2012

第67回研究会

日時:2012/10/13(土) 1:30~5:30

場所:明治大学 駿河台キャンパス リバティタワー6階 1064教室

(話題提供1)山田健二(北見工業大学・倫理学、科学哲学)

【タイトル】ジェームズはどこまで心霊主義に近づいたか

【要旨】19世紀末、英米で流行していた心霊学に、ウィリアム・ジェームズもまた強い 関心をもち、一時は英国心霊協会の会長職も務めていたという事実は、いまとな ってはジェームズ哲学の一つのスキャンダルであるともいえる。とはいえ、ジェ ームズ自身はその事実を隠すどころか、心霊協会向けのみならず、一般聴衆向け に公然と、また積極的に、心霊学の意義や成果を紹介したし、反心霊学者があび せる激しい批判に、一般雑誌上で何度も果敢に反論してもいた。実際、心霊学へ の言及は『宗教的経験の諸相』はもちろん、『プラグマティズム』や『根本的経 験論』といったジェームズ哲学の根幹をなす著書においても、重要な局面で繰り 返し登場している。そうだとすると、心霊学とジェームズ哲学とがどの程度関係 しているのか、当然問われるべきである。ジェームズは心霊主義にどこまで近づ いたのか、あるいは、ジェームズ哲学は心霊主義をどの程度うちに含むものなの か。ジェームズ哲学の全体像を把握するためには、我々はこれらの問いに尻込み するべきではない。

【指定討論】石川幹人(明治大学・認知科学)

(話題提供2)小笠原 義仁(早稲田大学・数理科学)

【タイトル】Primitive Chaosからの探求

【要旨】講演者によって提案されているPrimitive Chaosと呼ばれる概念は、決定論、因果 律、自由意志、不可逆性の問題に関連する興味深いものである。そして、この Primitive Chaosをトポロジカルな観点から探求する事により、nondegenerate Peano continuumとCantor setの概念が現れてくる様子を見る事が出来る。これは、階層構 造、粗視化、自己相似性、論理といった概念が現れてくる事を意味する。

[参考文献]

    • Y. Ogasawara: Sufficient Conditions for the Existence of a Primitive Chaotic Behavior, Journal of the Physical Society of Japan 79 (2010) 15002.
    • Y. Ogasawara and S. Oishi: Addendum to “Sufficient Conditions for the Existence of a Primitive Chaotic Behavior”, Journal of the Physical Society of Japan 80 (2011) 67002.
    • Y. Ogasawara and S. Oishi: Consideration of a Primitive Chaos Journal of the Physical Society of Japan 81 (2012) 103001.
    • Y. Ogasawara, S. Oishi: Space guaranteeing a primitive chaotic behavior, arXiv:1203.0087v1.
    • 小笠原義仁「ものの見方としての位相空間論入門」培風館, 2011.

【指定討論】渡辺 恒夫(東邦大学/明治大学・心理学))、田中彰吾(東海大学・心理学)

第66回研究会

日時:2012/7/7(土) 1:30~5:45

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟3階 第10会議室

(話題提供1)杉尾 一(慶應義塾大学・科学哲学)

【タイトル】時間対称化された量子力学と認識論的弱値

【要旨】コペンハーゲン解釈は、重ね合わせの状態における実在(物理量が値をもつこと)について考えることを禁じてきた。 しかし、近年になり『弱測定』という状態の収縮を起こさない新たな測定法が可能となったことで、重ね合わせの状態 における真値の存在についての哲学的議論が再燃している。さらに、ハイゼンベルクの不等式を書き換えた小澤の 不等式が実験的に検証されたことによって、議論はさらに盛り上がりを見せている。なぜならば、小澤の不等式に 表れる誤差の定義は、物理量の真値と測定値の差の二乗平均と定義されているためだ。アインシュタインが信じたように、 測定以前から物理量は値をもつのだろうか。

コッヘン-シュペッカーの定理は、全ての物理量が確定値をもつことを禁じている。しかし、これによって真値の存在が 完全に否定されるわけではない。全ての物理量が値をもつことができなくても、一部の物理量が値をもつことは許されている。 そこで、もし真値があるならば、真値をもつような物理量がどのようしてに決まるのかということが問題となる。さらに、 真値の具体的数値を、我々がどのようしてに知ることができるのかということもまた問題となる。

本発表では、『時間対称化された量子力学』という新たな量子力学の形式を紹介しながら、弱測定について解説する。 そして、物理量・値・測定といった物理学における基本概念を分析する。これにより、物理学における認識論的側面を 浮き彫りにし、量子力学に内在する認識論的問題について考える。そして、重ね合わせの状態おける物理量の真値を 『認識論的真値』とする新しい解釈を提案する。

【指定討論】森田 邦久(早稲田大学・科学哲学)

(話題提供2)多屋 頼典(岡山大学・心理学)

【タイトル】「こころ」の居場所の歴史

【要旨】「こころ」は一体どこにいるのか、という問に対して、古代ギリシャから中世にかけての時代には「脳室の何処か」だと 考えられてきたようだ。中世になってからもアウグスティヌスなどの有名な僧も脳室に言及している。こころは身体の何処か にいるはずで、その有力候補が脳室だと考えられてきたらしい。

日本での解剖は前野良沢・杉田玄白たちが解体新書の内容を確認しようとして行ったものが最初で、ようやく1771年の ことであったが、「こころ」の居場所は特に問題になっておらず、解剖する目的も西洋の場合と全く違っていた。

【指定討論】渡辺 恒夫(東邦大学/明治大学・心理学)

第65回研究会

第62回に引き続き、第65回研究会も人文死生学研究会(第10回)との合同研究会になります。

日時:2012/3/31(土) 1:30~5:45

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟3階 第10会議室

(趣旨)かって死はタブーでしたが、近年は死生学の研究も盛んになっており、その多くは臨床死生学です。しかし、自分自身の死についての洞察が臨床死生学の基礎には必要と思われます。人文死生学研究会は、そうした一人称の死に焦点を当て、哲学、倫理学、宗教学、心理学、人類学、精神医学から宇宙論にまで及ぶ、学際的な思索と研究の場として発足しました。今回で十回目になりますが、これまで「刹那滅」「輪廻転生」「死の非在証明」「人間原理」などがテーマとして取り上げられました。今年は、心理学からの問題提起として独我論を取り上げ、合わせて、哲学史における時間と自我の理解を回顧します。

(内容)

1 独我論への/独我論からの現象学と心理学

渡辺恒夫 (東邦大学、心理学)

1時30分から

(発表要旨)

独我論への現象学と心理学とは、私が、元来は独我論的世界に誕生したことを発見するにいたるまでの、時間を遡る経験的探求である。最初この探求は、自我体験、独我論的体験の心理学として、質的心理学であっても現象学的とはいえない方法でなされてきたのだった。そのうち、Blankenburg、木村敏、Spiegelbergら、現象学(的精神医学)にヒントを得て、現象学的心理学としてやり直し、発達性エポケーのアイディアを掴むに至った(Watanabe, 2011;渡辺、印刷中)。Blankenburg の患者でもなく自閉症スペクトラムでもない「定型発達」途上の子どもでも、自然発生的な現象学的還元によってフッサール世界へと「第二の誕生」を遂げることがありうるのだ。この探求の道筋が第一部をなす。

独我論からの現象学と心理学とは、自明性の世界のただなかに、自明性の世界に裂け目を入れながら私が第二の誕生を遂げてからの、「可能な」物語である。現象学的反省によっては決して「構成」されえないという意味で、私の絶対に理解できない自明性の世界、相互主観性の世界を、いかにして、納得しうる世界として再構成してきたか。そして将来もどのような再構成の可能性が展望されるかの、現象学的解明である。そのような再構成の企てを「現象学的反抗」と呼ぼう。その結果、構成されうる世界観・死生観として、純粋独我論の他に、キリスト教的化身教義、プロチノス的「一者」、転生輪廻などが、神秘主義という扱いとは異なる現象学的観点から分析されるだろう。

2 「自己」と「時間」の解釈をめぐる哲学思想の再検討

~西田哲学の場合~

重久俊夫 (西田哲学研究会、西洋史・哲学)

3時45分ごろから

(発表要旨)

西田幾多郎(1870~1945)の哲学は、往々にして禅仏教と結び付けられ、神秘的なイメージで語られやすい。しかしその実態は、古今東西の古典哲学を再構成し、20世紀的な合理性のもとに体系化したものであり、扱われるテーマの広さと、論理への徹底したこだわりが特徴である。今回の話題提供では、西田哲学(特に後期)の全貌を紹介しつつ、本研究会の趣旨とも関係の深い「自己」と「時間」を中心にして、思想の基本構造を解明する。

今日、哲学に関心を持つ研究者や読書人の間で、西田哲学(あるいは古典哲学)と英米系現代哲学とは、二つの流行をなしている。しかし、これらは互いに背中合わせに無視し合っているのが現状である。だが、いずれも「現役」の哲学である以上、両者の論点を突き合わせ、架橋することは今後の重要な課題である。その点で、20世紀の数学や自然科学にも造詣が深く、英米哲学にも関心の強かった西田の思想は、またとない「たたき台」になることが期待される。

指定討論者 三浦俊彦 (和洋女子大学、哲学)

人文死生学研究会のテーマに関連する討論については、以下のHPで読むことができます。

http://homepage1.nifty.com/t-watanabe/academic_meeting_4.htm