2016

第78回研究会

日時:2016/12/3(土) 午後1:30~5:30(午後1時開場)

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟2階 第8会議室

(趣旨)本研究会の発起人の一人である高橋澪子氏の著書『心の科学史』は、 1999年に東北大学出版会から刊行されてのち絶版になっていましたが、 このほど講談社学術文庫版 として復刊されましたので出版記念の合評会を開催します。

(司会)渡辺恒夫(東邦大学/明治大学、心理学)

【書評担当1】渡邊芳之(帯広畜産大学、心理学)

【要 旨】本書は科学的な心理学の現在につながる歴史の中から「前近代のヨーロッパにおける プシュケー論とプネウマ論の変遷」と「十九世紀ドイツの科学思想とヴント心理学の論理」の 2つのテーマを取り上げて詳細に分析した大著であり,他に類を見ない偉大な業績と言える。 しかし評者はそうした「本論」よりむしろ「序説」や「補説」,あるいは(本論を超えるボリュームを持つ) 脚注の中にやや断片的に述べられた著者の心理学史研究への私見,心理学史観,心理学観,研究観, また心理学者としての人生観に興味をひかれ,強い感銘を受けた。発表では 著者の考えが最も直截に述べられた「序説」を中心にそうした著者の観点をいくつかの主題から整理する とともに,それらと特にこの本が書かれて以降の心理学史研究との関係について考えたいと思う。

【指定討論】溝口元(立正大学、科学史)

【書評担当2】溝口元(立正大学、科学史)

【要 旨】『○○の科学史』と題する著作には、しばしば“古代から現代まで”といった副題がつく。 実際、旧版が刊行された1999年には『光合成と呼吸の科学史 古代から現代まで』があり、 今回の学術文庫版が出版された今年は『心臓の科学史 古代の「発見」から現代の最新医療まで』が 出版された。しかるに本書の副題は“西洋心理学の源流と実験心理学の誕生”なのである。 ピンポイントで心理学の源流とエポックを扱う本書は、心理学における歴史の“通時性”を考えさせてくれる。 また、アリストテレス自然学、霊魂論の正確な理解と展開という逃げ出したくなるような課題、 通常、心理学史ではあっさり実験心理学の祖といってしまうヴントの分析から、心理学は哲学よりも 生理学からの独立であるという大変エキサイティングな捉え方も話題になろう。さらに、一体、 誰を読者対象としているのだろうかという素朴な疑問や 清涼剤としての著者の回想録あたりもネタにしたところである。

【指定討論】渡邊芳之(帯広畜産大学、心理学)

第77回研究会

第75回に引き続き、第77回研究会もエンボディード・アプローチ研究会(第5回)との合同研究会になります。

日時:2016/7/30(土) 14:00~17:30

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟2階 第8会議室

ワークショップ「人間科学と現象学――他者の経験にアプローチする」

【趣旨】質的方法にもとづく人間科学は、たとえば患者の苦しみや生徒の学びのように、 人々の生きられる経験を理解しようとしてきました。そこでは、研究参加者への インタビューを通じて得られる経験の記述とナラティヴが、データとして重視されます。 一方、質的研究の基礎となる現象学では、経験主体に与えられる通りに、一人称の パースペクティヴに沿って経験の意味と構造を理解することが強調されます。では、 質的研究において、参加者の生きられる経験を理解するとはどういうことを意味する のでしょうか。研究者にとって参加者は他者であり、同じ一人称のパースペクティヴを 持つ人ではありません。データとして利用される「経験の記述」や「ナラティヴ」は、 本当に参加者の経験を代弁しているのでしょうか。それとも、インタビューに 立ち会った研究者の視点を表現しているのでしょうか。あるいは、インタビューは 対話であって、参加者と研究者の協働によるものなのでしょうか。このワークショップ では、経験の記述やナラティヴに含まれるパースペクティヴの問題に焦点を当て、 人間科学と現象学の関係を問い直します。哲学、心理、教育、ソーシャルワークの 関連領域から話題提供を予定しています。人間科学のさまざまな分野で質的研究を 行っている研究者や大学院生を対象としていますが、どなたでも参加できます。

【使用言語】英語,日本語

<プログラム>

14:00-14:10 イントロダクション(司会:田中彰吾)

14:10-14:40 マーク・アップルバウム(セイブルック大学)

「現象学的心理学研究における志向性とナラティヴ性」

14:40-15:10 植田嘉好子(川崎医療福祉大学)

「対人支援研究における現象学的理解の意義と過程」

15:10-15:40 ディスカッション1

15:40-16:00 休憩

16:00-16:30 スージー・フェラレロ(サンフランシスコ大学)

「倫理的なものとしての自己性の構成――現象学的な見方」

16:30-17:00 能智正博(東京大学)

「スナップショットを通じての他者経験へのアプローチ――重度言語障害者の自己語りを探求する」

17:00-17:30 ディスカッション2

エンボディード・アプローチ研究会

第76回研究会

第74回に引き続き、第76回研究会も人文死生学研究会(第14回)との合同研究会になります。

日時:2016/3/27(日) 午後1:30~6:00(午後1時開場)

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟2階 第8会議室

(内容)

1 死後の非在と生誕前の非在を較べることは可能か~時間と世界の形而上学からの検討

【話題提供】新山嘉嗣(秋田大学)

【発表要旨】 かつてルクレティウスは、われわれは生誕前にも永遠の非在があったのにそれに 恐怖をもつものはいないのだから、死後の永遠の非在も同様に恐怖に足るものではな いと唱えた。しかし、現代の論者達はこの「ルクレティウスの対称説」にそろって異 を唱え、両方の非在は非対称であり死後にのみわれわれにとっての害悪は発生すると した。今回の発表では、仮にわれわれが二つの非在に対して非対称を支持しているの だとすれば、時間や世界に関わる形而上学についてはどのような立場をとっているこ とになるかを明確にしたい。すなわち、英米圏の現代時間論と可能世界意味論におけ る諸説に照らして、非対称とする立場はどのような主張をしているのかを見てゆきた い。そして、発表の最終的な到達点では、そこにおいて非対称性の根拠が示されるの ではなく、対称や非対称を問うことの困難が示される予定である。

2 生物進化・文化進化のカオス性と人間原理

【話題提供】蛭川 立(明治大学)

【発表要旨】 人間原理についての科学の側からの考察は、もっぱら物理学や天文学の分野で行わ れており、生物学や人類学の知見は軽視されてきた。物理定数が生命の存在に好適な ように「微調整」されているということから「強い人間原理」に議論を進めるのは飛 躍である。進化のプロセスはカオス的であり、進化生物学の知見は、単純な生物から 人間のような「知的な」生物が進化するのは場当たり的なプロセスだったことを示し ており、また文化人類学の知見は、知的な人間が必ずしも天文学的宇宙論に関心を持 つとはかぎらないことを示している。この宇宙とは別の宇宙は観測不能かもしれない が、系外惑星の発見が今では当たり前であるように、いずれは地球外生命も当たり前 のように研究されるようになり、宇宙は微生物とその化石に満ち溢れていることが明 からになれば、自己言及的な観測者が進化する必然性のなさが改めて認識されるだろ う。それまでは、オーストラリアのような、地理的に隔離された大陸で起こった進化 のプロセスが地球外進化の近似的なモデルになる。以上の議論を踏まえれば、むしろ 「弱い人間原理」、つまるところ観測選択効果で話を収めるのが穏当な結論であろ う。

(参加資格)趣旨に関心のある方は、どなたでも参加できます。

(世話人・代表)三浦俊彦

(世話人)渡辺恒夫

(世話人)蛭川 立

(世話人・事務局)重久俊夫 ts-mh-shimakaze[アットマーク]yacht.ocn.ne.jp