第十一回:神田祭附け祭つくりものプロジェクト振り返り 記録と保存と振り返りのテクノロジー
0.文テクの場
第十一回文テクは、つくりもワークショップが行われた東京大学文学部で開催された。
5月の神田祭に参加した総勢100名超の学会関係者からすると少数だが、実際につくりものをつくった会員を中心に、10名を超える参加者が集まった。神田明神からは清水権宮司、つくりものの基本設計を担った東京藝術大学荒井研究室からは向井大祐さんも参加してくれた。
1.三つのキーワード
この分野で最古の現役技術は?
=筆と紙による附け祭りの記録「神田明神祭礼絵巻」
今回のつくりものの発想源の一つ「神田明神祭礼絵巻」文久三年(1863)本
この分野で最新の技術は?
=情報学の成果「MIMA Search」を利用したテキスト解析による振り返り
MIMA Searchによって解析された準備段階のテキスト
この分野でもっとも○○な技術は?=「魅力的だが手強い技術」
=「ことば」と「もの」を繋ぐテクノロジー
現状の情報学のユーザーとして、これまでの流れの形が示される魅力を感じる一方で、つくりものの準備から祭当日までの熱気をそのまま形にするにはまだ至っていないと感じる。一方で、3D技術を活用したつくりものは、「ことば」と「もの」を繋ぐ新しい回路の始まりを感じさせてくれた。
2.研究会概要
A.「企画者によるモニタリング紹介」(鈴木親彦)
B.「参加者によるディスカッション」(進行:中村雄祐、記録:鈴木親彦)
A.「企画者によるモニタリング紹介」(鈴木親彦:文化資源学研究室、文テク共同企画者)
2015年の神田祭附け祭りに際して、文テクのワークショップということで海の幸の「つくりもの」を学会員の皆さんと一緒につくり、浦島太郎の行列に参加した。私自身は祭り当日花咲か爺さんの「殿様」になっていたので、当日だけはつくりものはんではなかったのだが(笑)。祭に際しては、準備をして参加することが大事であり、何よりも楽しいことである。一方で学会のイベントとであることを考えても、また研究者の役割を考えても、祭の記録、特に準備過程の記録を残すことも重要である。現在まで残っている江戸時代の準備の記録は、当時の状況を知る貴重な史料である。同じように、我々が何を考え何をしてきたかの記録は、祭を考える重要な情報になるはずである。
今回は、祭の記録とその振り返りを、情報学のテクノロジーを応用して行う事例について紹介する(2015年7月21日に可視化情報学会で発表した内容である)。まず今回の附け祭りのつくりもの作成の流れを示す。続いて準備中に交わされたメールや議事録、終了後の感想などのテキストを、東京大学知の構造化センターで開発されたテキスト解析システムMIMA Searchによって分析した結果を示す。
(※詳細は以下のパワーポイントを参照)
当日利用したスライド「3Dプリンティングによる「つくりもの」とテキストマイニングを活用した神田祭附け祭復元プロジェクトの可視化」
※埋め込みスライドが表示されない場合こちらをクリックしてSlideshareから閲覧下さい。
B.「参加者によるディスカッション」
文テク企画者が行っている、テクノロジーを使った振り返りの試みについて説明が行われた後、参加者によって今回の反省と今後の展望に関するディスカッションが行われた。意見の全てを詳しく紹介することはできないので、印象に残った意見を以下に列挙してみた。
・3Dプリントから始まり、最終的に「ハリボテ」に回帰したのは、伝統と最新技術の融合で非常に良い動き
・神田明神としては、今後何をしたらいいのか、学会の皆に案を教えて欲しい
-二年後は何をやるか?どうやってやるか?について
・今回のやり方を「神田祭モデル」として各地に展開するという方向もあり得る
- 町おこし村おこしへ、また学校での活用
-一方で全国の神社の窮乏、祭の衰退がある。そこに提案できないか?
-敷居の高いコミュニティへの「入って行き方」としての祭。ワークショップから人々を巻き込む可能性
・「つくりもの」の敷居の高さ
-日頃、手を動かさなくなった学会員の勘を取り戻す機会となる
-一方、「綺麗につくりたいから」「器用じゃなから」と、参加に二の足を踏む日本人的な意識
-「作り方が分かりやすい」「入りやすい」ものとして、花笠作りのような入り口も必要
・もしWSとして展開する場合の課題
-対象年齢を設けるのか?
-千代田在住者から、子どもを中心に展開したいという意見も
-文化資源学会が直接に子どもワークショップの指導をするというのは難しいか
-今回のように、実技系の学生に講師をお願いできないか
-子育てを経験した学会員が活躍する可能性
-ワークショップをやる場所。神田明神や3331は場所として魅力的
-大学と中学が連携した例がある。大学で開発したロボットを、大学生院生の協力でつくっている
・附け祭はいまのところ、踊りや鳴り物が弱い
-熟練者の手を借りる?深川バロン倶楽部など?
-学会はそのための舞台を準備する?例えば、「底抜け屋台」
・祭の体制、連絡会議的なものをつくる
-学会内で多極的に動ける体制
-学会の外と連携する体制
-氏子じゃない組織が間に入る体制がよいか?
-地域の学校との協力、場所や活動の広さ
-一方で学校特有の難しさ(スケジュールのタイトさなど)もある、バランスの設計が必要
・神田の氏子コミュニティーの入り口としてのワークショップ
-特に子どもの参加の入り口
-子どもについてくる親の参加も期待できる
-文化資源学会としてはどんな役割を果たせるか?
・個人と組織のバランス
-個人で創作性が燃え上がるおもしろさ
-組織として統率を取る必要性
3.研究会を終えて
今回の研究会は、2014年末から2015年5月の祭本番まで約半年に渡って展開してきた「神田祭附け祭に向けたつくりもの連続ワークショップ」を振り返り、2017年へと繋げるための会合となった。後半のディスカッションでは、つくりものへの反省と共に、「何をやるか」よりも「どうやってやるか、学会としてどう動くか」に関する意見が多かった点が印象に残る。もちろん新しい発想で附け祭りの出し物を企画し、楽しく神田祭を盛り上げていくことも重要である。しかしやはり「盛り上がっただけ」で終わらず、その成果をどう神田祭にまた神田の地域に還元していくのか、学会として次につなげていくのかを考えなくてはならない。このことを改めて考えることができた研究会であった。
さて、2013年から2年にわたって活動してきた文テクも、文化資源学学会10周年記念行事として始まった「文化資源学の展望プロジェクト」としては、次回が最終回となる。江戸時代に作られた記録テクノロジーである江戸図・江戸城図と、神田祭の行列戸をコラボレーションさせ、実際に江戸城(皇居周辺)を歩く、最終回にふさわしい企画を準備中である。どうぞ、ご期待いただきたい。
研究会記録:鈴木親彦
文責:中村雄祐・鈴木親彦
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