大槻 俊明 博士

指導教員名笹原 弘之   

現在の所属:東京農工大学大学院工学府 大学院研究生       

 修了年度2018年9月   

博士論文のタイトル :CNC工作機械の高速高精度性の評価方法と向上手法

博士論文の内容 

内容は主に次の3テーマから成ります.
1) CNC 工作機械の運動誤差をより正確に測定する方法:工作機械の2軸の運動を正確に測定する方法として,内向法と呼ぶ方法を開発した.(学位(博士)論文,第2章)
2) CNC 工作機械の性能(高速,高精度性)の評価方法: 工作機械の2軸の運動性能を評価する方法として,速度・誤差2次元表示の方法を提案した.さらに,直進軸と回転軸の2軸の運動誤差を評価する方法に拡張した.(学位(博士)論文,第3章,第4章)

3) CNC 工作機械によってより高速,高精度に加工する指令プログラム作成方法:プログラム作成において,適切に小さい弦誤差(トレランス)とすることにより,より高速,高精度の加工となるプログラム作成方法(最小限誤差法と呼ぶ)を開発した.(学位(博士)論文,第5章) 

博士後期課程に進学しようと思った理由 

 私は,一般の学部→博士前期課程→博士後期課程と進学した者ではありません.65歳で企業を定年退職したあと博士後期課程に入学した者です.

 2016年6月,企業を定年退職したときに思ったことは,「企業内ではそれなりに自分の能力をかけて仕事をしてきたが,企業としての業績はあっても(特許など一部の例外を除いて)自分の名前の残る業績はない.何か自分が生きて来た証のような,自分の名前の残る仕事をしたい.それもできれば自分だからできるという仕事をしたい.そのことにより,ささやかでも世の中の役に立てればうれしい」ということでした.

 そこで,大学院博士後期課程に入学し,研究し論文を書き博士(工学)の学位を得ることを考えました.入学する大学院研究室としては,過去の論文などを調べて,「この研究室なら自分の経験や知識を生かした研究ができるのではないか」と考え,東京農工大学大学院の研究室(機械システム工学専攻,笹原研)に 2016 年 10 月入学させていただいたものです.  

博士後期課程に進学して良かった事 

 上述のように,私は博士前期課程から進学した若い方とは違い,企業を定年退職して博士後期課程に入学した者です.その観点から述べさせていただきます.

研究生活においては,自由に自分のやりたいことができ,大変楽しいです.もちろん自分の四肢の届く狭い範囲の自由ではありますが,自由に考え行動できることはとても楽しいことです.「次はこういう実験をすればいいのではないか」とか,「この実験結果について,この指標とこの指標はこういう関係にあることを示しているのではないか」とか,いろいろアイデアやイメージが湧いてきます.アイデアやイメージに基づいて研究を進め,学術誌への投稿論文が掲載されたり学位(博士)論文としてまとめることができたときは,博士後期課程に入学して良かったと思いました.

また,研究過程で新しい知見に遭遇するとうれしいです.ごく小さなことであっても,世界中で自分が一番先に発見したということは喜びです.さらに,小さな研究成果であっても産業界に役立つことができればより一層うれしく思います.自分の研究も少しは世の中の役に立ったかなという満足感が得られます.

 博士後期課程在籍中に印象に残っている出来事 

 研究においては,外部の企業や大学にも様々な実験に行きました.私のような高齢者にも皆さん親切で協力的でした.そのような沢山の方々にお世話になりながら研究を進め,学術誌への論文や学位論文としてまとめることができました.また,研究の過程で学会発表や学外の研究会での発表なども行い,いろいろな人々と交流を深めることができました.

博士後期課程進学を考える方にメッセージ 

 東京農工大学は,社会人や定年退職者にも広く門戸が開かれており,私の在籍する研究室にも社会人として働きながら博士後期課程に入学して研究しておられる方が多くいます.特に社会人の方は,博士号を取得するとこれからの人生において大きなアドバンテージにもなると思います.また,人の長寿命化にともない,定年後も第2の人生として研究活動ができる時代になってきていると思います.働きながら博士号を得ることを考えておられる方も、これから定年退職を迎える方も,博士後期課程で研究し博士号を取得することが人生における大きなチャレンジ,財産となるのではないでしょうか.