物理情報工学の歩き方
私どもが所属する学科は, Applied Physics and Physico-Informatics です.
その研究対象は学部で修得する物理や化学に分類された知見のみでは
評価が難しい程度に広範囲ですのでスタッフもすべてを理解できるわけではありません.
とはいえ卒業論文, 修士論文, 博士論文に主査/副査として関わる職業ですので
物理情報工学関連分野の研究に対して, 評価基準を作る上で参考としている文献を列挙します.
----プレゼンテーション技法を控えた学生向けのコメント---
0. 要綱の文章構成
部・章・節・小節・小々節を意識して書くこと.A4 1 ページ二段組の文書の場合は, 章と節により構成される場合が多いです.
段落の前に, 半角スペースを開けることを徹底すること.
【重要】 学生実験でのレポート作成は, この技術を磨くためのものです.
1. MS wordは文書校閲の機能を持っています.
http://office.microsoft.com/ja-jp/word-help/HA010370561.aspx
Office2007の場合,
"校閲 -> 変更履歴 -> 変更履歴の記録etc"
と操作すると, 変更前後の変化と校閲者コメントを見れるようになります.
研究や開発は複数の団体に属する研究者・技術者間で文書(原著論文や特許など)の推敲を行ない,
文書責任を共有した状態で, 進捗させる必要があるので, このような文書処理には早くに慣れることを勧めます.
2. 実験方法の示し方
初学者にとって, 実験方法・原理をどこまで深く理解し, どこまで説明すればよいのか, わかりずらい部分があります.
他者に説明する場合は, 評価者(聴者)の知識に合わせ, 過不足なく説明する努力をする必要があるでしょう.
例えば, 私ども研究室では必須となる粉末X線回折装置(XRD)は以下に示す言葉の意味を
他者(とりあえずは物理情報工学科の大学4年生全員)に説明可能な状態で発表に臨む必要があるでしょう.
e.g.
2θ-θの集中光学系(Bragg-Brentano-Geometrie)
線源の特性X線の波長, 発生原理, 出力(単位は?)
ゴニオ径の具体的な大きさ(単位は?)
シンチレーションカウンター(原理は?計数効率(量子効率)は?)
ラウエの条件式とブラッグの条件式の関係
XRDパターンの解釈の仕方(定性分析: 結晶相同定, 不純物同定, 定量分析: 格子定数, 局所構造解析, 不純物量の定量etc)
スライド作りの一助となると幸いです.
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四の五の言わずに読むべき文書
A more fundamental System of Units (David B. Newell, Physics Today 67(7), 35 (2014))
熱電変換のおすすめ勉強ステップ
0. "NASA deep space exploration: Jeffrey Rusick at TEDxElonUniversity"
1. 英語版 wikipedia "Thermoelectric materials" を熟読
4. 目標とする研究者 例. Jeff Snyder@Cal. Tech.
高温超伝導体のおすすめ勉強ステップ
0. "超伝導の人間くさい科学: 高野義彦 at TEDxNagoyaU"
1. 英語版"wikipedia" Superconductivity
2. 英語版"wikipedia" High-temperature superconductivity
4. Superconductivity in iron compounds (G. R. Stewart, Rev. Mod. Phys. 83, 1589 (2011))
磁性体のおすすめ勉強ステップ
1. 磁性に使用する単位系
2. 英語版"wikipedia" Zeeman effect
3. 英語版"wikipedia" Paramagnetism
4. 英語版"wikipedia" Ferromagnetism
7. Mod-01 Lec-26 Band Magnetism; Itinerant Electrons; Stoner Model
重い電子系(希薄磁性→近藤格子系)のおすすめ勉強ステップ
0. 近藤効果 ("Resistance Minimum in Dilute Magnetic Alloys" by J. Kondo)
1. 近藤格子系("Magnetic and Semiconducting Properties of SmB6" by A. Menth, E. Buehler, and T. H. Geballe)
7. 二次元強磁性Kondo Lattice, CeTMPO TM = Fe, Ru, Ni etc
分光全般
Optical Spectral lines (See Natural line width & inhomogeneous width)
Isidor Isaac Rabi (Rabi oscillationの由来となる人物)
Diffraction (回りこんで生じる.)
Scattering (相互作用で生じる.)
素粒子な物理
ナノ構造成長
Stranski–Krastanov growth (SK成長)
トポロジカル絶縁体(Topological Insulator)という"概念"に関するコメント
○ Biなどで, (金属で生じる)パウリ常磁性磁化率を打ち消す巨大な反磁性磁化率が生じることは現在までに良く知られている.(↓お勧めのレビュー)
"Transport Properties and Diamagnetism of Dirac Electrons in Bismuth" (Y. Fuseya et al, 2015)
現在は, この現象は巨大なスピン軌道相互作用に起因するバンド間で生じる(= 不純物散乱の影響を受けない!) Dirac electrons の影響と説明されている.
すなわち, 表面由来の性質では"なく", バルクの性質として扱われている.
○"物質の内部は絶縁体でありながら、表面は電気を通す"物質の概念はある.
しかしながら, この概念は具体的な化学物質は示さない.
提唱者の例
この文書によれば特定の化学物質を示していないが, "Consider the tight-binding Hamiltonian of graphene"
とあるように厳密な二次元電子系であるグラフェンのような表面の電子状態を示し, かつ絶縁性の固体で存在が予測される電子状態のことである.
注1. グラフェン自体の電子状態は, いわゆるバンド理論で説明可能であるので, トポロジカル絶縁体は, もう少し突っ込んだ概念である.
注2. 実験的にグラフェンで観測される電子は有限な有効質量を持つ上に, グラフェンをバルクとすると黒鉛なので, グラフェンもTopological insulator と等価ではない.
注3. グラフェンを絶縁体である h-BN 上に成長させた構造は既にあり, これは電子の挙動のみに着目(=化学種を無視)すると, 近い電子状態かもしれない.
e.g. Massive Dirac Fermions and Hofstadter Butterfly in a van der Waals Heterostructure
注4. ただし, ↑の著者らは"topological insulator"という単語は使用していないので, 別物らしい.
注5. Bi2Te3などを, Topological insulatorとして研究している方に聞くと, unit cell 2-3層の表面の物理らしい.
○トポロジカル絶縁体のエネルギーバンド構造(波数分散)は特徴的であるので,
実験的には角度分解光電子分光による単結晶のへき開面の観察と深さ方向による電子構造変化の観察が, 信頼性の高い検証方法である.
例えば, Stanford大学のZ. X. Shenは50年以上前から熱電材料として知られるBi2Te3をtopological insulatorに近い物質として報告している.
e.g. Experimental Realization of a Three-Dimensional Topological Insulator, Bi2Te3
注1. バルクのBi2Te3はバンドギャップ 0.15 eVの(縮退)半導体であり,
古くからあるバンド理論でよく説明されているので, バルクの熱電性能を明らかにする立場では,
トポロジカル絶縁体に関する可能性の議論を行うことは, 過剰見積になる.
注2. MBE等で, 表面/界面の寄与が輸送現象に観察されるようにな実験には関係するかもしれない.
○単結晶で綺麗な結晶面に端子付が可能な状態ならば, 表面のみに関する実験的な検証は可能である
○元々は素粒子分野にてEttore Majoranaさんが
"電気的に中性な素粒子"="いわゆるMajorana Fermion"
E. Majorana, Nuovo Cimento 14, 171 (1937).を予測した.
Majorana粒子の状態が固体の電子において生じているとの説もある.
○ "トポロジカル絶縁体 発見"でGoogleを検索すると
古くからある化合物(≠化学的な意味での新物質)の表面の電子状態を理論的に示し, かつ実験的に光電子分光で
表面とバルクの電子状態を観察し, 証拠としている報告が多い.
"トポロジカル絶縁体の概念の適用が可能である物質例"の報告として読むと初学者の混乱は少ない.
初学者が変な質問された時に, まず考えるべきこと(質問者に悪意が無くとも, 起こりえるので一読されたい↓)
量子計算
TEDxCaltech - Charlie Marcus - Nanoelectronics and Quantum Computation
実験計画全般(どちらかと言えば工場のプロセス管理)全般
STATISTICAL METHODS FOR RESEARCH WORKERS (Ronald Aylmer Fisher)
最尤推定(さいゆうすいてい)等, よく出てくる話題
Maximum likelihood (wikipedia)
Cauchy distribution (= Cauchy–Lorentz distribution), wikipedia
計測制御について
制御工学の考え方 産業革命は「制御」からはじまった (著者: 木村英紀)
カルマンフィルタについて
The Seminal Kalman Filter Paper (1960)
An outlier-robust Kalman Filter (Agamennoni, et al, 2011)
バッテリーのState of charge (SOC)推定関係