題
「ごみ屋敷」問題をセルフネグレクトの観点で捉え、全国調査を展開している帝京大学の岸恵美子(公衆衛生看護学)(2012)は、「セルフ・ネグレクト」(個人や環境の衛生を怠り、QOLにかかわる行為やサービスを継続的に拒否する)には、高齢化・心の問題などさまざまな要因があるとするが、彼らの生存を危うくするリスク要因として、家族や地域からの孤立が重要であると指摘している。
さらには、個人主義が徹底している欧米との差異として、「依存と気兼ね、世間体を気にし、周囲に委ねて自己主張をしない」日本の高齢者の特徴を指摘し、欧米と異なる介入(より積極的な介入の必要性)や関係の取り方の必要性を指摘している。
また、稲葉が指摘しているように、ネオリベラリズムのイデオロギーである、福祉切り捨て、自己責任化、社会関係の競争化とサバイバル・ゲーム化(およびそれによる人々の不安化と閉じこもり化)は、福祉サービスを受けることをスティグマ化する。ネット言説はあからさまに弱者に対するヘイトスピーチに満ちている。弱者を支えようとする家族・地域や自治体についてもバッシングが行われているほどである。
また、福祉の担当者の側にも、昨今では、現場に出向くというアウトリーチを敬遠する傾向が指摘されつつある(京都文教大学人権委員会 , 京都文教短期大学人権委員会 2012)。
これらの現状を踏まえつつも、「ごみ屋敷」問題を受容する、多様な社会、社会的包摂について、障害者や高齢者問題、学校現場の問題、ジェンダー問題、貧困問題等の他の問題とも関わる社会の在り方を分析していく必要があるだろう。
注
(1)介入のためには実態把握が必要であり、条例があるところでは調査がなされている。この問題については、②の福祉の側から、個人情報の壁が常に指摘されていたゆえ、介入の根拠を与えつつある。
(2)なお、日本維新の会、みんな、結い、生活の各党は2014年5月16日、自宅の敷地にごみをため込んで近隣住民に迷惑をかける「ごみ屋敷」の解消に向け、地方自治体の首長がこうした住民にごみの撤去を勧告したり、立ち入り調査できるようにする法案を衆院に共同提出していたが、法案成立には至らなかった(日本経済新聞2014.5.16)。
(3)大阪府は、複雑化する福祉の課題に対応するために、全国に先駆けて平成16年から「コミュニティソーシャルワーカー(CWS)」を府下の市町村とともに設置してきた。
京都では、2015年2月8日に、会主催のシンポジウム「『ごみ屋敷問題』とどう向き合うか」を開催し、コミュニティソーシャルワーカーとして知られNHK番組『プロフェッショナル』にも登場(http://www.nhk.or.jp/professional/2014/0707/)した、当時豊中市社会福祉協議会事務局次長勝部麗子氏を招き、地域の観点からさまざまな議論を行っている。
また、NHKでは、2014年4月から毎週火曜日9回で、CSW勝部麗子をモデルとしたTVドラマ番組『サイレント・プア』を放映しており、第1話で「ごみ屋敷」の女性を扱っている。
私 たちの会で、勝部氏をお呼びして報告会を行った中で、勝部氏は、ごみを捨てるに当たり、一つ一つ、捨てていいか相手に聞く、その中でごみはその人の人生の さまざまな記憶を内蔵しており、そのやりとりの中でその人の人生が理解できると語った。古橋が指摘しているように、ゴミについてのコミュニケーションはこ こでは成立可能性を秘めているのである。また、周りは「ごみ屋敷」に困っているが、その人は別のことに困っており、そこに照準化することでコミュニケーションが開けてくることも指摘している。
参考文献
岸恵美子、2012『ルポごみ屋敷に棲む人々』幻冬舎新書
京都文教大学人権委員会 , 京都文教短期大学人権委員会 2012 「ごみ屋敷の住人たち-専門職が地域活動で出会う人々-」『心理社会的支援研究』 2