下山 憲治(名古屋大学)
3 行政法制の拡大
(1)「ゴミ屋敷」問題とその社会化
「ゴミ屋敷」は、「ゴミ」と「屋敷」からなる言葉である。この2つが統合され、周辺地域に居住する住民が問題視することで「ゴミ屋敷」問題が顕在化、社会 的に認知される。「ゴミ」という物、「屋敷」という地域社会に固定して存在する物、そして、それを巡る居住者とその周辺住民という人。「ゴミ屋敷」を巡る 社会的問題への対応では、その構成要素である「物」と「人」を別個に取り扱う傾向もみられる。しかし、その問題を掘り下げて、より根本的な解決を目指すに は、それぞれを関連付けつつ、検討する必要があろう。
また、「ゴミ屋敷」それ自体はおそらく相当以前から存在していたのではないかと推測される。 そうであれば、近年まで、その存在が社会的、法的に対応すべき課題として認知されてこなかったのはなぜか、この点も検討する必要があろう。「ゴミ屋敷」が 放置されたり、無視されるか、仮に「ごみ屋敷」が問題として認識されたとしても、あくまで私的自治の問題、つまり、近隣居住者間の、個人間の紛争で当事者 による解決が重視されたのではないかとの仮説も成り立つだろう。そうであれば、その理由も探究する価値があると思われるからである。
いずれにして も、なぜ、近年になって社会的に(特に都市部で)注目され、しかも、地方自治体において法的に取り組むべき課題として認知され、条例等が制定されてきたの か、また、条例の内容や仕組みなどについて分析する必要が出てこよう。社会的観点は、前述されているので、ここでは、法的観点からの検討にとどめたい。
そこで、以下では、まず、現在の国レベルの法制度とその限界を確認し、条例が制定される必要性があると認識された点を明らかにし、その内容を検討する。
掲載日:2017年1月20日