非常に限られたパワーブックユーザに贈る。
まえがき
今でも熱烈なファンも多いオールドパワーブック。この中でも私が愛用しているのは「マック史上初のカラー液晶搭載ラップトップモデル」そう、PowerBook 165c です。カラーノートを要望するユーザの声に応えて、最初に発表されたのは1993年。ところがその期待とは裏腹に、それまでのTFTグレー液晶と比較して、あまりに遅いSTN液晶にユーザーにそっぽを向かれ、瞬く間に市場から消えていった短命なモデルでもありました。私がこのパワーブックを手にしたのは2000年。製造からすでに7年が経過していました。
当時ようやく個人のホームページを起ち上げ、何かとテキスト入力の作業が増えてきた頃です。テキスト入力に追われると、場所を選ばずに使えるラップトップ機が欲しくなります。しかし、ラップトップは通常、同程度の性能を持つデスクトップ機の五割り増しの価格を必要とするため、間に合わせのつもりで、私はオールドパワーブックを選択することにしました。当然古いマックでは多くは望めません。
これを条件に機種選定を始めると、ちょうど1万円を切る価格で165cが売りに出ていました。その当時の愛機はIIvx。68030+FPUと言う性能。これをノートに詰め込んだのが165c。即決で購入しました。
本題
通常の工業製品と違って、パソコンの場合はまだ使える状態にもかかわらず、新機種導入でお払い箱になるケースが多く、未だに多くのユーザが旧型パソコンを死蔵していることも多いでしょう。特にマックは購入価格が高かったので粗大ごみとなった今でも、なかなか手放せないはずです。そこで、この死蔵のマックをなんとか実用にできないかと各方面で研究がなされています。しかし、165cはプロセッサのアップグレードはできません。せいぜいクロックアップで33MHzを40MHz程度にするくらい。また、数あるUNIX系ソフトは、ネットワークに入ることでその性能が発揮されるといいますが、インターフェイスは通常Ethernetを用いるため、アダプタによるEthernet接続しかできない165cでは断念。 そこで、結局はマックOSで使うことになるわけですが、最適なOSを選定し、インストール後には肥大化したシステムのダイエットが不可欠になってきます。
私は165cを初めから漢字トーク7・5で使い始めたので、漢字トーク7・1での使い勝手は、もともと使っていたIIvxの事でしかわかりません。しかし、7・5になって起動にかかる時間がとても長くなったようです。機能拡張は極力使わない設定にしても、ほとんど変わりません。7・1のすばやい起動がなつかしい… 逆に、7・1ではファインダーフォントにOsakaを選択すると、なぜか表示に手間取り、表示の速い細明朝体を使わざるを得ませんでした。それが7・5では非常に高速で表示されるようになりました。また、インターネットへの接続のためのTCP/IPソフト「MacTCP」がカスタムインストールできるので、モデムを買えばすぐにインターネットが使えるようになりました。7・1のときはこれが入手できずにとても苦労したのを思い出します。(インターネットを使う以前です。もちろん。)
当初の目的であったテキスト入力専用パワーブックとして仕上げることは出来ました。はじめはインターネットの端末として使うことなど考えてもいませんでしので、テキストを打ち込んではフロッピーでデスクトップ機に移動しては、HTMLなどに変換する用途には十分活用できていました。
ところが、インターネット接続が、電話からADSLになってからは、165cの利用頻度はグッと増しました。常時接続であのまどろっこしかったダイアルアップが不要になり、常にブラウザ、ニュースクライアントなどを起動状態で使うことが出来るようになったのです。テキスト中心のメール、ニュースグループなどはソフトウエアさえ間違わなければ2002年現在でも十分実用になることがわかったのです。
ASANTE Micro EN/SC
ADSLはプロバイダによって違うと思いますが、私の契約プロバイダはEthernet接続、DHCPサーバに対応しているのが条件でした。そこで、Ethernet 端子を持たない165cでADSLに接続する方法を考えなくてはいけませんでした。これにはいくつかの方法があります。
私はAsante Micro EN/SCというSCSI─Ethernetの変換アダプタを入手しました。このアダプタのマニュアルにはTCP/IPにも対応してると明記されていましたが、アダプタの発売当時にまだOpenTransport(注1)が開発段階でしたので、DHCPクライアントが使えるかどうかは不明なままでした。とにかくアダプタだけは先に購入して、MacTCP(注2)での接続を試すことにしました。ところがこれは何度やっても使えません。それもそのはず、MacTCPではDHCPサーバからのIP取得が出来ません。できるとすれば、既知のIPアドレスをマニュアル入力して使う方法。しかし、直接IPアドレスを得ている環境と違い、複数の端末をルータを介して接続している私のところでは、この方法も使えませんでした。仕方がないので、OpenTransportをインストールして試すと、これが難なく成功。DHCPサーバからのIP取得が可能となり、ADSLにも接続できたのです。ただ、このEN/SCは現在製造を中止したもので、デッドストック品か、中古で入手するしかありません。特にMicro EN/SCはADBポート(注3)から電源を取る構造になって、パワーブックで使うことを前提に作られた優れものです。古いパワーブックをよみがえらせるためには是非必要ですので、見つけたら、「即ゲット!」です。もちろんEthernetを使ったアップルトークの家庭内LANもインターネットと同時に使えます。(これが本来の使い方)ただしSCSIポートを占有しますのでSCSI外部メディアを接続したい人には×。
参考:OpenTransportは「漢字トーク7・53」(無償配布)以降で使うことが前提となっています。現に、漢字トーク7・53に付属のOpenTransportをカスタムインストールするしかインストールの方法がありません。しかし、漢字トーク7・1上でOpenTransportを使う方法があります。アップル(米国)FTPサイトのデベロップメントツールの中から、OpenTransport 1.1.1(英語版)を入手し、これをインストールすればいいのです。ディスク容量などの問題で漢字トーク7・5は使いたくない場合でもどうにか使えるでしょう。英語版のため「セレクタ」が「Chooser」となるなど、同じファイルが混在してしまいますが、古いファイルを手動で取り除けば問題無いはずです。しかし、漢字トーク7・1上ではファイル転送速度が若干遅いので、ネットワークの能力を100%引き出したいのなら、やはり漢字トーク7・55+OpenTransport 1.12で使うことをおすすめします。
マルチメディア
マックは昔から画像、図形、音声、動画、テキストなどが境目無く使えるマルチメディアパソコンとしての機能が充実してはいるのですが、165cに関しては、音声や、画像は実用的には使えないと割り切った方がいいでしょう。大きなメモリ空間が必要になりますから。簡単なゲームならできると思いますが、動きの速いアクションゲームは×。画面の反応が鈍いですから。やはりテキスト中心の作業が主なものになります。しかし、旧機種の(シリアルポートが使える)デジカメが画像を取り込むのに使ったり、その気になれば、Qカムを使ったウェブカメラを使うこともできるらしいです。もちろんこの場合はクイックタイムを必要とすると思いますが、68kで使えるバージョンはそろそろ入手困難になりつつあります。(ま、これに関してはどのソフトでも言えることですけどね…)
文書作成
165cの主たる用途としてはテキスト中心の文書作成。簡単なビジネス文書は作成から印刷までこなせます。私がたどり着いたソフトウエア構成は、
と、いった感じです。YooEditはスタイルテキストは扱えませんが、インライン入力が高速な上、複数文書検索機能が使えるので愛用しています。NisusCompact(注4)はスタイルテキストを扱え、段組みや、タブ設定、ヘッダ、フッタ、フットノート、ルビ入れなど、簡易ワープロの機能も備えている上に、英文のスペルチェックや、辞典も付属しているのでモノクロ印刷用のビジネス文書を問題なく作れます。
もし、メモリとディスクスペースに余裕があるならば、NISUSのフルバージョンを使うことも出来ます。バージョン4.1.6(英語版)はフリーで使えます。
また簡単なグラフィックはA-Drawでこなせます。これはQuickTime2.5以降を利用する事で、画像の取り込み、JPEG書き出しを行えますので、重宝しています。これで作ったピクト画像を、クリップボード経由でNisusに埋め込めますので、画像の必要な文書もこれらを利用することで仕上げることが出来ます。
プリントにはアップル純正のスタイルライタを使います。これはドライバが軽くて、バックグラウンドでも問題なく動作する上、ネットワークで共有できるので、複数の端末でプリンターを共有したいときには役に立ちます。Epsonのプリンタも所有していますが、解像度が高い関係上、動作が重すぎて実用になりませんでした。
165cユーザーには決しておすすめしませんが、これが68kで使える最後のクイックタイムです。
画像
画像といっても最近主流の「写真画質」の画像はまず扱えません。しかし、30万画素程度のデジカメ画像なら、少ないメモリでも扱えます。そこで私は、古いデジカメを利用して、画像の取り込みを行っています。165cで使えるのは、シリアル経由で画像の取り込みが出来る30万画素程度のものです。
私が愛用しているのは記念すべき最初の普及型デジカメ、
です。このCAM形式のファイルならフロッピーディスクに4、50枚保存できるサイズなので、165cでも十二分に活用することが出来ます。ただ、取り込みソフトが4MBのアプリケーションメモリを使いますので、メモリが少ない場合には他のソフトウエアを終了させなければなりません…
ブラウザ
JavaScriptが動かないけれど、起動と動作が軽く、唯一165c上で実用になるウエブブラウザのInternet Explorer2.1。漢字コードの扱いが甘いことや、フレームの動作にバグがあることなど、不完全な面も数多いものの、他のブラウザよりも優れた面もあります。とにかく動作が速い。これに尽きます。動作を重くするJavaやJavascriptを扱わないためにレイアウトも高速だし、ウインドウをズームしてもリロードする事はありません。直前のページへは一瞬(といっても数秒)にして戻れるのも現行バージョン同様です。しかもネットスケープではバックグラウンドに廻っている時でも、かまわず自動更新ページをリロードして、他のソフトの動作をじゃましますが、Explorerはバックに廻ったときはスタンバイ状態で、決してリロードしません。最前面に呼ばれたときにあらためて読み込むようになっているのです。これは複数の作業をしているときには助かります。たとえば、バックグラウンドでヤフーのニュースサイトを開いて最前面でテキスト入力をしている場合、ネットスケープだと、突然テキスト入力がストップし、「何事?」と思うときがよくありますが、Explorerにはそれがありません。ふと思い出して、Explorerを最前面に持ってくると、あらためて読み込みを始めます。バックグラウンドにあるページをいくら頻繁にリロードしてくれても、結局最前面に持ってこなければ、165cの狭い画面では読めないので意味がありません。もちろん広い画面での作業時にはバックグラウンドの情報が常に更新される方がありがたいのも事実ですが…
ちょっと欲張ってバージョン3にアップグレードしてもいいのですが、私はおすすめしません。JavaScriptをどうしても使わなくてはいけないとか、EUC-JISコードをよく使うひと以外はやめた方がいいでしょう。アプリケーションの使用メモリはほとんど変わりないのですが、SharedLibraryがいくつもインストールされ、システムメモリを圧迫します。しかも、動作も明らかに遅い。もし、メモリに余裕があるならば、NetscapeNavigator3あたりの使用をおすすめします。これもバージョン4.08までは使えますが、実用速度で動くのはバージョン3までです。日本語フォントにバグがあって文字化けする箇所はFontPatchin'で修正できます。
最近この両横綱のほかにiCABという新しいブラウザが人気をよんでいますが、68kマックでは日本語文字コードに問題があるため実用的ではありません。軽くていいんですけどね…
Eメールとニュースクライアント
165cなどの旧式パソコンで今でも実用に耐えるインターネットのメディアとして、Eメール、ニュースグループなど、文字中心の作業だけといってもいいでしょう。しかし、これもソフトウエアの選択を誤ると、全く実用になりません。
Eメールクライアントとしては「Eudora-J」や「Postino Classic」が軽くて実用的です。しかし、私は「Netscape Navigator 3」のメール機能を利用しています。NetscapeメールはEudora-Jと比較すると動作も重く、メモリも大食らいなのですが、我慢するには訳があります。複数の端末から一つのアカウントを操作している私は、メールをサーバに残す設定にしています。Eudoraの場合はローカルで一度読んだメールでも、サーバにメールがある間は新着メールとして何度もダウンロードしてしまうのです。特に常時接続環境で一定時間で新着メールをチェックする設定にしておくと、「受信箱」が同じメールでいっぱいになってしまうのです。(涙)
設定をどうにかすることで回避できるのかもしれませんが、現段階では「Netscape Navigator 3」のメール機能を私はおすすめします。
<追記>「Postino Classic」は複数アカウントが扱える最も軽い68k対応フリーメーラです。開発が終了してしまいましたが、最終バージョンなら上記の問題も起きませんでした。現在ではNN3のメーラーに代わって愛用しています。
ニュースクライアントとしては、「NewsWatcher 2.2.2」にパッチをあてて使っています。(←2002年現在、行方不明。2.16のみ入手可能。)日本語バージョンの「NewsWatcher J」もありますが、ファイルが大きくなるので私は使っていません。もちろん「Netscape Navigator」にもニュース機能がありますが、使い勝手が悪いためこれも使っていません。
FTPクライアント
ホームページを立ち上げるなら、手に入れたいのが「FTPクライアント」ソフトです。
マック愛用者の間でよく使われるFTPクライアントとして「Fetch」が有名です。現在では入手しにくくなりましたが、25ドル(学生や福祉団体での使用でなら無料)で使えるバージョン3.0.3(英語版)が特におすすめです。漢字トーク7・5以降のシステム上でならば、ファイルをダウンロードや、アップロードするのにドラッグ&ドロップするだけで簡単な上、メモリ使用量も比較的少ないので、どこかで見つけたらキープしておきましょう。
シェアウエア(有償)でもかまわないと言う向きには、NetFinder、Anarchy、Interarchyなどがいいでしょう。ちなみに私は165c上でこれらのソフトは使ったことがありませんので、あしからず。
おまけ
バッテリーが1分持たない状態の165cだったのですが、バックアップ電池もが切れるとこれがまた面倒。わたしの165cもその状態に陥り、うっかり電源プラグが抜けたりすると設定を一からやり直さなくてはならない「オニモツ」状態になっていました。しかも、最近になってバッテリーを取り外すとシャットダウンしてしまう奇妙な現象が発生しはじめ、いよいよ「引退」かと諦めかけていました。ところが、いろいろ調べてみると、どうやらマザーボード上のチップヒューズが溶断している症状だということがわかったので、折を見て小改造を行うことにしました。
詳細は以下を参照してください。(あくまでも改造は自己責任で!)
追伸
2003年も終わろうとしていますが、今日現在(12月12日)でも奇蹟的に165cは稼働を続けています。しかも、未だに進化を続けています。今年入手したのは、165cで搭載できる最大容量のメインメモリ。といっても容量は10MB。オンボードメモリと合わせてもたったの14MBにしかなりません。(これまでの合計8MBからわずか6MBの増量です)しかし、このわずかな増量でもオールドパワーブックには効果絶大でした。
それから、165cをモバイルで使うのに必需品の内蔵モデムも増設しました。バッテリが5秒しかもたない状態では意味が無いかもしれませんが、とりあえず外出先でのダイアルアップによるネット接続ができる上、ファックスの送受信がPB単体で行えるようになります。しかも、電話がかかるとスリープから復帰する機能もあります(反応はすこぶる鈍いですが…)ので、たとえモバイル用途でなくてもメリットは大きいのです。