2013

第69回研究会

日時:2013/10/5(土) 1:30~5:45

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟4階 第2会議室

第1部 『フッサール心理学宣言:他者の自明性のひび割れる時代に』(渡辺恒夫著、講談社、2013)の合評会

【話題提供(評者)】村田憲郎(東海大学、哲学/現象学)

【題】私の視野における私の身体の居合わせについて

【要旨】

本書『フッサール心理学宣言』では、著者が集めた豊富な事例をもとに、独我論的体験・自我体験等々といった心理学的体験が、フッサールの現象学上の用語や著者独自の方法論をつかって明確化された上で、これらが「定型発達」の中でも生じうるとされ、最終的には壮大な、魂の形而上学とでも言うべき世界観が描かれる。これらの体験は印象深く、形而上学的にも大変興味深いが、これらはやはり、フッサールが記述しようとした経験の一般的構造からは外れる特殊な体験であるように思われる。評者はこの相違をできるだけ本書とフッサールに即して明確化したい。特に問題にしたいのは以下の二点である。

1.マッハの自画像と、現象学的還元後に見えてくる現象野との相違。この絵が誤解を招くものである理由の一つは、フッサールの事物知覚理論において言われる、事物の見えない側面もまたある別の意味では見えている、という論点を忘れがちになるということである。ところで見えない側面が見えているということは、潜在的他者の視線がすでに私の知覚野のうちに含まれているということである。

2.ハーディング「頭のない私」の事例と、『第五省察』での固有領分への還元。本書では、マッハの自画像を敷衍するような形で「頭のない私」という特異な自己観が説得的に語られる。ところで通常私たちがそういう自己観をもたないのは、やはり私たちの知覚意識には(さらには想起・予期・想像意識等でも)、私自身の身体像がいくぶん随伴しており、それが暗黙裏に参照されることで、頭を備えた人間としての私自身を自明なものとして受け容れているからだろう。それを可能にするのは、上と同様、潜在的他者の視線であるように思われる。ではフッサールの言うような固有領分への還元は、本当に「頭のない私」のようなものを出現させるのか、そしてそれは本当に感情移入する「唯一の自我」の条件になるのか?

【指定討論】渡辺恒夫

第2部 『ウィトゲンシュタインvs.チューリング:計算・AI・ロボットの哲学』(水本正晴著、勁草書房、2012)の合評会

【話題提供(評者)】三浦俊彦(和洋女子大学、論理学/美学)

【題】計算は実験か――CTテーゼの理論的位置づけをめぐって

【要旨】

チューリングによる「決定問題の否定的解決」の根底にあるCTテーゼを、数学的にどう位置づけ、意義づけるべきか、が本書の主題となっている。計算についてウィトゲンシュタインが提起した問題意識をもとに本書で定式化されている「不一致論法」「矛盾論法」「志向性論法」「破壊的選言」等を吟味し、その含意と妥当性を、他の分野との類比(経験科学における非決定論的世界観など)を視野に入れながら論ずる。とくに、計算は実験の一種ではない、というウィトゲンシュタインの見解を受けて、計算と実験の相違なるものが論理的・方法論的にどれほど有意義なのかを議論の主目標とし、その議論にとって「志向性」がいかなる役割を演じるのか、演ずるべきなのかについて、諸見解をまとめられたらと思う。「計算」と「実験」を比較する過程で、関連する他の諸概念、たとえば「シミュレーション」「思考実験」「仮説検定」「フィクション」といった一連の世界制作行為との比較に広げながら、改めて計算と実験について著者の見解を質し、諸概念の常識的な区別がCTテーゼの性格づけ(仮説か、定義か、概念分析か……)にどう光を当てるかを確認したい。

【指定討論】水本正晴

第68回研究会

第65回に引き続き、第68回研究会も人文死生学研究会(第11回)との合同研究会になります。

日時:2013/3/23(土) 1:30~5:45

場所:明治大学 駿河台キャンパス 研究棟3階 第10会議室

(趣旨)かって死はタブーでしたが、近年は死生学の研究も盛んになっており、その多くは臨床死生学です。しかし、自分自身の死についての洞察が臨床死生学の基礎には必要と思われます。人文死生学研究会は、そうした一人称の死に焦点を当て、哲学、倫理学、宗教学、心理学、人類学、精神医学から宇宙論にまで及ぶ、学際的な思索と研究の場として発足しました。今年で11回目になりますが、これまで「刹那滅」「輪廻転生」「死の非在証明」「人間原理」などがテーマとして取り上げられました。

今年は、昨年出版された『仏教心理学キーワード事典』に関して、編者を迎えて合評会を行います。

(内容)『仏教心理学キーワード事典』(井上ウィマラ・加藤博己・葛西賢太編、春秋社)合評会

1 渡辺恒夫(明治大学/東邦大学): 司会者挨拶

2 葛西賢太(宗教情報センター): 編者を代表して、事典編纂の趣旨など。

3 蛭川立(明治大学): 『トランスパーソナル心理学/精神医学誌』書評に書いた件などについての批判。

4 加藤博己(駒澤大学)・葛西賢太(宗教情報センター):批判に対する回答。

5 岩崎美香(明治大学): 臨死体験研究などの視点からの感想。

6 葛西賢太(宗教情報センター): 岩崎発表へのコメント。

7 加藤博己(駒澤大学): 最後に編者からの回答。

8 全員: 全体討論。

(参加資格)趣旨に関心のある方は、どなたでも参加できます。

(世話人・代表)三浦俊彦

(世話人)渡辺恒夫

(世話人)蛭川 立

(世話人・事務局)重久俊夫 ts-mh-shimakaze[アットマーク]yacht.ocn.ne.jp

なお、本会のテーマに関する討論については、以下のHPで読むことができます。

http://homepage1.nifty.com/t-watanabe/academic_meeting_4.htm