2022-25(第90-92回)

★2025年

■心の科学の基礎論研究会(第92回)

共催:人文死生学研究会(第23回)

人文死生学研究会(第23回)共催:心の科学の基礎論研究会(第92回)

日時:2025年3月22日(土) 午後1時半~5時半

形式:Zoomを利用したオンライン開催

主催者あいさつ pm.1:30-1:35

第1部 司会(浦田悠)

【演者 】大門正幸(中部大学/言語学)1:35-2:35

題目:「私の死」は、「私の誕生」は謎なのだろうか?〜「生まれ変わり」現象・臨死体験を通して考える〜

要旨:本研究会を牽引してこられた渡辺恒夫先生は、「マッハ自画像の実験」や「独我論的体験」から得られる知見、「私の死の謎とその前提としての私の誕生の謎」や「自己の唯一性の自覚と自他の等根源性の要請との間のパラドックス」に関する考察を通して、「世界中の人間は唯一の私の時を超えて転生する姿に他ならない」とする「遍在転生観」を説いてこられた。
 確かにその世界観は「肉体に固定された意識」や「他者の意識との流出入のない隔絶された意識」を前提とした枠組みにおいては整合性を持つものであるが、その前提が崩れた世界においては成立しえない。
 本発表では、過去生記憶を持つとする子どもに代表される「生まれ変わり現象」や臨死体験に関する考察を通して「遍在転生観」が依って立つ前提を覆す経験的証拠があることを示したい。
 これらの現象は、それを報告する者が一定数いるという意味において、その実在性を否定することはできず、現象や体験の現実性に関する議論とは独立した理論的・哲学的考察の結果として「遍在転生観」に対する代案を提出する根拠となりうる。しかし、これらの現象はその実在性のみならず、現実性を持つものである点は死生学という観点からも重要な事実であると思われる。
 たとえば、臨死体験において、医学的には死を迎えた人物が上から自らの肉体や周りの状況を観察していたことを証言し、その内容が細部に至るまで事実と合致していたという報告は、「肉体に固定された意識」という前提に疑義を呈するものである。過去生記憶を持つ子どもが過去生での死を迎えた後の葬儀の様子や、その後、生まれるまでの様子を正確に描写するという事実も、同じ問題を投げかける。

質疑応答2:35-3:05

【休憩】3:05-3:20

第2部 人文死生学研究会の現段階 司会(新山喜嗣)

【演者1 】渡辺恒夫(東邦大学/心理学・現象学)

題目:異世界転生する不適切な方法 3:20-3:50

要旨:この数年、アニメ・ライトノベルなどでは異世界転生というテーマが流行している。ここでは主要作品を取り上げ、異世界転生という死生観にどのような仕組みと原理が想定されているかを、平田篤胤の「勝五郎再生再生記聞」やスチーヴンソンの「性別違和の東南アジア流解釈」等の古典的研究と照らし合わせて分析した。結果は、輪廻転生など正統的転生観に基づく作品は意外に少なく、平田篤胤的な女神の恩寵などによる「例外・特典としての転生」が多数派であり、他者の身体に乗り移るという「憑依としての疑似転生」もかなり見られた。正統的転生観が少なかった理由としては、現代人にとって信じるのが困難であることが指摘され、世界でも珍しい異世界転生文化を発展させるためには、転生の理論的実証的研究を推進することが必要であることが説かれた。本発表は、『こころの科学とエピステモロジー』の映像メディア部門のために予定している評論が元になっている。

【演者2】浦田悠(大阪大学/心理学)

題目:死生心理学と人文死生学の交差点 4:00-4:30

要旨:超高齢化や生殖医療の発展、高い自殺率などの現代社会の諸問題を背景に、死への態度や死にゆく過程、死別に伴う悲嘆などに関する心理学的な研究が蓄積されており、このような研究領域は死生心理学(Psychology of death and life)と呼ばれることがある。筆者は、死に対する態度や人生の意味等、死生心理学の周辺領域での研究に関与してきた。一方で、『人文死生学宣言』に所収の論考にあるように、「私の死」そのものをまさに当事者として深く探究しようとする人文死生学にも常々関心を寄せてきた。死生心理学において、いかに私の死そのものを探究することができるのかについては、筆者はいまだ答えを見いだせていないものの、本発表では、死生心理学と人文死生学で扱うテーマの違いや交差する点にも注目しつつ、死生心理学における研究の現状を紹介し、将来の研究の可能性を展望したい。

第2部質疑応答+総合討論 4:30-5:00

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申込方法  下記の人文死生学研究会HPからお申し込みください。

https://sites.google.com/view/thanatology-as-humanities#h.i80jfvc9uq2 

申込締切:3/19(水)

※申込みいただいた方は、3/20(木)までに、人文死生学研究会事務局

thanatology.as.humanities[at]gmail.com([at]を@に)

より、オンライン参加のための情報をお送りします(担当:浦田悠)。

問い合わせは上記メルアドまで。

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★2024年

心の科学の基礎論研究会 (第91回)
 共催:人文死生学研究会(第22回)

●日時:2024年3月23日(土) 午後1時半~5時半

●形式:Zoomを利用したオンライン開催

・Zoomホスト浦田悠

・司会:渡辺恒夫(東邦大学/心理学・現象学)・浦田悠(大阪大学/死生心理学)

●プログラム第1部:合評会「特集人文死生学」1:35pm~3:15pm

オンラインジャーナル『こころの科学とエピステモロジー』

https://sites.google.com/site/epistemologymindscience/ Vol.5(2023)「特集人文死生学」(原著論文「「なぜ私が死ななくてはならないのですか?」:科学としての医療が崩れるとき」、最近研究事情瞥見「反出生主義の精緻化と〈生まれてこない方がよかった〉という嘆きのケアを考える」など6篇)の合評会

・担当1 榛葉豊(元静岡理工科大学/理論物理学)

・担当2 小島和男(学習院大学/哲学)

●プログラム第2部:講演+討論 3:30pm~5:30pm

・演者:冲永隆子(帝京大学/生命倫理学)

・題目:「終末期の意思決定と尊厳死をめぐる諸問題」

・要旨: 私が終末期の事前指示や意思決定支援についての研究を30年余り進めてきた中で(拙書『終末期の意思決定 コロナ禍の人生会議に向けて』晃洋書房2022 http://www.koyoshobo.co.jp/book/b605013.html)わかったことがある。それは、私たちが人生最期に何を望んで何を拒むのか、複数ある選択肢の中からどれか一つを決めること、尊厳ある安らかな最期を迎えるにはどうしたら良いのか、一つの答えを出すのは容易ではなく、むしろ答えが出ないというのが正解のようだ。

ここ最近、医学哲学、生命倫理関連の所属学会・研究会で複数の研究協力者との哲学対話を経て「正解がないこと」や「ネガティブケイパビリティ―」(帚木蓬生)、つまり、答えの出ない事態に耐える力、徹底的に議論し思考することの大切さを痛感してきた。今回は、一般的にはまだ馴染みのないACP(人生会議)議論の一歩手前の、「尊厳死」や死の自己決定をめぐる諸問題について、参加者と共に考えたい。

なお、ACPは万が一の時、どんな医療やケアを受けたいか、受けたくないかを当事者がその家族と医療関係者らと繰り返し話し合っておくことであり、直接、延命医療の差し控えや中止、尊厳死の意思を表明するものではない。ACPはACP反対派がその根拠としている「ACP=死に方会議」でも、死への誘導、尊厳死の勧めでもない。とくに高齢者で問題とされる過剰医療への苦悩からの脱却として、医療選択や尊厳死(平穏死)がある。もっと言えば、高齢者への医療措置と難病や障碍者への医療措置の議論とは分けて考えないといけない。つまり、高齢者の胃瘻とALS患者の呼吸器の違いについて、高齢者は生物学的にみても寿命を生き尽くして、終末に差し掛かった状況であり、医療措置がかえって本人を苦しめたり尊厳を損ねたりする場合があるのに対し、難病や障碍をもった人たちは「終末期とはいえない状況なので、彼らにとって人工呼吸器や胃瘻の装着は生きる道具として活用されるものだからである」(拙書81頁)。さらに、当日は患者の意思確認の課題として2019年3月「死の誘導」報道で物議を醸した、腎臓病患者(44歳女性)の透析中止問題(拙書191頁)を事例に皆さんと検討していきたい。

●申込方法:だれでも申し込めます。参加無料。下記の申込フォームから申し込んで下さい(人文死生学研究会HPにも同じフォームがあります)。←終了

・申込フォーム:https://forms.gle/3AZEP7w88PKrJPLWA 

・申込締切:3/21(木)

 ※申込者には3/22(金)までにzoom情報が送られます。

●人文死生学研究会HP https://sites.google.com/view/thanatology-as-humanities 



★2022年

心の科学の基礎論研究会 (第90回)
 共催:心理学史研究会  

●日時:2022年11月26日(土) 13:30~17:30

●場所:Zoom開催 下記のフォームから参加ご登録ください(参加資格は特になし)。

参加登録フォーム:https://forms.gle/vKvgyjasyuP9FSGTA 

●プログラム:

・13:30-13:40

「こころの科学とエピステモロジー奨励賞」授賞式(司会:渡辺恒夫/東邦大学)

受賞作:黄信者著「Indigenous psychologyの視座からみる大正期の雑誌『変態心理』」『こころの科学とエピステモロジー』Vol. 4(1), 18-32, 2022. doi.org/10.50882/epstemindsci.4.1_18 
賞の詳細→https://sites.google.com/site/epistemologymindscience/awards?authuser=0 

・13:40-15:30 

受賞記念講演(黄信者 立命館大学大学院)

タイトル: もう一つの心理学:Indigenous psychology

要旨:
心理学史家のカート・ダンジガー氏(Kurt Danziger)は、インドネシアの大学で心理学(Psychology)の講義を教授している時、もう一つの心理学授業を発見した。それは、ヒンズー教の哲学や思想に依拠して、人間の「こころ」を解釈する講義である。ダンジガーは、近代心理学以外にも「心理学」が存在することに驚かされた。それに対して、中医学(東洋医学)の専門的に学んだ私も、「心理学」を大学で専攻した後、常に違和感を抱いたことが覚えている。なぜ、昔の大学で勉強した「こころ」についての「東洋的」な考え方は、「心理学」という分野で全く言及されてないのか。そのような疑問をもって、ゼミでの発表で、指導教官のサトウ先生から、Indigenous Psychology(IP)という概念が紹介され、卒論研究と修論研究で、日本の「Indigenous psychology」をテーマに研究してきた。
 本発表では、まず『心理研究』、『日本心理学雑誌』、『心理学研究』という3つの雑誌を中心に分析する卒論研究、今回の投稿論文―『変態心理』を中心に分析する研究(修論研究)、そして、その延長線として行われた感覚・情動(affect)的経験を着目する「気」や「気功」に関する博論研究を簡単に紹介したい。卒論・修論研究の段階では、心理学史の視座を用いて、日本における心理学の草創期の学術雑誌に現在のIPで言う「土着の概念・知識」と関わる文献を抽出して分析を行い、今ではほとんど見えない、日本心理学草創期における「土着の概念・知識」に対する心理学的研究を概観した。また、現在IPの視座を取り入れながら、その時期で行われた研究への理解を深めると同時に、IP研究への啓示についても検討した。一方、博論研究では、社会・文化人類学のアプローチで、土着的概念として「気」、と土着的(精神・心理)治療実践として「気功」を研究対象として、実際に中国と日本の気功現場に赴いて、民族誌的記述と分析を行った。
 これまでの研究を紹介した上で、再びIP研究をめぐる問題点や、査読者先生や「選評」で指摘してくださった「主体変様認識」と「身体化」の問題について議論を進めたい。

 ・15:45-17:30

 指定討論1  サトウタツヤ(立命館大学/心理学)

 指定討論2 溝口元(立正大学/科学史)

 総合討論